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    pypy_ym

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    pypy_ym

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    多分完成させない性癖のやつ
    ユキモモ

    「ただいま」
     久方ぶりの外出だった。
     普段はメールや通話アプリを通してのやり取りで仕事を進める千斗だが、今回の仕事は前々から千斗が尊敬しているアーティスト直々の依頼ということで、いつもは面倒極まりない会議にも積極的に顔を出した。向こう側も千斗を気に入ってくれ、音楽の話でもどうだ、と食事に誘われたのが今日のこと。同居人には遅くなる、と連絡を入れ、酒も食事も放って音楽の話に花を咲かせた。
     帰宅した千斗を冷たい部屋が迎え入れる。
     時計が日付変更線を跨ごうとしているこの時間、一般的な会社員である同居人が帰宅していないとは考えにくく、また、彼の性格上、このくらいの時間ならば起きて千斗の帰りを待っているだろうに、存在するのは暗く冷ややかな部屋。千斗は大股で部屋に入り、同居人の彼を探す。
     彼はリビングのソファに横になっていた。
     常は明るく朗らかな表情はすとんと抜け落ち、瞬きを繰り替えす瞳には生気が見られない。帰宅したその足で倒れ込んだのか、彼はスーツ姿のままだった。
    「モモ」
     屈み込み、彼の視線の上に自分の姿を置いて名前を呼ぶ。瞳がくるりと動いた。モモーー百瀬は手を重たげに上げる。その手を取って千斗は百瀬を抱きしめた。
    「ごめんね、寂しくさせちゃった」
    「あ……ぅ……」
     百瀬の唇から漏れる意味をなさない音を塞ぐようにキスをする。何度も何度も、啄むようなキスを繰り返す。
    「モモ、モモ」
     キスの合間に名前を呼び、彼の心を取り戻すために強く身体を抱きしめた。
    「愛してるよ、モモ」


     ドール、と呼ばれる性質を持つ人々が居る。
     その性質が表れる法則性は、彼らの存在が明らかになった数百年以上前から謎に包まれたままだ。
     彼らについて分かっているのは彼らが人を愛し、人に愛されなければ生きていけない存在であるということ。
     ドールの性質を持つ者は所有者が居て、はじめてその性質に振り回される。
     一つ、所有者に無償の愛を与える。
     一つ、所有者からの愛を感じられなければ、放心状態を経て心神喪失。最悪の場合死に至る。
     彼らの与える愛情というのは非常に危なっかしく、所有者のためならば何をも厭わないという狂気を秘めている。故に、ドールを所有する、ということは所有者側にも強い理性と制御が求められる。
     欧州で存在が確認されて以来、ドールを巡った犯罪は後を断たなかった。ドールを利用して悪事を働く者、ステータスとしてドールを所有し、飽きればドールを死に至らせる者。何度も法が改編され、ドールにまつわる犯罪は減少している。そういった歴史の上に、現在ではドールという呼称は用いられることが嫌われていた。日本における正式な呼称は『心理性相互愛症』だ。
     ドールは所有者を選ぶ。
     ドール本人がその人間を愛し、所有者が求めることで関係は成立する。一度発露したドールとしての性質は抑えられないため、その関係は一生に渡って続く。
     愛し愛されなければ生きていけない彼らの見分け方、それは身体に表れる球体関節の痣だ。


     カーテンから漏れる光に、百瀬は目を覚ました。
     寝心地のいいベッドは百瀬が身体を起こしても軋み一つ上げることがない。掛け布団一つとっても滑らかで、いかにも睡眠に拘る人間の寝床だ。それが己の所有者、千斗のベッドであることはすぐに気がついた。
    「あれ……」
     百瀬は記憶を辿る。昨日は帰宅して、千斗から入った連絡を見てーーそこから、記憶が途切れている。
     やってしまった、と、百瀬は失態に頭を抱えた。素肌の上を掛け布団が流れていく。
     とにかく時間を確認し、間に合うなら出社、遅刻ならば急いで連絡を入れなければ、とベッドから抜け出そうとする腰を何者かが抱きしめた。
    「ユキ……」
    「どこ、いくの」
    「時間見て、会社行かないと。離してよ、ユキ」
    「嫌だ」
     腰を抱きしめたままの千斗が寝起きでぼんやりとした目で百瀬を見る。ぼんやりとしながらも、そこには切実な感情が宿っていた。
    「行くな」
     強い命令口調に込められた愛情が百瀬の胸を巡る。それでも、社会人として最低限の義務を果たさなければならない。
    「大丈夫だよ。ユキにちゃんと愛してもらったから」
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    pypy_ym

    MOURNING多分完成させない性癖のやつ
    ユキモモ
    「ただいま」
     久方ぶりの外出だった。
     普段はメールや通話アプリを通してのやり取りで仕事を進める千斗だが、今回の仕事は前々から千斗が尊敬しているアーティスト直々の依頼ということで、いつもは面倒極まりない会議にも積極的に顔を出した。向こう側も千斗を気に入ってくれ、音楽の話でもどうだ、と食事に誘われたのが今日のこと。同居人には遅くなる、と連絡を入れ、酒も食事も放って音楽の話に花を咲かせた。
     帰宅した千斗を冷たい部屋が迎え入れる。
     時計が日付変更線を跨ごうとしているこの時間、一般的な会社員である同居人が帰宅していないとは考えにくく、また、彼の性格上、このくらいの時間ならば起きて千斗の帰りを待っているだろうに、存在するのは暗く冷ややかな部屋。千斗は大股で部屋に入り、同居人の彼を探す。
     彼はリビングのソファに横になっていた。
     常は明るく朗らかな表情はすとんと抜け落ち、瞬きを繰り替えす瞳には生気が見られない。帰宅したその足で倒れ込んだのか、彼はスーツ姿のままだった。
    「モモ」
     屈み込み、彼の視線の上に自分の姿を置いて名前を呼ぶ。瞳がくるりと動いた。モモーー百瀬は手を重たげに上げる。その 1735

    pypy_ym

    MOURNING夫婦漫才のはじまりについて考えてみたやつ。「前から聞きたかったんだけど、君たちのあの路線、どうやって決まったんだ?」
     心の底から疑問だといわんばかりの万理の声が、千と百の鼓膜を刺激する。あの路線、というとまあ間違いなく夫婦漫才ネタのことだろう。万理とやっていた時の千は間違ってもあんなネタに乗る人間ではなかった。それが百と組みはじめて、イケメンだとかダーリンだとか呼ばれて微笑むようになっている。
     千は意地悪くにやにや笑って万理を見据える。
    「万、僕たちが出てるテレビは全部見てたって豪語してなかったっけ?」
    「気付けばああなってたろ。裏話を聞きたいんだよ」
    「へぇ」
     ちらりと百に視線をやった千は、「あれって結局どっちなの?」と百に確認を取るような言葉を発し、百はうーん、と腕を組んで悩みはじめた。
    「原因はオレで、発破をかけたのがおかりん、って感じ? 最終的にゴーサインだしたのもおかりんだったじゃん。ユキが嫌ならやめるつもりだったけど、ユキは乗ってきたし」
    「僕とモモとおかりんの総意だよね」
     おかりん、Re:valeのマネージャーである岡崎凛人の名前が出て万理は目を瞬かせる。小鳥遊事務所のIDOLiSH7のマネージャー、小鳥 3088

    pypy_ym

    MOURNINGユキモモの見た目をこれでもかと描写したかったアイドルにとって見目というのも才能の一種である。
     生まれ持った容姿や体格、そういった努力ではどうしようもないものがオーディションやスカウトで重視され、どれだけ手を伸ばしてもアイドルという夢を掴めない人間はごまんと居るのだ。
     そういった点で、目の前で優雅にワインを口にする千という男は才能に恵まれている。
     メンバーの天から、見た目で得をしていると言われる楽をもってしても、彼が持つ天性の美貌には敵わないだろう。
     切れ長の目に宿ったブルートパーズの瞳は存外に表情豊かで、歌唱、ダンス、演技において華を持たせる役割をしている。左目の下にある泣きぼくろは彼の端麗な顔立ちに色気を添え、高い鼻も、薄い唇も、黄金比としか表現できない配置で千の顔を作っていた。
     しかし、一度口を開けば笑いのツボは浅くて妙な場所にあるし、言動はやや社会性と協調性に欠ける。同じ空気を共有している大和が哀れな犠牲者になる場面を、楽は何度も見てきた。
     立ち上がればモデルのような姿勢の良さと、美貌や長髪に隠れて分かりづらい男らしい体格。外国人さながらの長い脚。しかし、千がその容姿を褒められて喜ぶのはたった一人に限定されてい 2504

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