悪気はなかったんだ、さあ森へお帰り「お、カブトムシ」
道路に落ちていたうごうごしてるそれ。車に轢かれそうな場所に居るから、エドがちょっと急ぎ足で捕まえに行く。
「グラントシロカブトっつーんだよ、カッケーよな」
「そうなんだ、詳しいね」
エドの掌に乗せられたそのカブトムシは雄で、角をツンと上げたまま動かない。すると、エドが徐ろにその手をこっちに寄越した。
「触ってみるか?」
「え…?い、いや…大丈夫」
確かに上から見てる分には可愛いと思う。コロンとしたフォルムとか。ただ、どうしても裏側がなぁと思うから、首を傾げるエドから二、三歩後退った。
「カブトムシ、こえーのか?」
「怖いってわけじゃなくて」
ここで気持ち悪いと言うのは申し訳なくて言い濁していると、エドはカブトムシの背中を持ってこっちに向けた。裏側がうごうごしてる。目にするのが耐えられなくて顔を背けた。
「ご、ごめん、ちょっと…あの……」
「何もしねーよ?ほれ」
ほれ?ほれってなに?ほれ?そう疑問に思ったのは束の間で自分の肩に乗ったカブトムシと目が合った。
「うわあああああああッ」
早く取ってと叫んだけど突然の阿鼻叫喚におったまげたエドが固まっている。涙が出た。
「取ってエド早く早く早く取って」
「ぉ、おう…」
カブトムシは無事にエドの手に戻り、翅を広げて青空へ飛んでいった。ゼェゼェと息を切らしているとエドがしょんぼり顔を浮かべる。
「何かごめんな」