橙色の間接照明が互いの肉体を柔らかく彩っていた。ヘヨンは最近の若者らしく健康志向で意外と鍛えているが、今までのジェハンには改めて見る機会はなかった。恋人として何度も夜を共にしていても、こうまじまじと見ることはジェハンの性格上できなかった。しかし、今日は目を逸らしていてはいけない。橙の灯りに照らされた顔は、出会った頃のようなあどけなさを隠し、壮年らしい精悍さを湛えていた。鍛えられた筋肉は胸筋から肩まわり、上腕にかけてしっとりとした張りと丸みを帯び、武道をしている人間とはまた違った包容力を感じさせた。
旅行を計画するような余裕もなく降って湧いた突然の長期休暇に、家でできることとして年甲斐もなく行き着いたのがポリネシアセックスというものだった。年下の恋人の手前知らないふりをしたものの、ジェハンも聞いたことはあった。干支が二回り近く離れた、もはや親子のような年齢の若者と恋人になるにあたって、多方面に不安が尽きることはない。多少なりとも刺激になり、若い欲を満足させてやれるのであれば、好都合だと了承した。
今日から始めようと決めていたはずなのに、伸びに伸びたナイター中継に付き合い、床に入ったのは予定よりずっと遅い時間だった。口は聞いていいはずだが、二人してわかりやすく口数は減っていた。ヘヨンは眠気なのかもしれない。ジェハンには一向に訪れそうにはないものだ。
「……寒くないですか?」
掛け布団をふわりとジェハンの肩へとかけ、「これはルール違反じゃないですよね」と悪戯っ子のように笑う顔に、ジェハンの緊張も少しずつ解れていく。
——1日目は30分間お互いを見つめたあと、抱きしめ合うだけ
ジェハンもヘヨンのことを見つめなくてはいけないが、ヘヨンの方からも見られている、ということだ。上半身を彷徨う視線は一向に顔まであげられず、ヘヨンの目線は確認できない。
「……なんだか緊張しますね」
ぽつりと落とされる言葉は、やめますかとは続かない。ジェハンの方からこんな馬鹿げたことはやめようと言ってやるべきなのかもしれない。しかし、ヘヨンの声には、言葉にあるような緊張も、ジェハンの危惧する呆れも見られなかった。それよりもなんだか、わずかに熱を帯びているような気さえする。
「ジェハンさん、いいですか」
掛け時計を見上げると、30分が経っていた。布団の上で距離を縮めたヘヨンの手が伸び、ジェハンを抱きしめる。ヘヨンの腕が広い背へとまわされ、代わりにブランケットが滑り落ちていく。お互いのどきどきと脈を打つ鼓動と、同じように上がった体温のおかげで、もう肌寒さは感じなかった。