Episode名無し鬼+待雪
鬼雪
「……待や、待雪」
呼ばれた。鬼様の声。
ふっと意識が浮上し、鬼様の元へ駆けつける。
「はい。待雪はここに居ります」
廊下を走ってはならぬよ、転んで怪我をしてしまうから。
大きな声で返事してはならぬ、喉が枯れてしまうから。
鬼様に教えられたことを守りながら過ごす日々。
父と暮らしていた頃はどうだっただろうか?
あまり思い出せない。
「新しい菓子が手に入ったでの。お食べな」
鬼様は待にお菓子をよくくださる。
今日のお菓子は少し大きい。どう食べようかと思案していると気づいた鬼様が細かくしてくださった。
その大きな手に撫でられながらお菓子を頬張った。あまいあまいお菓子。
ーーー鬼様があまいお菓子というから、これはあまいお菓子だ。
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