Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    機関獣

    さにちょもとさにいち置き場

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 23

    機関獣

    ☆quiet follow

    男審神者cp週替わりお題企画
    第10回『会いたい』
    #刀とあるじ攻め
    黒識本丸さにちょも。待つのが怖くなったちょもの話

    #さにちょも

    待つより供を 執務室の外を落ち着きなく歩き回る音がする。
     音の主は出来るだけ音を立てないように努力しているようだが、太刀の人の身の音は隠せない。
     しかも冷静さを欠いているのなら尚更。
    「ちょもは連れてくの?」
     髭切の問いかけに、識は首を振る。
    「契約が切れた後でも『いたい』とは言われたがこれは僕らの問題だ」
     時の政府の目を掻い潜り、他の本丸を襲撃する。
     拐われ黒本丸に送り込まれた民を奪還する為に、出陣する。
     異なる世界に漂着した使い古しの本丸は、時の政府の管理から外れているので「何が起きても」追跡出来ない。
     存在しない、廃棄されたはずの本丸から襲撃されたとは誰も思わない。
     黒獣に顕現された刀と、訳ありの南泉と長義は元政府所属であったのに己の意思で襲撃に手を貸している。
    「僕は仮初の主だからね」
    「ちょもは仮初とは思ってないよ」
    「いや、仮初だ。僕は中継に過ぎない」
    「それちょもにも言ったの?」
    「契約の時にも、つい先日も」
    「ちょも嫌いなのかい」
    「嫌いじゃない、むしろ逆だ。
     妙な言い方になるが初恋、に相当するのがあいつだ」
     子供の頃に、未来の山鳥毛に会ったらしい、というのは察している。
    「だけど山鳥毛は僕以外を選んだのが確定しているから」
     準備の手を止めず、識は言った。
    「小鳥、という見た目じゃないからな僕は」

     山鳥毛の記憶している限り、これは3度目の異様な出陣だった。
     刀と共に出陣する主は、まぁ珍しくはない。
     珍しくはないが、いつ戻るかわからない、行先を教えない出陣は、ありえない。
     管狐に聞こうにもこの本丸には存在しない。
     最初の出陣の時は、山鳥毛は識と契約したばかりだった。契約をし、本体を取り出し手入れする事を許したが、失われた四肢は回復しなかった。性交で不足を補えば回復するかもしれない、とわかったが山鳥毛が拒否して膠着していた時だった。
     訳あって皆で出陣して本丸に誰もいなくなるが、その間世話人を置くかと聞かれ、不要だ、と。数日かもしれないが、長引くかもしれないが大丈夫か、と重ねて聞かれたが拒否をした。
     数日どころか10日以上経っても戻って来なかった。山鳥毛以外の刀は全て同伴していたので、厄介払いで捨てられたのかと思う程。
     更に10日経っても誰も帰って来ない。捨てられた、にしても契約した主との糸は繋がっている。本丸を維持している黒獣の糸もある。死んではいない。
     それからは少し不安になって契約の糸が繋がっているのを確認するのが日課になった。
     朝が来ると糸が繋がっていることに安堵した。
     回復させてからなら、好きに出て行ったのに。
     次戻って来たなら、嫌だが性交に応じる。
     動けるようにならなければ。
     結果、ひと月以上経過してからまずは他の刀が、それから更に1週間遅れてようやく識に会えた。
     顔を見たらまず文句のひとつでも、と思っていた山鳥毛は困惑した。髭面と目の隈と血の匂い、見た事のない男だと思った。
    「忙しくて剃る暇がなくてな、長引いてすまなかった」
     声を聞くまでわからなかった。
     仮初とはいえ主がわからなかった事を恥じて、溜めてた文句は飲み込んだ。
     とはいえ必ず伝えよう、と思った言葉が刺々しくなってしまったのは仕方ないが。
    「さっさと終わりにしたい。
     覚えていたくもないから、私は寝ている間にでも抱け」

     2回目は、山鳥毛に特がついたばかりの時だった。
     山鳥毛は飲み食いを拒否し、他の刀や識との関わりも最低限にしていた。出陣以外は自室として与えられた離れに引きこもって出てこない。
     練度を上げて上限になり、契約を終わらせる事で頭がいっぱいだった。
     この本丸がおかしい、事に気づかなかった。
     丑三つに山鳥毛のいる離れに来た識は、1回目の時のように伝えた。
     1回目の時は四肢もなく寝たきりだった山鳥毛だが、今は手足があってその気になれば出て行く事が出来る。
     戻って来るまで離れから出るなと結界をはられた。
     留守の間に何かしでかす、と思われたのが癪に触ったが、将として見れば当然と諦めた。
     結界を張るとすぐに出陣して行った。
     この時は、当日の夜に戻ってきた。
     識を除いて。
     結界は解除されたが識はいない。
     気を紛らわすように出陣はあるが、識の見送りも出迎えもない。
     他の刀と黒獣の様子を見ると、共に帰還しているはずなのに。
     それが1週間続いた。
     どういう事なのか知ろうとしても、もう1人の審神者である黒識は緘黙で声を出さず、説明がない。聞けばそれでも答えはくれるだろうが、山鳥毛はどうもこの審神者が苦手だった。  
     虎の時はまだ表情があるが、人に近い姿の時は表情がない。その癖光の加減で色の異なる目で全てを見透かしているようで。神に近い何か、というのは肌でわかる分余計近寄り難い。
     ならば自分で調べるか、と本丸を探索して初めて知った。
     黒獣も識も通いの審神者で、ここで寝泊まりはしない。朝と晩は外で食べ、本丸では昼食のみ。
     その昼食も本丸では時々しか作らず、刀も交代で連れ立って外に食べに行っている。
     山鳥毛が回復するまでは、識は世話の為だけに滞在していた。
     そんな識が伝言も寄越さず不在のまま。
     黒獣には聞けないが、ならばと廊下で南泉を捕まえた。
    「主はどうなった」
     小鳥、と呼ばず審神者と呼び捨てにしていた山鳥毛が「主」と呼んだ事に南泉は不意をつかれ、隙が出来た。
    「ちょっと……怪我して……それで留守にしてる、にゃ」
    「ちょっと、ならばあと1週間もすれば戻るのだな」
    「それは……」
    「出陣で何があった」
     口籠もる南泉。
    「私の主に何があった」
     南泉は答えない。
    「子猫」
     一文字の長としての圧をかけても無言。
    「猫いじめちゃダメだよ」
     間伸びした声が乱入した。
    「怪我したのは本当。ちょっと障りがあったから、それが落ち着くまで待ってるだけ」
    「あの主に障れるとは思えないのだが」
     堕ちかけ半ば狂っていた山鳥毛を相手に、被害を出さなかった。悉く防いで、頭が冷えて落ち着くまで根気強く世話をした。
    「うん、そうだね。
     識は自分で防いだけど、防御が強すぎて反動出ているだけだから」
     髭切に言葉に南泉が頭を抱える。
    「会っても僕の主以外誰もわからなくなっているから」
    「…………………」
    「だから待つしかないよ」
     待つしかなかった。
     付き合いのある他の刀もわからないなら、必要最低限、の関わりしか持たないならどうなるのか。
     不安になった。
     仮初の主なのに、主に認識されなくなる、のが怖くなった。
     早く会いたい、顔が見たいと望むようになった。
     識が本丸に戻ってきて、名前を呼ばれた時は心底ほっとした。
     それからは出陣のない日は識の顔を見に執務室へ出向くようになった。
     用が無ければ声をかけるな、と山鳥毛が宣言した事を識は守っている。
    「何か用か」
    「用などない」
    「そうか」
     短い会話の後に執務室に居座る山鳥毛。
     互いに無言だが、悪くなかった。
     
     2回は戻ってきてくれたが、3回目も無事に戻って来てくれるかわからない。
     識の傍にいたい、と望んだ山鳥毛には耐えられなかった。
    「帰ってくるから心配するな」
    「もし僕に何かあっても、もう大丈夫だろう」
    「好きなところに行くといい」
     今回は自分も出陣する、譲るつもりはない。
    「識は鈍感だから気づかないよ」
     執務室から出てきた髭切の言葉。
     ならば何度も言葉にする。
    「私は識の刀で初期刀だ。
     ならば行先が地獄であっても供をする」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤🙏👍❤❤✨💗❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも

    審神者の疲労具合を察知して膝枕してくれるちょもさん
    飄々としてい人を食ったような言動をする。この本丸の審神者は言ってしまえば善人とは言えない性格だった。
    「小鳥、少しいいか」
    「なに」
     端末から目を離さず返事をする審神者に仕方が無いと肩をすくめ、山鳥毛は強硬手段に出ることにした。
    「うお!?」
     抱き寄せ、畳の上に投げ出した太股の上に審神者の頭をのせる。ポカリと口を開けて間抜け面をさらす様に珍しさを感じ、少しの優越感に浸る。
    「顔色が悪い。少し休んだ方がいいと思うぞ」
    「……今まで誰にも気づかれなかったんだが」
     そうだろうなと知らずうちにため息が出た。
     山鳥毛がこの本丸にやってくるまで近侍は持ち回りでこなし、新入りが来れば教育期間として一定期間近侍を務める。だからこそほとんどのものが端末の取り扱いなどに不自由はしていないのだが、そのかわりに審神者の体調の変化に気づけるものは少ない。
    「長く見ていれば小鳥の疲労具合なども見抜けるようにはなるさ」 
     サングラスを外しささやくと、観念したように長く息を吐き出した審神者がぐりぐりと後頭部を太股に押しつける。こそばゆい思いをしながらも動かずに観察すると、審神者の眉間に皺が寄っている。
    「や 1357

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    寝起きの身支度を小鳥に邪魔されるちょもさん

    #さにちょもいっせーのせい
    こちらのタグに参加させていただいたときのもの
    まだ空が白んでまもない頃、山鳥毛はいつもひとり起き出している。それがただ枕を並べて寝るだけでも、体温を混ぜあって肌を触れ合わせて眠る日も変わらず審神者より先に布団を抜けだす。
    今日もまたごそりと動き出した気配に審神者は目を覚ました。

    「こんな朝から、なにしてんだ……」
    「……起こしてしまったか、まだ日が昇るまで時間がある。もう少し眠るといい」

    そういって山鳥毛が審神者の短い髪を撫でるとむずがるように顔をくしゃくしゃにする。やはりまだ眠いのだろうと手を離そうとするとそれを予見していたかのように手が捕まえられた。

    「おまえも、ねるんだよ」
    「だが、身支度が」

    山鳥毛の戦装束は白銀のスーツにネイビーのシャツと普段の手入れが欠かせないものだ。
    彼が巣と呼ぶ本丸を統括する審神者たる小鳥の隣に並ぶならば、いついかなる時も気の抜けた身なりではいられない。それが前夜どれだけ小鳥の寵愛を受けようとも。
    だからこそ、小鳥の甘えるような仕草に胸を矢で貫かれそれを受け入れ甘やかしてやりたいと思っても心を鬼にして手を離さなければと外そうとした。

    「俺がおまえと寝たいの。だから大人しく来い」
    「……小鳥 751

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    ちょもさんが女体化したけど動じない主と前例があると知ってちょっと勘ぐるちょもさん
    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530

    Norskskogkatta

    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
     さて、ではなぜ山鳥毛にかぎってやたらと気になるのかと首を傾げていると、ずいと身を乗り出し耳元でささやかれた。
    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主麿(男審神者×清麿)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    今まで審神者の分は買ってなかったのに唐突に自分の時だけ買ってきて見せつけてくる主におこな清麿
    「ほらこれ、清麿のうさぎな」
    「買ったんだね」
    主に渡されたのは最近売り出されているという僕ら刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。面白がって新しい物が出るたびに本刃に買い与えているこの主はそろそろ博多藤四郎あたりからお小言を食らうと思う。
    今回は僕の番みたいで手渡された薄紫色の、光の当たり具合で白色に見える毛皮のうさぎに一度だけ視線を落としてから主の机の上にあるもうひとつの僕を模したうさぎを見やった。
    「そちらは? 水心子にかな」
    「ほんと水心子のこと好きな」
    机に頬杖を突きながらやれやれと言った感じで言う主に首をかしげる。時折本丸内で仲のよい男士同士に互いの物を送っていたからてっきりそうだと思ったのに。
    「でも残念、これは俺の」
    では何故、という疑問はこの一言ですぐに解消された。けれどもそれは僕の動きを一瞬で止めさせるものだった。
    いつも心がけている笑顔から頬を動かすことができない。ぴしりと固まった僕の反応にほほうと妙に感心する主にほんの少しだけ苛立ちが生まれた。
    「お前でもそんな顔すんのね」
    いいもん見たわーと言いながらうさぎを持ち上げ抱く主に今度こそ表情が抜け落ちるのが 506

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555