【鬼円】えんど〜くんが頑張って誘ってる俺はみんなから、「サッカーのことしか考えてない」とよく言われるけれど。もちろん実際にはそんなわけはない。大学の課題だってやらないといけないし、バイトだって必要だし。これでも一応付き合っている人もいる。……まあ「付き合っている人」もサッカーが好きだから、サッカーの話をしたりサッカーをして遊んだりすることも多いけど……それだけじゃなくて、そりゃあ、俺だって男だし。そういう……ことをして過ごしたいなというときもある。
あの、まあ、いちゃいちゃしたりさ。うん。
でも俺はまだ実家ぐらしだし、相手はイタリアの大学に通っているから、こっちに来るときはやっぱり実家だ。2人きりで長い時間過ごそうと思ったら、それこそ旅行くらいしかチャンスがない。でもそうそう、毎回旅行だって行ってられないしな〜と思ってたんだ。いま、都内のスポーツショップに行った帰り、その建物を見るまでは。
『休憩5000円〜 サービスタイム18時まで』
「………!」
そういや、こういう施設もあった。縁がなさすぎてまったく考えつかなかったけど。スマホの時刻を見るとちょうど15時ごろ。あと3時間もある。
ちらりと、いつもよりカジュアルな格好の鬼道を見ると、視線に気づいてこちらを向いた。「どうかしたか?」と尋ねてくるので誘ってみようかと思ったが、果たしてなんて言えばいいんだと頭がまっしろになってしまった。よく考えたら鬼道はあんなに大きい家に住んでるし、きれいずきだし、こういうところはあんまり……だったりするかもしれない。少なくともこれまで話題にはなったことはない。
「えーと、次、どうしようか」
「?どこかで休憩する話だっただろう」
「休憩!?」
「……喫茶店かどこかで」
あーそう、そうだった!休憩という単語に過剰反応してしまった。喫茶店だととうてい触ったりはできない。やっぱり、したい!今日は!言うぞ!
「本当にどうした?様子が変だぞ」
決意を固めているうちに勝手に足が止まり、両手がマジンザハンドのように動いていた。よりによってそういうホテルのまんまえだったから出てくるお客が迷惑そうな視線を投げかけてくる。鬼道が気にして「とにかく少しあっちに」と言いかけたので、もう今しかない!とふさがりそうなのどから声をしぼりだした。
「あのさ!今日!すっげーしたい!」
「 」
「えと、あの、いちゃいちゃ……」
勢いだけで言ったから、文章がおかしくなってしまった。我ながら顔が熱すぎる。こんな場所で鬼道に恥をかかせてしまったかもしれない、とうまく顔が見られないでいると、しばらくの沈黙のあと、
「………………………いいのか?ここで」
と、鬼道がつぶやいた。首をブンブン縦にふる。すると「わかった」と言って、おもむろに手を握られた。
ようやくまっすぐ顔を見ると、鬼道も少し耳が赤くなっていた。でも恥ずかしいというよりは。
「行こう。……おれもしたかった」
耳元をくすぐるようにして、そのまま手を引かれていく。初めて入ったそういう施設は、なんか、こう、すごかった!!ほんとに。
おしまい