オバブロイデ監 メモ………ぽた、ぽたり。ぴちゃん。
ただただ、響いているのは水の滴る音だけ。
体を起こし見渡すと、辺りはただただ漆黒のみが広がっている。
その空間の中心に、彼は、いた。
「あぁ、君も可哀想に…こんな陰気臭い所に僕と二人っきりだなんて」
暗い中浮かび上がる蒼炎。
くるりと振り向く、無機質な金色の瞳。
水音だと思っていたのは。彼から滴るインクの音だ。
まるで溢れる涙のように彼の頬を滑り、装甲を伝って落ちて。
ぴちゃん。
彼を中心に波紋が広がる。
「どうして君がこんな所にいるの?」
わからない、と答える私に、光る瞳は三日月型に笑った。
「助けは来ないよ」
可哀想に、と私の頭を撫でる手は何時もより冷え冷えとしていて。
これは、彼であって彼ではない。
そう感じさせるには充分だった。
逃げたくても足が動かない。
呼吸が、苦しい。
彼が私に手を伸ばすと、その手はそのままずぶりと液体のように私の身体へと沈み込んでいった。
「さぁ、どこをどうしようか?」
通常ではあり得ない、身体の中を直接弄られるという事態。背中にぞくぞくと妙な感覚が登ってゆく。
無遠慮に差し込まれた腕はあちこちを徘徊したあと、ふと、胸の中心で止まった。
言葉通り、心臓を鷲掴みにされている。
「心がここに宿るだなんて、ロマンチックな考えもあったものだよね。実際は脳…交感神経の影響で脈が上がるだけなのにさ」
どく、どく、と緊張から脈が上がるのを感じる。
キュル、と金色の瞳が私を捉えた。
右目から立ち上る炎は恐怖を感じさせると同時に、悲しい。
不意に、抱きとめられる。ズブリ、と液体に埋もれる感覚。
「君はこの陰気臭い、暗〜い暗い世界の底でずっと僕と一緒にいるんだ!ハハ!笑えるだろ」
藻掻いても藻掻いても、ずぶぶ、と身体は彼の中へと沈んでいく。
助けを呼ぼうにも、ここには彼と私の二人きり。
嗚呼、言うとおりに。
いっそ、このまま彼の中に溺れてしまえばいいのだろうか。
そう思いかけた矢先、ふと、どこか遠くから自分を呼ぶ声がする。
そんな気がした。
「な〜に、僕の意思関係なしに勝手しちゃってくれてるんですか?」
そこにいたのは。今目の前で自分を取り込もうとしている、彼その人。