イデ監⑤小さな舌に己の舌を絡めて吸って、歯列をなぞる。上顎の裏を舐める度にびくりと跳ねる彼女に、分かりやすくて愛おしいという感想を抱く。
消化管の始まりである口と口を付けて、唾液を交換して。それが一体何になるというのだ?彼女と出会うまで、僕はずっとそう思ってきた。
それが、こうして遺伝子と遺伝子を交換し合うのも、悪くはない。否、僕の遺伝子が彼女の口内から喉を滑って、消化管に流れ込むのは。非常に好ましいとさえ思う。
ずっと口を開けていて疲れたのか、閉じてきた彼女の顎を掴み直し強引に舌を捩じ込む。いよいよまともに座ることさえできなくなった君を抱き抱え、そのままベッドへと縫い止めた。
こくり。彼女の喉が上下する度に言い様のない恍惚感に襲われる。
「僕の遺伝子と君の遺伝子。かけ合わせたら一体どんな子供が生まれると思う?」
彼女にとってこの質問は唐突だったようで、目を瞬かせた後、はぁ?と間の抜けた声が口から漏れ出る。
「先輩は私との子供が欲しいんですか」
「もしもの話だよ」
この問を彼女に投げかけたのは、一種の試し行為だったかもしれない。僕と彼女が結ばれたとして。僕と彼女に子供ができたとして。その想像ができる程に彼女はこの関係に対して真摯に向き合っているのか。臆病者の僕をいっそ笑ってくれ。
「早い話だなぁとは、思います。けど…とっても可愛いんじゃないでしょうか」
返ってきた無難な答えに対して。シュラウド家の祝福を受けた子供をその身に宿す覚悟が、君にはあるの?出かかった言葉を僕は飲み込んだ。いいんだ、今は。少しづつでいい。君が乗りかかっている船はきっと思っているよりもずっと、暗くて陰気臭くて。閉鎖的で。まるで、花のように笑う君にとっては、生きづらいかも知れない。
花を手折ってしまってでも、僕の側に置きたいと思うのは。紛れもなく、罪深い事なんだろう。
生まれながらに冥府の底に縛り付けられた僕にとっては、君はあまりにも眩しくて。焦がれてやまない存在だ。
再び彼女に口付け、唇を食む。
一度知ってしまったこの心に、嘘はつけない。嗚呼、たとえ世界が許さずとも、僕は君を離さない。
その口にこうして、柘榴を詰めてでも。