アイ光・お父さんのお話お父さんのお話。
英雄と呼ばれるアウラの女性、リコは神殿騎士団のアイメリクの執務室のソファへ座り、対してアイメリクは白く雪が積もる窓の外を見つめていた。
流れで教皇の話になった途端、アイメリクの表情が少しだけ曇った。
もう大丈夫、と毎回言うが何か詰まらせているような、わだかまりを残しているかのような会話だった。
「今は、大丈夫?」
「あぁ、君には迷惑をかけたね、すまなかった」
「本当は?」
「えっ?」
「無理に話せとは言わないけど、自分に嘘ついてもスッキリしないよ?」
そう伝えると、彼は驚いた後に頭を抱えながら苦笑いをした。
「君には敵わないな」
「そのくらい気づくわよ」
「……最初に聞いた時はショックだった」
「…うん、」
「この歳になっても心から頼れる場所なんて無かった」
「うん」
情けないな、と自虐して笑うものだから、上手い言葉が出てこない。
英雄と呼ばれ、世界を救ったとしても、人を勇気付ける行動を起こしたとしても口下手なのは直らない。
こういう時、何て言葉をかけてあげれば良いのだろう。
実際、冒険者己の幼少期や家族の記憶など頭の中には残っていないのだから家族の愛情なんてこれっぽっちも分かりはしない。
だけどアイメリクは1人じゃないと、素直に純粋に、受け止める人が存在するということを理解して欲しかった。
「アイメリク、こちらへ」
ソファの隣を叩いてアイメリクを座らせる。
重装備を少しだけ外して身軽になる。
なるべく柔らかい声を出して、甘やかすように微笑んだ。
来てくれるかな、年下に頼ってくれるかなと心配になりながら両手を広げた。
アイメリクは蒼色の瞳を大きくして彼女を見つめた。
「ごめんなさい、そうよね、年下にこんな……抵抗あるよね」
その言葉へも返せずに固まるアイメリクの唇は震えていた。
「君の気持ちはありがたいが、これ以上情けない姿は…」
「あ〜なんだか甘えたいなぁ、どこかの議長さんが優しく包んでくれないかしらねぇ」
「……ずるいな」
ゆっくりと、リコの肩にアイメリクの頭が落ちる。顔が見えないように強く抱きしめる。
しばらくすると、彼は肩も揺らさず静かに泣いていた。
少し驚いたが、その重厚な装備の中には少年のような純粋さと弱い部分を隠していたことが露わになった瞬間だった。
小さい頃の、彼が見えたかのようだった。
こうやって、誰にも気付かれないように静かに泣いて、様々な事を我慢してきたのだろう。
癖のある髪をゆっくりと撫でる。
ふわふわ、柔らかくて、艶があり、百合のような良い匂いがした。
リコの装備に降る雨は止まない。
でも、今はいいんだ、思う存分降って欲しい。
少し落ち着いたら魔導書を腰から取り出してペラペラと紙が擦れる音と、囁くようにスリプルを詠唱する。
痛々しく見える赤い目元を温めてあげる。
隈が深く創られていて、その大変さを物語っているようだった。
「……ルキアを呼んで来てくれる?」
アウラ1人で上の階のベッドまでは運びきれない。
妖精に頼んでから、かばんから片手で毛布を取り出す。
肩にかけて
ぎゅ、と服にしがみつく彼を想ってもう少し隣にいてあげようと思った。