見ないふり、見えないふり「ネオイシュガディアン装備って知ってるか」
にやついたサンクレッドが頭上から真面目な声で話しかけてきた。
普段、真っ黒な服ばかり着ているからか、その問いかけに様々な暗喩が込められていることは察知した。
「何が言いたいの?」
「巷で話題になっているからな、お前も着てみたらどこかのお偉いさんが喜ぶんじゃないかと思ってな」
去り際に揶揄うように頭に手が乗せられ、膨れながらもマーケットで売られている服を眺めに宝杖通りへと足を運んだ。
相変わらずイシュガルドの中でも人が集まる通りは賑やかであった。
竜詩戦争が終結した中、徐々に復興を遂げているこの街には行商も多く立ち入ることができるようになり、異国のアイテム等も多く取り揃えていた。
そんな中、装備類を取引している場所でリコは「イシュガディアン」装備を見つけた。
ヒーラーの胴装備を取り出し、ハンガーにかかったまま全体を見渡した。
デコルテが大きく開き、胸の辺りで申し訳程度にある紐を胸元で結ぶ、可愛らしい装備だった。
確かに、リコが普段着ないようなものであった。だからこそ、露出の多い服を着るのは抵抗があった。
「素敵でしょう?試着だけでもいかがです?」
「え、えと……」
そう言われてリコは断れなかった。
着心地は良く、見た目以上に戦闘には向いていると思った。
胸がきつく感じる以外は。
やめようか。そう思った時に店員に呼ばれてカーテンを開けた。
「まぁ、とってもお似合いですね!」
店員の常套句と一緒に手を繋がれて試着室の一歩外に出た。
左側にやたら長い影ができており、気になってその物体を確認したところ、今一番会いたくないエレゼンが立っていた。
「ねぇ!アイメリク様からも何かお言葉をかけてあげてください!」
嫌な顔をした時にはもう遅く、アイメリクはリコの顔ではなく、もう少々下方を見て顔を真っ赤に染め上げていた。
「あ、あのですねアイメリクさん、これはですね……」
腕を交差させて必死に胸元を隠すとアイメリクは慌てて紅潮した顔を逸らした。
「な、何も見ていない!」
大きく手を振って主張するが、あたかもなにかいけないものを見てしまった素振りに恥ずかしさを隠せず咄嗟に試着室へ戻った。