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    □豆腐□

    @LjXqse

    □豆腐□ですʕ•ᴥ•ʔ
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    □豆腐□

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    モブランオンリーの展示作品です!
    イデケイ前提のモブケイ!
    ケイトとモブくんがお付き合いして破局するまでお話し!

    いつか君が。˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚

    「オレ、ダイヤモンドのことが好きなんだ。急にこんなこと言われて気持ち悪いかもしれないけど、もし嫌じゃなかったら、恋人になって欲しい。」

     放課後の教室で、時間が止まった。いや、実際には止まる訳はないのだが。
     突然のクラスメイトからの愛の告白に、自分以外の周囲の動きがスローモーションに見える。
     たった今、オレに愛の言葉をぶつけてきたのは、クラスメイトのモーブ・ホワイトくん。通称、ホワイトくん。ポムフィオーレに所属する生徒だ。名は体を表すとはよく言ったもので、艶のある綺麗な白髪、色白な肌、赤い瞳、その出立はまるで白うさぎを連想させる。最も、彼の白い肌は緊張からか赤く染まっているのだが。
    「えっと、…ありがとう。」
     承諾するでもなく、断るでもなく、にこりと笑みを浮かべ、ひとまず感謝の言葉を伝える。
     ホワイトくんはというと、次の言葉を待つようにオレの唇を見つめている。
     正直、困る。別に男同士だからとか、ホワイトくんのことが嫌だとかそういう訳ではない。
     ただ、ここは放課後の教室。オレとホワイトくん以外にも少数ではあるが、まだ教室内に残っている生徒だっているのだから。遠巻きにオレとホワイトくんの行く末を見守る視線が痛い。中には、ホワイトくんを応援するようにエールを送っているクラスメイトの姿も見える。
     どうやって返事をしようかと頭を悩ませていると、不意に射抜くような視線を感じた。視線を感じた先へ目を向けるとオレのことをジッと見つめるイエローアンバーの瞳と視線がぶつかる。
     珍しく生身で登校しているイデア・シュラウドくんだ。
     イデアくんからの懐疑的な視線と、ホワイトくんからの期待に満ち溢れた眼差しに穴が開いてしまいそうだった。

     こんなはずではなかったのに。
     月曜日。一週間の始まり。水瓶座の今日の運勢は堂々の二位。十二個の星座の中で上から二番目。これはまずまずな結果だと思う。そんなオレは朝から上機嫌で午前中の講義を終えた。
     そうして、昼休み。午後の授業に小テストがあったこともあって、普段リモートで授業を受けているクラスメイトが登校してきた。いつものようにイデアくんに声をかけると、彼から小さく挨拶が返ってくる。
     クラスメイトになった当初はビクビクと怯えられるか、無視されることがほとんどであったため関係性は進展してきていると思う。彼が教室に来た時には毎日欠かさず声をかけ、ペアを作る授業では、さりげなく彼とペアになれるように動いたりして彼との関わりを持ち続けた。
     その結果、今ではなんとか部屋に入れてもらえるくらいにまでになった。と言っても、お互いになんでもないことを話たり、イデアくんの視聴するアニメや、プレイするゲームを見たりするだけなのだが。それでも、密かに彼に想いを寄せているオレからしたら、それには大きな大きな意味がある。しかし、実際に彼に想いを打ち明けるのか?と聞かれるとそのつもりはなかった。人と深く関わることを嫌う彼が、承諾するとは思えなかったし、自分が行動を起こしたことで、ここまで築き上げた関係性が壊れることの方が嫌だ。それなら、卒業までただのクラスメイトよりちょっと仲のいいお友達という関係性を続けようと決めていたのだ。
     今日だって、放課後はイデアくんの部屋にお邪魔する約束を取り付けていた。
     午後の授業も終え、早くイデアくんに声をかけようと荷物をまとめていた。
     そうして話は冒頭に戻る。


     驚き。困惑。焦り。緊張。色々な感情が頭の中を駆け巡る。マイナスイメージの感情ばかりなのはこの状況のせいであろう。自分が愛の告白をされている様を自分の好きな人が見ている。引き攣ってしまいそうな唇に必死に笑顔を貼り付ける。
    「だめ、かな?」
     ホワイトくんの赤い瞳が不安そうに揺れる。チクリと胸が痛んだ。
     だって、ホワイトくんはオレが怖くて出来ない、と諦めてしまったことを行動に移すことが出来る人なのだから。オレは、比較的誰とでもお話だって、遊んだりもする。だから、今後の関係性や周囲の目を考えたら告白しないまま過ごす選択だってできたはずなのに。
     それでも、想いを伝えることを選択したホワイトくんは、今のオレにはとても眩しく見えた。
    「だ、ダメじゃないよ!」
     だから気がついた時には、そう口に出していた。
     今の言い方は不味かったかも、と思った時にはすでに遅かった。
     近くに居たクラスメイトたちから、「おぉ!」と小さなどよめきがおこる。
    「あ、ありがとう!!」
     ホワイトくんは、歓喜からオレの両手をギュッと握る。赤く紅潮している頬とは反対に、その指先は冷たく震えていた。彼が酷く緊張していたであろうことを物語っていた。
     チラリと周囲を見ると、イエローアンバーは既にオレを見てはいなかった。彼の瞳はニコニコとオレの手を握るホワイトくんへと向けられていた。親の仇でも見るような酷く鋭い瞳だった。
    「あはは、よろしくね。ホワイトくん。」
     もう、今更断るだなんて出来なくてホワイトくんに微笑みかける。少数ではあるが、こんな人前で上げて落とすだなんて出来なかった。
     また、胸がチクリを痛んだ気がした。痛みの理由は罪悪感。その場の空気に呑まれて付き合うだなんて、真剣に告白してくれたホワイトくんにも、オレが好意を寄せているイデアくんにも失礼だ。
     その時、教室を出て行く青い影が視界に入った。
     今すぐにでも呼び止めて弁解したかったけど、これ以上教室でクラスメイトたちの見せ物になるつもりはなかったし、イデアくんもそんなこと望んでいないだろう。
     曖昧な返事でその場を切り抜けて、イデアくんを追いかけることにした。
    イデアくんが鏡舎に入る前に追いつけるといいんだけど。

     教室から鏡舎まで何度か一緒に歩いた道順を辿る。
    すると、校舎を出たところでイデアくんに追いつくことができた。
    「いたいた。イデアくん、置いていくなんて酷くない?」
     なるべく、いつもと同じように声をかける。すると彼も立ち止まり、オレの方を見てくれた。しかし、いつもとは異なり、オレを見る瞳は冷たい。
    「…なに?彼氏のこと、放っておいてよかったの?」
    「えっと…だって、今日イデアくんと約束してたじゃん…?」
    「…ただのクラスメイトと付き合いたての恋人、どっちを優先するかなんて明白では?」
     突き放すようなイデアくんのセリフに、次の言葉が喉から出てこない。口をぱくぱくとさせていると、イデアくんが言葉を続ける。
    「驚きましたわ。恋人とか、自分の時間も精神も相手に搾取されて、生産性もないし、時間の無駄では?一過性の承認欲求を満たすために愛の告白とか理解不能ですわ。」
     痛い。全身をチクチクと刺されているようだ。それでもまだ、イデアくんの唇から発せられる言葉は止まらない。
    「だいたい、あんな人の目のある場所で、周囲にマウントでもとってるつもりなのか?ケイト氏は自分のものだってわからせ的な?ホワイト氏の感性を疑いますな。」
     イデアくんは息もつかずに早口で言い切る。ホワイトくん宛てられた筈のその言葉は、オレにも刺さった。
     だって、今のがイデアくんの恋愛観だとするならば、オレのイデアくんへの想いも否定されているようなものだから。彼にとったら、オレの彼に対する想いも生産性のない、無価値なものであると消去されてしまう気がしたから。
    「…そんな言い方ないんじゃない?」
     自分でも驚くくらい情けのない声だったと思う。それでも、休むことなく言葉を続ける。
    「ホワイトくんは、もしかしたら関係性が変わってしまうかもって、恐怖だったり、不安だったりを感じながらも、勇気を持って想いを伝えてくれたんだよ?それって、誰にでもできることじゃないと思う。」
     オレの言葉にイデアくんの瞳が大きく見開かれる。
    「だから、ホワイトくんの想いは絶対に無駄なものなんかじゃない!」
     オレのことを見つめていた瞳は、何かに気がついた様子で、オレの背後に視線を薄す。
     そのことが気になって、背後を振り返ると、オレのことを追いかけてきたであろうホワイトくんが立ち尽くしていた。
    「ホワイトくん…。」
    「えっと、ごめん。立ち聞きするつもりはなかったんだけど…。」
     そう歯切れが悪そうに呟いた。
    「噂の彼氏様の登場ってワケね。馬に蹴られる前に拙者は退散しまーす。」
     足早にイデアくんは立ち去ってしまった。なんとも言えない空気感の中でホワイトくんが口を開く。
    「ダイヤモンドがああ言ってくれて嬉しい。人に怒ってるの初めて見たかも。オレのために怒ってくれてありがとう。」
     そう言って笑うホワイトくんを見て、また胸が痛んだ。例えるなら、新しくできたばかりの傷口にすごく沁みる魔法薬を刷り込まれているみたいな感覚。
     違うの。これはホワイトくんのためなんかじゃない。自己防衛だよ。全部オレのため。オレの気持ちをイデアくんに否定されたみたいで悔しくて、感情的になっただけ。ごめんね、ホワイトくん。
    「一緒に帰ろ?といっても鏡舎まではすぐだし…オレの部屋 …付き合ってすぐ部屋に呼ぶのは違うか?うーん…。」
    「…遠回りして帰ろっか。」
     沈んだ気持ちのまま寮に帰る気持ちにはなれなかったし、すぐに鏡舎へ向かったのではまたイデアくんに出会ってしまいそうな気がした。
     オレの提案にホワイトくんはニコニコと笑みを浮かべて頷いた。

    「ダイヤモンドの笑顔が好きなんだ!笑うと出てくる八重歯が可愛いし、微笑まれると元気を分けてもらえる!」
    「それから、ダイヤモンドの明るさが好きだ!誰にだって明るく声をかけられて尊敬する!」
    「ダイヤモンドの優しいところが好きだ!よく周りを見てるし、オレが疲れてたときチョコレートくれたの覚えてるかな?」
     は、恥ずかしい。まさかホワイトくんがこんなに好きを伝えてくれる人だとは思わなかった。並んで帰っている間、彼は絶えずオレの好きなところを口にし続けていた。
    「それから…」
    「ちょ、ちょっと!恥ずかしすぎてけーくん溶けちゃうよ!!」
    「……いいよ!固めて持って帰るから!」
     そう満面の笑みで言われてしまっては何も言い返せなかった。
     ニコニコと好意100%の瞳を向けられる。やはり、悪い気はしないのだ。人から真っ直ぐに注がれる純粋な好意には。
     チラリと彼の顔を見る。美形揃いのポムフィオーレ寮生というだけあって整った顔立ちだとは思う。特別好みの顔ではないが、嫌いな顔という訳でもない。長い間、近くで愛を囁かれ続けては絆されてしまうのではないかという気すらした。
    「…本当はさ、断られるって思ってたんだ。だから、ダイヤモンドの気が変わる前にたくさん伝えておこうって!」
     ドキリとした。ホワイトくんの瞳が地面を見つめる。
    なんとなくだけど、ホワイトくんとオレの姿が重なった気がした。最も、オレには玉砕覚悟で相手に想いを伝えるだなんてこと出来ないのだが。
    「気が変わるって…ケーくん、そんな薄情そうに見えるわけ?」
     少し大袈裟に肩を竦めてみせた。そうするとホワイトくんは、慌てたように否定した。
    「そ、そうじゃないけど!」
    「あはは、冗談だって。」
     沈んでいた気持ちも、少しずつ浮かんできた。人に愛されているという事実はオレに安心感を与えてくれる。告白された直後の作り笑いや取り繕うための笑顔とは違う。オレは自然と微笑んでいた。
     不意にホワイトくんが立ち止まる。不思議に思ってオレも歩みを止めると、後ろからギュッと自分以外の体温を感じた。
     ホワイトくんに抱きしめられているのだとわかると、バクバクと心臓が跳ねるのを感じた。自分より背の高い男の子に抱きしめられるのってこんな感じなんだと思った。女の子とは違い、柔らかくはないが、暖かく包まれてるような感覚が心地よかった。
    「き、急にごめん!我慢できなくて…。今日はもう、帰ろ。」
    「うん…。また明日。」
    「明日はランチ一緒に食べよう!」
     そんな話をしながらホワイトくんは行ってしまった。
     吐き気がした。ホワイトくんに対してではない。
     ホワイトくんに抱きしめられた時、自分の頭に浮かんだ考えに。
    ____イデアくんに抱きしめられた時もこんな感じなのだろうか____
     一瞬でもホワイトくんにイデアくんを重ねてしまった自分が許せなかった。



    ˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚

     翌日。教室に着くとホワイトくんが駆け寄ってくる。
    「おはよう。」
    「おはよ!ホワイトくん、早いね〜。」
     そう言っていつものように挨拶を交わす。昨日の夜は頭を冷やすためにじゃぶじゃぶと水でシャワー浴びた。少しは頭を切り替えることができるだろうか。
    「早く会いたくて!」
     ホワイトくんの笑顔は今日も眩しかった。
     
     予鈴が鳴り、てっきり隣に座るものだと思っていたら、そんなことはなく、ホワイトくんはいつもの友人たちの元へ行ってしまった。
     オレはポツリと取り残される。
     ポツリと空いた隣の席に、宙に浮かぶ小さな影が見える。他に席が空いていなかったのだろうか。
     昨日の今日でなんだか気まづい。それでも、彼とこのまま関係性が崩れたままなのは避けたくて、小さな声で声をかける。
    「あの…昨日は感情的になっちゃってごめんね。」
     返事が返ってくるとは思っていない。もしかしたら、授業が始まるまで、こっちの音はミュートにしてるかもしれないし。
     しばらくの沈黙が流れ、やっぱり返答は返ってこないか。と諦めかけた時、タブレットから小さな声が聞こえた。
    「....君はさ、ホワイト氏のことが好きだったの?それとも彼の言葉通り、彼のことが嫌じゃなかったから付き合っただけ?」
     突然のことに驚いてしまった。まさか、イデアくんからそんなことを聞かれると思っていなかったから。呆けているオレを置き去りにイデアくんは言葉を続ける。
    「もし、君に告白したのがホワイト氏じゃなくても、相手のこと、嫌いじゃなかったら付き合ってた?」
     オレが答えられずに言葉に詰まっていると、教室の入り口からトレイン先生が入ってきた。
    「..........ごめん。忘れて。」
     そう言葉を最後に、タブレットから音声は聞こえなくなった。

     午前中の授業を終えた昼休み。昨日の約束通り、ホワイトくんと食堂へ来ていた。
     途中で、昨日の告白のことを知っているクラスメイトたちからは「デートか?」と悪意のない冷やかしを受ける。学生特有のノリである。それでも、嫌な気持ちにならなかったのは、声を掛けられるたびにホワイトくんが「アピールの場だ!」とか「今後の方向性を決める会議だ!」とか面白おかしく対応するものだから、その度にオレまで笑わせてもらった。
    「ホワイトくんって、すごいよね。オレのこと、周りを見てて優しいなんて言ってくれたけど、ホワイトくんの方がよっぽどじゃない?」
     オレの言葉にホワイトくんはパチパチと瞬きをした。
    「ダイヤモンドがオレのこと褒めてくれて嬉しい。」
     そう言ってはにかんだ。その表情に思わず胸が高鳴る。ホワイトくんはやっぱりオレのことが大好きなんだな。と改めて実感した。また、ちくりと胸が痛んだ。
     列が進み、食事を受け取って、席に着く。
     オレは、ハンバーグプレートを、ホワイトくんは唐辛子たっぷりのペペロンチーノ。
     食べ始めようとフォークを手にしたところで、背後から冷ややかな声が聞こえた。
    「ケイト。…今日は火曜日の筈だけれど…?」
     目の前の美味しそうなハンバーグを見て、背中に冷や汗が伝うのを感じた。しまった。考え事をしていたせいですっかり忘れていた。
    「り、リドルくん…えっと、これは…。」
    「ダイヤモンド、ほら。お前のペペロンチーノ。」
    その時、ホワイトくんがオレの前にペペロンチーノを差し出した。リドルくんは首を傾げながら問いかける。
    「…?…このハンバーグはケイトのランチではないの?」
    「ち、違うよ!やだなぁ、オレが女王の法律186条 火曜日にハンバーグを食べるべからず。を違反すると思ってるの?これは、ホワイトくんのランチだよ!」
     そう言って、ホワイトくんにハンバーグプレートを手渡す。
    「そう。それならいいんだ。ホワイト先輩?も、食事中に失礼しました。」
     その言葉を聞くと、リドルくんは満足したように微笑むと会釈をして、その場を去っていった。
     リドルくんの奥で、面白そうに俺たちを見るトレイの姿を見つけた。寮に戻ったら文句の一つでも言ってやろうと心に決めた。
    「焦った〜。ありがとう。ホワイトくん。今日が火曜日なのすっかり忘れてた。」
     ホワイトくんは大きく息を吐くオレを見て破顔した。
    「それにしても、ハーツラヴィル寮生でもないのに、よくハンバーグが原因だってわかったね。」
    「ハーツラヴィルは変なルールが多いって聞いて、さっきまでハーツラヴィルの友達に教えてもらってたんだ。」
     そう言われてみれば、彼の仲良しグループの中には、ハーツラヴィルの寮生がいたのを思い出した。午前中の授業中に話を聞いていたのだろうか。
    「ダイヤモンドがハンバーグプレート持ってたからびっくりしたよ。」
    「えへへ。オレもびっくり。」
     そう言って人差し指で頬を掻きながら笑う。ホワイトくんは何か言いたげな表情でオレを見つめていたけど、気がつかないふりをした。



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     ホワイトくんに愛の告白をされてから五日が経った。イデアくんとも火曜日にタブレット越しに話したきりで、あの日からオレを避けていることは明白だった。
     ホワイトくんとの進展具合はというと、オレのペースに合わせてくれているのか、月曜日にハグをされて以降は恋人っぽい接触はしていない。
     学校で会うと、挨拶を交わして談笑をする。ランチの約束をしていれば一緒にランチを食べるし、部活動がない日には鏡舎まで遠回りをしながら一緒に帰る。そんな友達の延長のような具合だ。
     五日間のホワイトくんの好き好き攻撃を見ていると、えっち、とまではいかなくても、手を繋いだりハグやキスくらいは覚悟していたのに拍子抜けしてしまった。こんなどっちつかずな状態でホワイトくんとのお付き合いを続けているオレもオレなんだけど。
     今日も鏡舎までの帰り道を一緒に歩いている。
     もう少しで鏡舎に到着するというところで、ホワイトくんが意を結したように口を開く。
    「明日、麓の街まで出掛けないか?」
     明日は学校も休み。お付き合いを始めて初めての休日ということもあり、デートに誘われることを予想して、最初から予定は空けていた。
    「いいけど、どこに行くの?」
     そう聞き返すと、前のめりに彼は応える。
    「ダイヤモンドとならどこでもいい!どこでも楽しいから!」
    「どこでもいいかぁ…」
     デートの行き先を決めるのには些か悩ましい返答だなぁと考えていると、またホワイトくんが口を開いた。
    「じゃぁ、なんでもいいから、何かキーワード教えて!」
    「キーワード?」
    「そ!色でも、マークでもなんでもいいから!そのキーワードにぴったりなものを探してくる!」
     獣人族ではない彼には存在しないはずの尻尾が、勢いよく振られているのが見えた気がした。
     彼のことは、その見た目から白うさぎみたいだと思っていたけど、五日間ともに過ごした今ならわかる。サモエドだ。全身で好きをアピールしてくるその姿は、まさに犬のようだった。
    「ゲームみたいでなんだか楽しそうだね。どうしよっかな。」
     彼とのデートを純粋に楽しみにしている自分がいた。
     どんなキーワードがいいかと頭を悩ませる。あまり難しくない方がいいだろう。きっと、今から探すのだろうし、出掛ける先を探すのに疲れて、当日を楽しめないなんて申し訳ない。色、なんかが探しやすいのだろうか…。
    「…ブルー。」
    「ブルー?」
    「明日はバッチリ晴天みたいだし、青い空!みたいな?」
     そう言って、すでにオレンジに染まり掛けている頭上を指差した。
     オレの答えにホワイトくんはにこりと優しく微笑んでオレの手を握った。
    「楽しみにしてて。絶対に、良かったって言わせて見せるから。」
     そう囁くと、名残惜しそうに親指でオレの手を撫でる。そして、パッと手を離すと、「明日の準備に取り掛かるから!」と足早に行ってしまった。
     なんだか、一生懸命で可愛いな。と思いながらオレはハーツラヴィル寮の自室に帰るのだった。
     

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     今日の服装は変じゃないかとか、間違って頬にスートを書いていないかとか何度も確認をした。まさに初めてのデートって感じ。緊張して眠れなかった、だなんて少女漫画の中の女の子みたいなことにはならなかったけど、少しくらいは、緊張と期待を感じてしまう。
     初めての学外でのデート。やっぱり、キスとかされちゃうんだろうか。乾燥は大丈夫かな。無色のリップだけ、もう一度塗っておこうかな。そんなことを考えながら洗面台の前でリップを塗り直す。
    「気合い入ってるな。デートか?」
     鏡に映るトレイと目が合った。リップを塗り直す様を興味深げに見つめられる。
    「トレイくんには内緒〜。」
     火曜日にオレのこと見捨てた罪はまだ忘れていないんだからと口を尖らせると、トレイは小さく笑った。
    「おいおい、まだ言ってるのか。」
    「けーくんは記憶力がいいんですー。」
    「イデアも大変だな。」
     トレイくんの言葉に手にしていたリップが手から滑り落ちる。
    「なんで…イデアくんの名前が出てくるの?」
     オレが問いかけるとトレイくんは不思議そうに首を傾げた。
    「イデアと出かけるんだろ?違うのか?」
    「…え、ち、違うよ。やだなぁ。トレイくんってば。」
     それでもまだ眉を顰めるトレイにひとつの考えが浮かんだ。そうで合って欲しくないと思いながらもオレは走り出した。
     ハーツラヴィル寮の鏡を潜ると、オレは待ち合わせ場所でなく、鏡舎を出て学園へ向かった。待ち合わせ場所に向かっても、ホワイトくんには会えない気がしたからだ。途中、部活動のあるらしいデュースちゃんやリドルくんと出くわすが、そんなことはどうでも良かった。廊下を走っていることを注意するリドルくんの声が聞こえた気がしたが、今ばかりは見逃して欲しかった。
     そうして、彼の姿を探して学園中を見て回る。一緒に並んで帰った鏡舎までの道、ランチを食べた食堂。そして、いつも挨拶を交わした教室でやっと彼の姿を捉えた。
    「….はぁ、は…。見つけた。」
     休みなく走り回ってたおかげで息が切れる。
    「ホワイトくん…。デートの待ち合わせ場所は、こんなところじゃなかったと思うけど?」
     ホワイトくんは、オレの声に驚いた様子で振り返る。彼の赤い瞳は結膜や目尻まで赤くなっていた。
    「オレのために、デートスポット見繕ってくれるんじゃなかったの?」
     パチパチと瞬きをすると、彼はオレを見つめたまま無理やり笑顔を作る。その姿がひどく痛々しく見えた。
    「スポット...じゃないけど、とっておきのブルーを準備してあるよ。」
     とっておきのブルー。それが誰のことを表しているかはなんとなく予想ができた。
    「…初めてのデートなのに、ホワイトくんは、一緒じゃないの?」
     ホワイトくんがなんのことを言っているか、敢えてわからないフリをして問いかける。肋骨の中の心臓がバクバクとうるさい。お願いだからもう少し静かにしていて。
    「...ダイヤモンド。」
     オレの名前を優しく呼ぶと、ホワイトくんは言葉を続けた。
    「ごめん、オレ。ダイヤモンドに好きな人がいるの知ってたんだ。」
     ホワイトくんが謝る必要なんて、これっぽっちもないのに。眉を顰め、唇を噛み締め、まるで迷子の子供のように教室の床を見つめる。
    「オレがダイヤモンドのこと見てるみたいに、ダイヤモンドもその人のことずっと見てたからさ、嫌でも気づいた。でも、最初はそんなの関係ないって思ってた。ダイヤモンドが他のやつのことが好きでも、オレがダイヤモンドのこと好きだったらそれでいいやって。」
     真剣に話す彼の様子に口を挟むことはできない。今は、ホワイトくんがオレに伝えたいことを全部聞こうと思った。
     ゆっくりと、それでもしっかりとした口調でホワイトくんは続ける。
    「でも、数日間見ててさ思ったんだ。やっぱ好きな人には幸せでいてほしいじゃん?オレと居てもシュラウドと比べるだろ?オレはそれでも構わないけど、その後に辛そうな顔するダイヤモンドのこと見るのは嫌だった。」
     心当たりはいくらでもあった。この数日間で、オレは彼のことをどれだけ傷つけてしまったのだろうかと考えると目頭が熱くなる。
     ホワイトくんが顔を上げてオレのことを見つめる。その顔はもう迷ってなどいなかった。覚悟を決めた顔だ。
    「…だから、別れよ。いつかダイヤモンドが、シュラウドに想いを伝えて幸せになれますように。って応援してるからさ!とりあえず、今日は早く待ち合わせ場所に行きな。シュラウドが待ってるから!」
     ホワイトくんは大きく歯を見せて笑う。眩しい。
    「ホワイトくん...。」
     思わず彼に縋りつきたくなるのをグッと堪える。
    「あぁ、でもごめん。すぐには切り替えられるかわかんないから、完璧な今まで通りにはもう少しだけ待ってほしいかもだけど。」
     そう言ってホワイトくんはおどけるように微笑んだ。
     こんなにもオレのことを好きになってくれてありがとう。ホワイトくんはオレに、沢山のキラキラしたものをくれたけれど、オレはホワイトくんに何かをあげることはできたのだろうか…。
    「…オレのほうこそごめんね。ホワイトくんにたくさん酷いことしたよね。ごめんね。ありがとう。オレのこと好きになってくれてありがとう。」
     ホワイトくんにオレの気持ちが少しでも伝わればいいと、沢山謝って、沢山ありがとう。と伝える。
     涙で視界が歪む。泣く資格なんてオレにはないはずなのに。それでも勝手に流れてくる涙が憎い。
    「そんな顔するなって。おれ、浄化魔法は苦手なんだから。」
     そう言ってホワイトくんがマジカルペンを振る。すると、走って乱れていた髪や服も、汗や涙で汚れていた身体も綺麗に整えられる。
    「ほら、早くしないと、シュラウド帰っちゃうって。折角いろんな奴に協力してもらって部屋から引きづり出したのに。」
     ホワイトくんが、ぐずぐすしているオレを急かすように手を振る。
     ありがとう。たった一週間だったけど、ホワイトくんとお付き合いして良かったって思った。
    オレも、いつか君が、君のことを本気で好きになってくれる人と幸せになれるように願ってるから。
    「ありがとう...!大好きだったよ..」
    そう言って俺はまた鏡舎に向けて走り出した。


     ホワイトくんの為にも、彼の準備してくれた特別なブルーを絶対に手にすると決めた。



    ♢end♦︎




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