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    モブランオンリーの展示作品です!
    モブ+ケイトで学園の少し怖い噂話について調べる話!最後に怖いことが起こるかも...?

    ふたりで心霊実況をやってみる!「ふたりで心霊実況をやってみる!」


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     人の集まるところで怪異やゴーストの話が生まれる。語られる内容は、旧校舎や廃墟、片田舎の一角であったりと人の出入りの限られた場所で起こることも多いのだが、どちらにしても其れを語る語り手が居なければ成り立たない。
     人の集まることろといえば、学校や病院、テーマパークやショッピングモールなど様々な場所が存在する。
     その中でも、好奇心旺盛な若者の集まる学校という空間では群を抜いて怖い話や怪談話の類は多い。学校についての怖い話や七不思議・都市伝説のような不思議な話は世間には腐るほど溢れかえっているのだ。
     それは、賢者の島の魔導士養成学校ナイトレイブンカレッジでも同様である。
     この学園に伝わる不思議な話について、今日は僕とケイトの2人で調査していこうと思う。



    「こ、こんな感じで導入の語りどうかな?」
     まるで真夏の心霊番組かのようなひとり語りを終えた学友は、少し照れたような様子で此方を振り返った。
     彼は、イグニハイド寮の三年生。モブユ・ジュペリくん。通称モブくん。最近、知り合ったばかりだが、イグニハイド寮の生徒にしては珍しく社交的な性格のようで、すぐに打ち解けることが出来た。
     そして今日、昼間に会った際に、学園に纏わる怪談の話になった。最初はそんな話があるんだ、程度に聞いていたのだか、モブくんの話を聞くうちにその内容に酷く惹かれている自分がいた。単なる怖いもの見たさの興味であったが、今は、夏。自分のように肝の冷える思いをしたい人も多いんじゃないかと、大いに盛り上がり、マジカメの動画投稿のネタになるのでは?とニ人ではるばる深夜の学校までやって来たのだ。
    「バッチリだよ!めっちゃ怖そう!」
     モブくんがイデアくんから借りたという、動画撮影用のスマホのカメラの停止ボタンを押してモブくんの方へピースサインを送る。オレの反応を見ると、彼は安心したような笑顔を浮かべていた。
    「よかった〜。ダイヤモンドにそう言ってもらえると安心するわ。」
    「あはは。オレの言葉そんなに価値あるんだ。」
     そんななんでもない会話をして盛り上がった。もちろん、盛り上がったと言っても時間帯を考慮して小声なわけなのだが。
    「それより、モブくんのところもよく外出許可降りたね。イグニハイドってそういうところ緩いんだ?」
     深夜に外出だなんて、オレの所属するハーツラヴィルや、ヴィルくんが寮長を務めるポムフィオーレでは、有罪確定。その理由が、マジカメにアップする動画のためだなんて、即首刎ねものだ。今日も、リドルくんに見つからないように、寮にはオレくんを置いてきている。
    「外出届なんて出してないよ?てか、そもそも他の寮と比べると、届出とかそういうのが機能してないって感じかな?そもそも友人と出掛けるなんてことが少ない寮だし。」
     確かにそれはモブくんの所属するイグニハイド寮の寮長、オレのクラスメイトのイデアくんを見ていると納得ができた。
     彼が外出届を出して友人と遊びに行くというイメージは湧かないし、寮生たちの外出について口を挟んでいる様子も想像ができない。
    「いいなぁ〜。遊びに行きたい放題だね。ハーツラヴィルとは大違い。オレもイグニハイドに転寮しちゃおうかなぁ。」
     口ではそういうものの、ハーツラヴィル寮の空気は自分に合っていると思うし、転寮するつもりは更々ない。
    「あはは。ダイヤモンドが来てくれたら楽しそうだし、大歓迎だな。」
     そう言いながらモブくんは先ほどスマホで撮影した動画を再生した。スマホからはモブくんのひとり語りの音声が流れる。
    「でもやっぱり恥ずかしいかも。ダイヤモンドの方が向いてるんじゃないか?」
     モブくんは気恥ずかしそうに頬を掻いた。
    「2人で一緒にやろって言ったことじゃん!頑張ろ?あ、でも周りに迷惑かけちゃうのと、ヤラセはダメだからね!心霊系とかオカルト系ってバズりやすいけど炎上もしやすいんだから。」
     そう言って念を押す。数多くいる心霊系のマジカメグラマーや動画配信者達の中には、迷惑行為やヤラセがバレて大炎上した、なんて人達も少なくないのだ。
    「わかってるって。」
     オレの言葉にモブくんは大きく頷いた。
     そうして、撮影用のスマホのバッテリーやカメラアプリの彩度などを確認して、学園内へ行こう。という話になった。



     モブくんから、昼間に聞いた話は全部で三つ。
    ひとつ目の話が、『実験室のすすり泣く声。』
    ふたつ目の話が、『魔導士を呑み込む白紙の禁書』
    みっつ目の話が、『屋上で彷徨う生徒の霊』
     一見、よくある学校の怪談話のような気もするが、そこはケーくんの口の見せ所だ。
     まずは、ひとつ目の話の実験室へ向かうこととなった。


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    __まず、一つ目の噂話は『実験室のすすり泣く声』。
    夜、部活動で寮へ帰るのが遅くなった生徒が、実験室の前を通るとどこからか、「うっ、うぅ、うっ。」と声が聞こえてくるのだとか。
    その声はまるで人の出す声とは思えないものらしい。聞いたものによると、その声は男のものとも女のものとも動物のようだとも言われている。
    噂では、非人道的な実験をされたゴーストがその無念の思いを嘆いているのだとか….。


     そうしてオレは、ひとつ目の噂話を語り終える。
     オレの声だけが、静かな廊下に小さく響いていた。
     オレはカメラをインカメに切り替えると、小さく手を振った。
    「そして、オレたちはその実験室に続く廊下を歩いています。」 
     次いで、隣に並ぶモブくんにもカメラを向ける。
     モブくんも控えめに掌をカメラに向けた。
    「今のところ何も聞こえないな。」
     モブくんが声を顰めて呟く。距離にしてあと十メートルほどで目的地の実験室に着く。
     しかし、深夜の学校だ。すすり泣くこえどころか、虫のなく声一つ聞こえない。目の前には、暗闇が広がっているだけである。
     なんともないただの廊下であったが、時間帯も合間ってか物々しい雰囲気であった。
    「実験室の前まで行ってみようか?」
     俺たちは顔を見合わせると実験室の前までゆっくりと歩みを進めた。
     音のない静かな廊下にコツコツと足音だけがこだまする。
     緊張しているせいか、動画を撮りながら進んでいるためか普段よりも歩くスピードが遅い。
     そしてやっと実験室の前の廊下までたどり着いた。
     ふたりで立ち止まり、周囲をぐるっと撮影する。
     特に何か変わったものが写った様子はない。
    「...何もない...のかな?」
     モブくんがそう声をかけた時、
    _________ガタガタガタガタッ
    「....うっ…..うぅう…うっぅう….」
     微かに聞こえた。ガタガタと何かの揺れるような音と共に、まるで生きた人の出す声だとは思えないくぐもった声が。啜り泣くようにも、悲鳴のようにも聞こえる。
     恐怖で足がすくむ。しかし、それだけではなかった。
    恐怖心に負けないくらいに、好奇心と探究心がそそられる。この声はいったい何処から聞こえているのだろうか。
     耳を澄ませてみると、どうやら音は実験室の中から聞こえているようであった。
    「...扉、開けるね。」
     オレの言葉にモブくんも頷く。
     ゴクリと喉がなる。
    ________ギィッ
     鈍い音が響く。この実験室の扉はこんなに建て付けが悪かっただろうか。
     扉を開放し、ふたりで実験室の中を覗く。
    「….ひっ……。」
     人気のない実験室の中、ガタガタを音を立てて揺れている薬品棚を目にして小さく息が漏れる。
    「あ、あそこ....。」
     モブくんも気がついたようで薬品棚を震える人差し指で指を指す。
    ________ガタガタガタガタッ
     モブくんの声に呼応するかのように、揺れが大きくなる。
    「うぅうう…うっ…うぅううう!!!!」


     その時、オレは気がついてしまった。薬品だなの棚の隙間で、ガタガタという揺れに合わせて忙しなく動く、緑色のヘタのようなものに。
    「......?え、コレって....。」
     その音の発生源に気がついた時には既に恐怖心は消え失せていた。
     棚の隙間に手を入れ、唸り声の正体を引っ張り出す。
     隙間から引っ張り出されたソレは、走り回ろうとしているのか、頭部だけではなく脚と思わしき部分をバタバタと動かしている。
    「「ま、マンドラゴラ???」」
     ふたりで顔を見合わせる。
     どうやら授業で使用したマンドラゴラを、袋に詰める前に取り逃してしまった生徒がいたようだ。
     逃げ出したマンドラゴラが、棚の隙間に迷い込み自分の力では棚の隙間から抜け出せなくなってしまったということなのだろう。
     なんだか、拍子抜けしてしまいモブくんとふたりで笑い声をあげてしまう。
    「あはは。ヤバすぎ!ふたりであんなに怖がっといて、正体がマンドラゴラとか...!ダサすぎでしょ!」
    「本当に、誰だよ..!ひー、苦しい...!」
     ひとしきり笑った後(もちろん声は抑えてだが)らマンドラゴラは袋に詰めて実験室の机の上に置いておくことにした。
     そうしてオレたちは、次の噂話の舞台へと向かった。



    ˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚



    ___ふたつ目の噂話は『魔導士を呑み込む白紙の禁書』について。
     禁書。政治的・法律的観点から、魔導士の精神に悪影響を及ぼすため、魔導士のブロッドの蓄積を促進してしまうため、などさまざまな理由で禁書に指定されている魔導書が存在する。しかし、その禁書も一定の規則やルールに則れば、閲覧可能な施設も幾つか存在する。この学園の図書室もそのひとつである。
     そしてこの図書室の中に、中身が白紙の禁書が納められているのだとか。その魔導書は、力のある魔導士が禁書を手にした時、魔導士を呑み込み、存在ごと消してしまうのだという噂話が語られるようになった。


     ふたつ目の噂話の語りを終えたモブくんが図書室の中をカメラで映す。
     図書室の中には魔導書や学術書がずらりと並んでいた。
    「...見つかるかなぁ。」
     この中からたった一冊の禁書を探すのは、なんとも骨の折れる話であると感じた。

     オレとモブくんは例の禁書を手分けして探し始めた。
     結論を述べると、あった。白紙の禁書は確かに存在したのだ。錬金術や魔法薬調合の棚にあたりをつけて探していたのが功を成したようだ。
    「ダイヤモンド、これ。」
     モブくんが一冊の本を手にオレの隣へやってくる。
     外から見ただけではその本が本当に件の禁書であるのか判別がつかない。やはり、中を開くしかないようだ。
    「開くぞ?」
    「…うん。もし、白紙だったらカメラに写しても大丈夫かな?」
     モブくんと顔を合わせて魔導書の表紙を開く。
     その先も、パラパラとページをめくっていくが、魔導書の中には文字と思わしきものは綴られていなかった。
     この本は、本当に魔導士のことを呑み込んでしまうのだろうか。そんな想像をしていると背後に人の気配を感じた。
    その時、
    「コラー!ダイヤモンドくん!いったい何をしているんですか!!」
     突如背後から聞こえた声に心臓が口から飛び出してくると思った。
     肋骨の中で心臓がバクバクとうるさい。
     しかし、途中でこの声が自分の知っている声であることに気がつき、声の方向へ顔を向ける。
    「うぇ?!学園長...!」
     学園長は仮面の中の瞳をキッと吊り上げて言葉を続ける。
    「こんな深夜に学園に忍び込むだなんて、何を考えているんですか!」
     隣に目をやるが、一緒に忍び込んだはずのモブくんの姿は既に見えなかった。「やられた。」と思った。
    「...あ、えっとぉ、レポート!レポートの提出のために魔導書を探していて...!」
     苦し紛れの言い訳に学園長は、オレのことをまじまじと見つめ、やがて渋々納得したように口を開く。
    「こんな時間にねぇ。...それで、その魔導書は見つかったんですかぁ?」
     なんとか誤魔化せたのだろうか。と胸を撫で下ろす。
     そして、一つの考えが浮かんだ。学園長であれば、      
     この白紙の禁書についての詳細を把握しているのではないかと。
    「...えっと、探してたんですけど、この本。白紙で何が書いてあったのかがわからなくて..。」
     そう言って学園長に件の魔導書を提示する。
    「そ、その禁書は?!?!」
     すると学園長は仮面の中の瞳を大きく見開い声を上げた。その反応から察するに、白紙の禁書について、やはり何かを知っている様子であった。
     そうして静かに口を開く。
    「...その禁書は、他者の精神を乗っ取る魔法薬の調合方法が記されていたものです。」
    「他者の...精神を...?」
     学園長の話す乗っ取るという言葉とモブくんの話していた噂話の呑み込まれるという言葉がなんとなく重なる。
    「えぇ。極めて調合の難しい魔法薬になります。....しかし、もしもこの学園の生徒が魔法薬の調合を出来たらどうなると思いますか?」
     学園長はもしもの話を想像して、ワナワナと震えた。
    「頭の良い問題児!人のことなど考えもしない野心家!そんな生徒ばかりのこの学園でそんなものが横行しては、もう、ぐっちゃぐちゃのひっちゃかめっちゃか!この学園は終わりです!!」
     自分が学園長を務める学園の生徒たちに向けてその評価はいかがなものかと思うが、容易く想像もできてしまうため何も言えなかった。
    「だから、この禁書が私の予期せぬタイミングで開かれた時には魔導書の中身が閲覧できないよう魔法をかけているのです。皆さんのことが心配なのですよ?私、優しいので。」
     先ほどまでの動揺はどこはやら、学園長は自分の行いを賞賛するかのようにいつもの言葉を述べ、ニコニコと笑っている。
    「それで、ダイヤモンドくんはどうしても、その禁書の中身が知りたいということで...」
    「やっぱり大丈夫です!明日また昼間に調べにきます!!」
     学園長が言い終わるよりも早くオレはその場を駆け出した。
     背後で学園長の声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいであろう。
     そしてオレが扉を開き、図書室の外へ出ると、廊下に出てすぐのところでモブくんが立っているのが目に入る。
    「モブくんの薄情者....。オレのこと見捨てていくとか酷いー!」
     唇を尖らせるオレを横目にモブくんがヘラっと笑う。
    「だって逆の立場なら、ダイヤモンドだってオレのこと見捨てるだろ?」
    「うぐ.....。」
     図星である。それを言われては何も言い返せなかった。
    「明日の食後の珈琲一杯で手を打ってあげる。」
     そんな話をしながら、俺たちは食堂を後にした。
     

     

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    「なんか、ぜーんぶホラーでもなんでもなかったね。」
     モブくんとふたり、校舎を出て校庭を歩いている。
     張り切って学園内を回ったがいいが、ひとつ目の『実験室のすすり泣く声』は生徒たちの精製したマンドラゴラの声。ふたつ目の『魔導士を呑み込む白紙の禁書』は持ち出し禁止の禁書を学生に閲覧させたくない学園長のカモフラージュ。どちらもホラーでもなんでもなくて拍子抜けしてしまった。
     オレの後ろを歩く、モブくんに声をかけるが返事はない。
     撮影前は、絶対に面白くなるとあんなに意気込んでいたのに、あまりの撮れ高のなさに落胆してしまったのだろうか。
    「これ、路線を変えて、謎解明!みたいな感じで上手く編集したらバズりそうじゃない?」
     せっかく企画してくれたのだし、がっかりしたまま終わりにしたくなくて、オレの中で最大限に明るい声で話を続ける。クラスメイトの某シュラウドくん曰く、オレの明るさは真夏の太陽の明るさにも匹敵するらしい。
    「それにさ!モブくんの調べてくれた話、もう一つあったじゃん?『屋上で彷徨う生徒の霊!』それがめっちゃくしちゃ怖いかもしれないし!」
    「……………….。」
    「何十年も前に自殺した生徒のゴーストが、今もまだ彷徨ってて、生きている生徒をあの世に引きづりこもうとしてるなんて、トリハダものじゃない?もう、怖くて鳥になっちゃうかも!」
     返事はない。これではまるで壁打ち状態ではないか、と自分の耳にも届くか届かないか程度の小さなため息がこぼれた。
    「ちょっと、モブくん、聞いてるー?お返事ないとケーくん寂しいよ〜!」
     そう少し戯けて言葉を続けた。
    「…………………..。け、ケイト氏、さっきから一人で何してるの….」
     その後、何拍か開けてからやっと返事が聞こえてきた。
     でも、あれ?この声ってモブくんの声じゃ、ない。
     想像していなかった声に驚き、声のしたほうへ振り返る。声の主は、モブくんではなく、クラスメイトの某シュラウドくんこと、イデアくんだった。
    「あ、あれ?イデアくん?」
     きょろきょろと周囲を見回すが、モブくんの姿はない。困惑から手の中のスマホをギュッと握りしめてしまう。オレの手に握られているスマホに気がついたのかイデアくんが怪訝そうに眉を顰めた。
    「あ…、それ、拙者の撮影用のスマホ。部屋にないと思ったら、なんでケイト氏が持ってるの?」
    「あ、貸してくれてありがとね!モブくんに貸したのにオレが持ってたらビックリだよねっ。」
     そう言ってイデアくんに微笑みかける。
     しかし、彼は眉を顰めたまま言葉を続ける。
    「......モブくんって誰?人に貸した記憶なんてないんですが。」
     一瞬、イデアくんに何を言われているのかがわからなかった。
     確かに、NRCは少ない生徒数ではないけど流石に同寮の、しかも同学年の生徒の名前すら知らないなんて、そんなことある?それも、現寮長が。
     背中にじっとりと嫌な汗が伝う。
    「…え?…や、やだなぁ。モブユ・ジュペリくん!イグニハイド寮の三年生の。自分のところの寮生くらい把握してないと、リドルくんに首刎ねられちゃっても知らないよ!」
     取り繕うようにケラケラと笑うオレを見て、イデアくんはおずおずと口を開く。
    「…いや、あの、うちの寮に、そんな名前の生徒いないと思うけど…。」
    「…え?そんな、わけ、ないってぇ…もしかして、モブくんと二人でオレのこと驚かそうとしてる?」
    「……..。」
     2人の間にしばらくの沈黙が流れる。
     イデアくんの話していることが正しいのならば、オレは一体いままで誰と一緒に居たんだろう。今だけじゃない。今日の昼間だって一緒に居たはずなのに。
    「だって、さっきまで一緒に学校の怪談を探るって、一緒に…。一緒に学校の中見てまわって…一緒に話してたのに…」
     気持ちを落ち着けようと、大きく息を吸い込む。喉が乾燥して痛い。
     少しでも喉を潤そうと唾液を嚥下し、ゴクリと喉が鳴る。
     オレの心情なんて無視するかのようにイデアくんの口は動き続ける。
    「せ、拙者には、…ずーっと君がひとりで騒いでるようにしか見えなかったけど。」
     動揺からか指先がピクリと震える。その動きで、オレの手の中にモブくんの存在が記録されているであろう、媒体に気がついた。
    「ど、どうが!!動画を見たらわかるよ!だって、そんなわけ…ずっと一緒に撮ってたんだから。」
     そう言って手元のカメラで録画された動画を再生する。
     イデアくんとふたりで手元のカメラを覗き込む。



    『バッチリだよ!めっちゃ怖そう!』
    『あはは。オレの言葉そんなに価値あるんだ。』
    『それより、モブくんのところはよく外出許可降りたね。イグニハイドってそういうところ緩いんだ?』
    『いいなぁ〜。遊びに行きたい放題だね。ハーツラヴィルとは大違い。オレもイグニハイドに転寮しちゃおうかなぁ。』



     動画の中では何もない空間をカメラで写しながら、楽しげに話すオレの声だけが録音されていた。
     早送りして別の場所で撮影したものも流してみるがそれは同じであった。どの動画でも、モブくんの姿、音声は映されていない。

    ———モブくんは存在しない……?

     肩の力が、全身の力が抜ける。気を抜くとイデアくんのスマホを地面に落としてしまいそうだ。
     脱力して、地面に座り込んでしまったオレをイデアくんが心配そうに覗き込む。
     その時、何を言われているかわからなかったが、耳元で微かにモブくんの声が聞こえた気がした。
     
    「縺イ縺ィ繧翫、〒騾£繧九↑繧薙※險ア縺輔↑」

     誰かに見られている気がし、視線を感じた方向を見る。
     誰も居ないはずの屋上にポツリと黒い影が見えた。

    「ちょ、け、ケイト氏ぃ…?!」
     
     遠のいていく意識の中で、心配そうにオレの名前を呼ぶイデアくんの声が聞こえた。



    ˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚



     そこからオレはどうやって帰ったか覚えていない。気がついたら、イデアくんの部屋で横になっていた。
     どうやら気を失ったらしいオレをイデアくんが自室まで運んでくれたようだ。
     どうしてイデアくんの部屋なのかと質問すると、あの時間にあのまま置いていく訳にもいかないし、保健室も空いていない。陽キャの巣窟ハーツラヴィルに足を踏み入れるだなんてもっての外、とのことで消去法で渋々部屋に入れてくれたらしい。
     なんだかんだで優しいクラスメイトに感謝しか浮かばない。
    「迷惑かけちゃって、ごめんね。休ませてくれてありがとう。」
     部屋の主人にそう声をかかえると、イデアくんは心底迷惑そうに呟いた。
    「そう思うなら、早く帰って。」
    「あはは、そうするね。」
     そう言って部屋を出るオレに、イデアくんは、オルトちゃんを付けてくれた。この部屋から寮の外までの順路知らないでしょ?とのことであった。
     オルトちゃんとふたりでイグニハイド寮の廊下を歩いている。
    「ねぇ、オルトちゃん。」
    「どうしたの?ケイト・ダイヤモンドさん?」
    「この寮にさ、モブユ・ジュペリくんって子いない?」
     なんでもない雑談をしながら並んでいたはずが、どうしてか急にそんなことを口に出していた。
     どうしてそんな質問を口走ってしまったのか自分でもわからない。ただ、どうしても聞かなくてはならない気がしたのだ。
     オルトちゃんの瞳が大きく見開かれる。
    「……いるね。検索結果によると、モブユ・ジュペリ。今から45年前にイグニハイド寮に所属していた生徒みたい。でも、卒業者の名簿にその人の名前はないから、在学中になんらかの理由で学園を去ったみたいだね。」
     なんらかの理由……。
     それって、もしかして…。最後の3番目の…
     頭の中でぐるぐると思考が攪拌される。
     彼がそのゴーストだとでもいうのだろうか。
     だとしたら、あの屋上にオレのことを連れていってなにをしようとしていたのだろう。
     モブくんに聞いた話通りだとしたら…
     寒くなんかないはずなのに、指先から冷えていくのを感じる。
    「その人がどうかしたの?」
     オルトちゃんの声に現実に引き戻された。
    「ううん。なんでもないんだ。なんでも。」
     自分にも言い聞かせるように同じ言葉を反復する。
     今日のことは忘れることにしよう。
     オレは今日、深夜の学校になんて行かなかったし、学校の怖い噂話なんて聞かなかった。モブくんとお友達になんてなっていない。
     きっと、それがいいに違いない。
    「オルトちゃん、送ってくれてありがとうね!」
     そう言って、感謝を伝えて別れようとした時、オルトちゃんに腕を掴まれる。
     突然のことに驚き、肩が跳ねる。
    「ど、どうかした?」
    「...やっぱり、心配だからハーツラヴィル寮まで送るね。」
    「あ、う、うん。ありがと。」
     和やかな声とは裏腹に、オルトちゃんの瞳は真っ直ぐにオレの背後を見つめていた。
     その瞳があまりにも冷たくて、オレは何も聞くことが出来なかった。



    ♢end♦︎

     





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