藍色の帳 恥ずかしい、と杏寿郎は小さく呟いた。
それは、互いに向かい合って抱きつき、衣服を脱ぎもせず、欲のままに下だけ繋がった己の姿が改めて気づいてしまったせいだった。
とても恥ずかしいし、滑稽だとさえ思った。
猗窩座に跨った杏寿郎の下半身は、少し動いただけで「ぬちゃ」と音がする。そして勢いのままに繋がってた結果、尻穴には、太くて黒い陰茎が穴に入り込んでいて、凶器のようなそれは、杏寿郎の腹の、奥のまで突き刺さっていた。
今更といえば今更だが、全てが卑猥なことこの上ない。全身がカア、と熱くなって、あまりのいたたまれなさに、杏寿郎は俯いた。
けれど猗窩座は、そんな杏寿郎を見ても、特に何も言わなかった。俯いたから、表情は読めない。
初めてでもない、ましてや、さっきは自分から食らいついたくせに。
呆れているのかも知れなかった。今更「恥ずかしい」などと情けないことを言う自分に。
そんなことを思ったせいで、なんだか、一瞬絶望的な気持ちが杏寿郎の頭をよぎった。
性交の作法で呆れられ、嫌われる、なんて。
悪夢以外の何物でもない。
恐る恐る、杏寿郎は俯いていた目線を上げて、猗窩座に向き直った。それこそ「こわい、恥ずかしい、こわい、恥ずかしい」と、心の中でずっと連呼しながら。
「杏寿郎」
名前を呼ばれて、杏寿郎の肩が思わず震えた。猗窩座は、何を考えているかは分からない。その顔は、無表情に見えた。やはり俺の弱々しい態度に呆れているのか、と杏寿郎が落ち込む。
「恥ずかしいのか?」
「…うん」
「なら、隠してやる」
藍色の指先が目の間に現れて、杏寿郎の視界が、一気に暗くなった。右手が腰に伸ばされ、しっかり掴まれた所をみると、目をふさいでいるのは、猗窩座の左手だろう。
「あ、ッ!!」
ぐん、と猗窩座の腰が動いて、杏寿郎に叩きつけられた。奥の奥に猗窩座の黒くて太いものが当たったせいで、背筋から下半身にかけて、激しい快感がびりびりと杏寿郎を襲った。
「杏寿郎」
「ッ、!!ひっ!」
あの少し高い、甘い声。その声で耳元で囁かれただけで、杏寿郎の、勢いよく勃ち上がった陰茎から白い先走りが溢れた。なんてはしたない。
けれど、気持ちが良くて頭は真っ白だ。
堕ちていく、とはきっとこういうことを言うのだろうか。
杏寿郎は、快楽に喘ぎながら、頭の片隅でひっそりそう思った。