6-3 むかしのことを思い出す。大きな樹の下で子供が泣いていた時のことを。
『どうしたの?』
「あのね、いたいの」
『どこが?治してあげる』
聞くとその子はモジモジして俯いてしまう。
「あのね…おかあさんにおこられて…こころがいたいの」
私に心は治せない。癒やす手助けはできても最終的に治るかは本人次第だからだ。
『見て、花冠。きれいでしょ』
私たちには人の心の機微が読み取れないことがある。だけど寄り添うことはできる。彼らが花を見て癒されることを知っている。
『これは君にあげる。一緒にお母さんの分を作ってあげよ?それでごめんなさいって言うの』
「そしたらもうおこられない?」
『うーん…それは君のいい子次第かな』
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