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    お絵描き練習

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    ラン暦小話。ミュージカルごっこする二人。

    #ラン暦
    lanreki

    土砂降りの雨だった。
     放課後、暦はランガと共にコンビニの軒先で雨宿りをしていた。夏には頻繁に台風の進路となる沖縄だったが、今は五月だ。通常、夏というにはまだ早い。それでも想定外の事態というのは起こるもので、沖縄はバケツをひっくり返したような大雨に見舞われていた。
     屋根を叩くけたたましい雨音が響いていた。注意深く聞かないと、隣にいるランガの声すら聞こえない。傘を買うにも、バイト代をボードのために切り詰めている二人は躊躇してしまう。濡れるのを覚悟で走って行こうにも、スケートボードは水分に弱いのである。体や服はなんとかなるが、このボードだけは死守せねばならない。
     二人は駆け込んだコンビニで買ったスナック菓子を分け合いながら、雨が止むのを待っていた。ざあざあ、ざあざあと雨は降り、空は雨雲で真っ黒だ。いつ止むんだろうな、と暦が思っていると、隣から雨音に混じって小さな鼻歌が聞こえてきた。
     アイムシンギングインザレイン。流暢な英語で歌われるそのメロディは、どこかで聴いたことのある音楽だった。何だっただろう。暦は記憶をたぐり寄せるが、どうしても思い出すことができない。
    「その曲、なんだっけ」
     聞いたことある、と続けると、ランガはこれまた発音のよい英語で「Singing in the rain」と言った。なんて? と返した暦に、ランガが困ったように言う。
    「日本でなんて言うのかわからないんだ」
    「俺もここまで出かかってるんだよなあ」
    「昔の映画の曲だよ。検索してみたら?」
     ああ、そうそう、映画。母親がテレビで流れている再放送を見ていた気がする。暦はポケットからスマートフォンを取り出し、検索欄にランガの言った語句を入力した。検索結果は「雨に唄えば」。ああ、そうだった、と納得したように頷いた。
    「どんな映画なんだ?」
    「知らないの?」
    「そういうおまえはどうなんだよ」
     暦がむっとしながら言うと、ランガは「知ってる」と返した。意外に思って詳しく聞くと、どうもカナダにいたころに学校で劇をやらされたらしい。なんでも受け持ちの教師がミュージカル好きで、みんなでミュージカルをやろうと提案したそうだ。おりしもアメリカで作られた、ミュージカルを主題としたドラマが流行っていたころだったらしい。見目のよいランガは主人公役に選ばれ、しぶしぶながらも地域の会館でミュージカルを上演することとなった。稽古をそこそこしたので、今でも主人公役の台詞がそらで言えるという。
    「有名なシーンがあるんだ。恋人と別れたあとに、主人公が歌いながら雨の中で踊る」
    「ああ、見たことある気がする」
     母が食い入るように見ていたのが、ちょうどそのシーンだった。ランガは暦に一歩近寄り、暦の手をとった。雨が足元でぴちゃんと跳ねる。
    「主人公のドン・ロックウッドが、恋人のキャシーに言う。――おやすみ、キャシー。また明日」
     いつもはぼんやりとしたランガの声は、不思議なほど凜々しく響いた。それが甘さを秘めているように聞こえて、暦はどきりとする。
    「そこでキャシーが返す。――あなたはスターなんだから、風邪を引かないでね」
     すると、ランガが急に無言になった。暦もじっと続きを待っていたが、握っていた手をぎゅっと握られた。
    「暦がキャシー役だよ。台詞を言わなきゃ」
    「ええ……」
     ランガの勢いにおされ、暦はなんて台詞だっけ、と記憶をたどった。ランガがもう一度教えてくれたので、暦はそれを復唱した。
    「あなたはスターなんだから、風邪を引かないでね。今夜は雨がすごく降ってるから」
     我ながら、女言葉が似合わないと苦笑する。だがランガは笑うことなく、台詞を続けた。それも、雨がみるみるうちにあがってしまいそうな、美しい笑顔で。
    「本当に? ――僕には太陽の光が差してるけど」
     ランガの顔が、キスができるほどに近づいてくる。え、そういうシーンあんのか。ていうかイケメンの破壊力やべえ。プリンスの顔面偏差値恐るべし。ぐるぐると思考が頭の中を回っているところに、ランガは続けた。
    「……ここで台詞が終わって、さっきの曲が流れる」
     ランガの声は、いつものぼんやりとしたものに戻っていた。いつもの友達にほっとしたのが半分、もっと見ていたかったのにと思ったのが半分。俺ってば何考えてるんだ、と途方に暮れていたところに、ランガが「あ」と声をあげた。
    「晴れたよ、暦」
    「え……」
     ――僕には太陽の光が差してるけど。
     先程の土砂降りはどこへやら。見上げた空からは、太陽の光が差していた。呆然とする暦に、ランガはふわりと笑う。
    「帰ろうか」
    「あ、うん……」
     ランガは空になったスナック菓子の袋をごみ箱に捨て、晴れた空の下へと歩いていった。その細い背中を追う暦は、まだドキドキと高鳴る鼓動を持て余していた。
    (かっこよかったな、ランガ……)
     それが、彼との関係が友達から変わってしまう予兆だったなどと、そのときの暦は知るよしもなかった。
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    MAIKING7話のせいで未来捏造したラン暦。プロボーダーランガ×メカニック暦
    モブ女視点ですがただの当て馬なのでご安心ください。

    元ネタ:Rihanna「Don't Stop The Music」
    姿見に映る自分を見ながら、あたしは自分自身に魔法をかける。
     素肌に下地を塗り、薄くファンデーションを乗せる。散らばるそばかすは、コンシーラーとコントロールカラーで隠せばもう完璧。
     まぶたの上にはラメのたっぷり入ったゴールドのシャドウ。目を大きく見せるためにラインは欠かせない。黒いマスカラを睫毛に乗せれば、相手を射貫く大きな目の出来上がり。
     唇には全体をうるうるに見せるリップを塗る。目をしっかりとメイクしたから、唇は少し控えめに。でも、キスしたくなるほど魅力的な唇になるように、細心の注意を払う。
     チークを乗せてハイライト、そしてシェーディング。さりげないところも完璧に。それがあたしのモットー。眉も凜々しく見えるように整えて、ケアしたあとのブルネットの髪にアイロンをあてる。上手くカールさせれば、ボリュームのある艶めいたパーティヘアの出来上がり。
     背中を大胆に見せたミニのドレスに、ママから借りたジミーチュウのパンプスを履けば、イケてるセクシーな女の子が姿見に現れた。小さなパーティーバッグにスマホと財布をインして、あたしは胸を弾ませながら家を出た。
     これは一世一代のチャンスよ。夜が 3717