正義と海晴 その頃、海晴は、氷船に診療所の留守番を頼んでいる間に物置小屋で正義の診察をしていた。割れたり剝がれたりしていた爪がちゃんと生えているか、胸や背中の深い傷痕が膿んでいないか確かめる。いずれも順調に癒えてきているのを確認した海晴は、正義の傷に薬を塗って包帯を巻き直しながらやや不服げに息をついた。
「まあ……蒼生様のお墨付きや七雲の提案もあることだ。少し外に出るくらいは良いだろう」
巻き終わりの処理をして道具を片付ける海晴に、ありがとうな、と正義の声がかかる。千紫万紅の乱で海晴たちの村が焼けてから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
蒼生の視察と審問の折、信と正義の二人を春まで保護することについては海晴も賛同したものの、では何処で保護するか、という話は、そのときは宙ぶらりんになっていた。だが、その直後に起こった山での暴れ鹿騒ぎや、獣人族に斥候をしてもらえればという七雲の提案から、信と正義は結局春までこの村に滞在することになっていたのだ。
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