信に懐く子、怖がる子 正義の診察を終えた海晴が診療所に戻ってきたので、氷船は彼に断りを入れてから長老のところへ向かった。時間もちょうど八つ時になる頃だ。信と、信が採ってきた果実とを携えて、氷船はしばらくぶりに長老がいる山小屋の戸を叩く。
「はいはい、……おや」
戸を開けて出迎えた長老の、皺だらけの顔がみるみる綻ぶ。氷船もまた、胸の奥の重石がほどけていくようなほっとした気持ちで目元を緩めた。
氷船は腕の中の包みを見せる。
「長老。信から、子どもたちに差し入れです」
「これはこれは……信殿もお元気で何よりだ。二人とも、時間があるなら、一緒に食べて行きなされ」
二人が中へ入れるように長老が一歩下がって、氷船は屋内の様子を窺いながら慎重に踏み込んだ。信は、その氷船の後ろへ隠れるようについてくる。逆に怪しいだろうと思うが、堂々と姿を見せるのとどちらが泣かれるだろうか。判断のつかなかった氷船は、黙って信の好きにさせた。
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