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    Ao_MiNaMii

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    ししんでんしんそくぜんしゅぞく本Side玄武 人間族の章3

    玄武は常に冷静だが氷船くんはそこそこテンパってる そら(村焼かれたら誰でも)そう

    信くんの生存フラグまで 第一部まとめ(仮) 村が燃えている。
     最初、何が起こっているのか分からなかった。平和な、何の変哲もない村が、喧騒に包まれて真っ赤に染まっていた。
    「鬼族だ!」「獣人族だ!」「火を消せ、水を!」
     村の大人たちが村を駆けずり回っている。氷船は、――年長のほうではあるがまだ子どもに分類される氷船は、まだ火の回っていない裏山と長老の家とを往復して、泣きじゃくって歩けない子どもや持てる限りの食糧などを避難所の山小屋へ運んでいた。
     今日は、長老が村の子どもたちを集めて読み書きや計算を教えていた。その長老の家から子どもたちをみんな運び出したのを見届けた長老が、最後にいくらかの書物を抱えて出てくる。ちょうどそこへ戻ってきた氷船は、長老の抱える書物を渡してもらい二人で山小屋に向かった。
    「みんなは無事かね」
    「はい、みんな怪我なく辿り着きました」
     氷船は長老にそう返事をしながら山小屋の戸を開けた。普段、猟師や山菜採りの村人たちが使っている山小屋に、今は村の子どもたちが集まっている。長老と氷船が姿を見せると、小屋全体がほっと息をついたかのようだった。
     氷船自身もまた、小屋の空き棚に長老の本を置くと壁際にずるずる座り込んだ。斜面を何度も往復した脚がじんじんと疲労を訴えている。だが。他の山小屋にも誰か避難しているかもしれない。それに、村のこと、子どもたちの親のことも気になる。氷船は少しだけ水を口に含んで飲み込むと、長老と子どもたちの目を盗んで静かに山小屋を出た。

     火の手がどこまで回っているか確認して、もし近いようならもっと上の小屋へ移動して、村や大人たちがどうなっているか確認して……
     そう考えて、それを行動に移したはずなのに、気づけば氷船はふらふらと山小屋や村の周囲を彷徨っていた。あれこれ確認して次の行動を決めなければ、と頭では分かっているつもりなのに、焼けた村を目にするのがどうしても怖い。代わりにあちこちへ無意味な視線を投げながら歩いているうちに、踏みつけた草で靴が滑って視界と重心が転げた。
     ずざざざ、と自分が山を滑っていく音が氷船の意識を席巻する。呆然とする氷船の耳に、鋭い声が飛び込んだ。
    「氷船くん!」
     同時にガクンと視界が止まって、肩の布地が上に引きずられ腰帯がずれる。しぱしぱと何度か瞬きをしていた氷船は、覚束ない動作で肩の上のほうを見上げた。
    「……海晴先生」
    「何をやってるんだ君は! 長老と一緒に山小屋じゃないのか!!」
     力の抜けた氷船の声にすぐ怒声を返してきた海晴は、頬がいくらか煤けているが元気そうだ。村の医者である海晴が元気ならしばらく安心だな、などと斜面に転がったまま考えていた氷船だったが、海晴に急かされて立ち上がった。
    「……まったく、的が大きいから間に合ったが、僕が間に合わなかったりそもそも誰もいなかったらどうするつもりだったんだ。どこか捻ったり痛めたりしていないか、いくらかは薬も持っているが」
     土や草で汚れた氷船の服をはたきながら海晴が確認して、氷船は平気だと答えた。それからずれた服を直すと、首を巡らせて木立ちの向こうを見る。
    「……さっき、草の中に何か……誰か?が、いた。見てきてもいいかい」
    「構わないが……本当にいるのか? 僕には見えな……あっこら一人で行くんじゃない、今の失態をもう忘れたのか」
     海晴に叱られながら氷船は斜めに斜面を登り、その草むらを覗き込んで息を呑んだ。
     山を滑りながら氷船が見た草の中には、氷船よりもいくらか年下くらいの少年が寝かされていた。ただ、その傷の大きさや顔色から、もう息をしていないことが分かる。
     後からついてきた海晴が、またも呆然としている氷船の横をすり抜けて草むらの脇に膝をついた。
    「……獣人族、だな。どういうことだ? 仲間割れでもしたのか。この傷は獣の爪だろう、妙にでかいが」
     草の中へ丁寧に寝かされた少年のそばには、氷船と同じくらいの年頃らしい金赤毛の獣人、それからもっと大きな、見たことのない黒い獣の体が転がっていた。少年を挟んで川の字に金赤と獣が並んでいて、草の倒れ方が荒れていないことから、少年の傷はこの場所でついたものではなさそうだと氷船は考える。獣も金赤も酷く傷だらけで、とても氷船たちの村を襲った犯人とは思えなかった。
     そこへ、だだ、と何かの走る足音が近づいてくる。四足の獣に近いが、少し乱れた足音だ。そして疾い。二人が音の方向を見たときには、もう足音の主は目の前だった。
    「触゛!!」
     怒号とともに花葉色の塊が木立から飛び出し、横合いから海晴に突進する。海晴を支えようとした氷船まで一緒に弾き飛ばされて、それぞれの肩や肘、背中に土がついた。氷船と海晴が慌てて起き上がると、獣人の少年たちの前、ついさっきまで海晴がいた場所に男がうずくまっていた。
     それは、花葉色の衣を纏った獣人族だった。くすんだ赤毛の、海晴より年嵩らしき男。人間族二人を追い払い、それだけで力尽きたかのようだったが、震える四肢をどうにか地に立てようとしている。彼もまた、草むらに寝かされた獣人たちと同じように傷だらけで、特に両手が泥にまみれ、獣人族自慢の爪も割れて剥がれていた。
     だからただの体当たりだったのか、と氷船が理解する間にも、獣人の男はよろよろと四足で上体を持ち上げる。血や涎の混じった赤い体液が男の口の端から垂れ、胸元からもばたばた血が滴った。海晴の顔色が変わる。
    「やめろ! それ以上動くのは君が危険だ、僕らに攻撃の意思はない!」
     だが、聞こえているのかいないのか、獣人の男は人間族を睨んで身構えたままだ。視力があるのかどうかも分からない、濁って焦点の合わない目が、それでもぎらぎら光って海晴と氷船の方向を睨んでいる。
     海晴が氷船の前に立って、後ろ手に逃げ道を示した。しかし、ここで医師を失っては村全体の生存率に関わる。氷船が前に出ようとするのと、獣人の男がじりりと後脚をたわめるのとは同時だった。
     しかし、獣人族がたわめた後脚のばねを発揮する直前、男の目がぐるりと上向いて体が傾いだ。男が白目を剝いて崩れ落ち、人間族二人の緊張した息遣いだけがその場に満ちる。
    「……」
     なぜ、と氷船の頭を疑問が渦巻いた。村をめちゃくちゃにしたのはいったい誰なのか、獣人族の彼らはなぜこんなに傷だらけなのか、彼らを襲った何かしらの存在は村人にも害を及ぼすだろうか。渦巻くのは疑問ばかりで、答えどころか解法さえひとつも出てこない。
     次の行動を決めあぐねている氷船の腕をゆっくり掴み、海晴が静かに言った。
    「この場所は危険かもしれない。すぐに離れよう、長居するなら猟師でも連れて来るべきだ」
    「でも」
     氷船は草むらのほうを見やった。あの獣人の男は、満身創痍ではあるがついさっきまで確かに生きていた。今処置をすれば、まだ助かるかもしれない。
     氷船の視線を追った海晴が眉を寄せて逡巡を見せる。
    「……身体能力の高い獣人族をあんなにした犯人が、まだそばにいるかもしれないんだぞ」
    「だ……ったら、なおさら、助けたほうがいいんじゃねえか。戦力になるかはともかく、情報は寄越してもらわねえと」
    「…………」
     海晴は氷船と獣人族、それから木立や茂みへ素早く視線をやって周囲の様子を探った。少なくとも今は不審な気配がないのだけ確認して、海晴は身を翻す。赤毛の男の脈を取りながら海晴は言った。
    「少しでも危険があればすぐに切り上げる。不審な物音や人、獣の気配があれば即座に逃げろ。きみは自分の命を最優先するべきだし、僕もそのように行動する」
    「……わ、わかった」
     氷船はとにかく頷いて、それから海晴を手伝って赤毛の止血をした。海晴が袂から出して男に巻いた包帯が、みるみる赤く染まっていく。
    「……」
     それを見ながら、氷船はぐっと奥歯を噛んだ。見捨てるのは嫌だ。目の前で人が死ぬのは怖い。――けれど、獣人族が氷船たちの村を襲ったことも確かだ。獣人族は敵でもある。このまま助けて、助かったとして、それが良い方向へ転ぶとは限らなかった。
     黙り込んだ氷船に、海晴が静かに声をかけた。
    「……何か話が聞けたら、蒼生様に奏上しよう。きみも僕も、間違っていない。真実を知るために必要なことだ」
    「先生……」
    「ただし、応急処置は本来、周囲の・自分の安全を確保した上で行うべきものだ。今の僕らはそれを確保できていない。……間違ってはいないが、完全正答でもないことを覚えておくように」
     氷船の迷いを察して励ましてはくれるものの、それはそれとしてこの場所が安全とは限らないことを強調する海晴だったが、そう言いながらも彼の手は澱みなく処置を続けている。やることのなくなった氷船は、きょろきょろと周囲を見回して手頃な枝を探した。頑丈な枝に氷船の衣を括り付ければ、即席の担架を作れるだろう。
     そう思って上や下を見ながら草地の周囲を歩く氷船の足元で、ガサガサバリバリと下草や落ち葉が騒ぐ。その音に合わせて、氷船の視界の端でぴょろっと何かが動いた。
    「?」
     正体をうまく見定められなかった氷船は、もう一度足を踏み締めて音を出す。ぴろ、と赤いものが翻って氷船のほうを向き、それは、村の猟師の飼い犬が眠りながら耳を動かすのに似ていた。
     氷船は慌てて金赤毛の獣人に近寄り、彼の口元に手をやって呼吸を確認する。やはり耳が動くのと、弱々しいが確かに空気も動いていることが分かり、氷船は思わず呟いた。
    「……生きてる」
     腹の底がじわじわと熱くなる。氷船は顔を上げて叫んだ。
    「先生、生きてる!!」
    「何!?」
     手元の包帯を切って留めた海晴が、急いで氷船のもとへ向かう。氷船が場所を譲ると、海晴は金赤毛の呼吸や脈を確かめて頷いた。
    「――まだ助かる。氷船くん、補助を」
    「はい!」
     赤毛の男のときと同じく、氷船もまた処置を手伝った。横向きだった獣人の体を氷船が慎重に転がし、傷口が見えやすいようにすると、海晴が消毒薬と血止めを染み込ませた布を傷口に被せる。その布が外れないように、二人で協力して包帯を巻いた。
     生きている、助けられる、氷船と年頃も変わらないくらいの若者を。氷船の胸は高鳴っていた。助けた後にどうなるのか分からなくても、いつかの未来にこの瞬間を呪うのだとしても、見捨てるよりよほど良かった。
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    Ao_MiNaMii

    PROGRESSししんでんしんそくぜんしゅぞく本Side玄武 人間族の章2

    正義
    手負いの獣人。知らん人間が仲間に触ろうとしていたのでバチギレ

    海晴
    人間の村の医者。怪我人の手当をできるほど周囲の安全が確保できない

    氷船
    獣人たちの第一発見者。村の子どもの一人。
    正義登場「……さっき、草の中に何か……誰か?が、いた。見てきてもいいかい」
    「構わないが……本当にいるのか? 僕には見えな……あっこら一人で行くんじゃない、今の失態をもう忘れたのか」
     海晴に叱られながら氷船は斜めに斜面を登り、その草むらを覗き込んで息を呑んだ。
     山を滑りながら氷船が見た草の中には、氷船よりもいくらか年下くらいの少年が寝かされていた。ただ、その傷の大きさや顔色から、もう息をしていないことが分かる。
     後からついてきた海晴が、またも呆然としている氷船の横をすり抜けて草むらの脇に膝をついた。
    「……獣人族、だな。どういうことだ? 仲間割れでもしたのか。この傷は獣の爪だろう、妙にでかいが」
     草の中へ丁寧に寝かされた少年のそばには、氷船と同じくらいの年頃らしい金赤毛の獣人、それからもっと大きな、見たことのない黒い獣の体が転がっていた。少年を挟んで川の字に金赤と獣が並んでいて、草の倒れ方が荒れていないことから、少年の傷はこの場所でついたものではなさそうだと氷船は考える。獣も金赤も酷く傷だらけで、とても氷船たちの村を襲った犯人とは思えなかった。
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    Ao_MiNaMii

    PROGRESSししんでんしんそくぜんしゅぞく本Side玄武 人間族の章

    人間族の玄武=氷船ヒブネ
    村を焼かれて疲労困憊で裏山をうろうろしてたら滑って転んだ

    人間族の薫=海晴ミハル
    子どもたちが避難したって聞いて山小屋に向かってたら氷船が斜面ズベベベベしてきたので激おこスティックファイナリアリティなんとか
    この時点では信と正義に息がある 火の手がどこまで回っているか確認して、もし近いようならもっと上の小屋へ移動して、村や大人たちがどうなっているか確認して……
     そう考えて、それを行動に移したはずなのに、気づけば氷船はふらふらと山小屋や村の周囲を彷徨っていた。あれこれ確認して次の行動を決めなければ、と頭では分かっているつもりなのに、焼けた村を目にするのがどうしても怖い。代わりにあちこちへ無意味な視線を投げながら歩いているうちに、踏みつけた草で靴が滑って視界と重心が転げた。
     ずざざざ、と自分が山を滑っていく音が氷船の意識を席巻する。呆然とする氷船の耳に、鋭い声が飛び込んだ。
    「氷船くん!」
     同時にガクンと視界が止まって、肩の布地が上に引きずられ腰帯がずれる。しぱしぱと何度か瞬きをしていた氷船は、覚束ない動作で肩の上のほうを見上げた。
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