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    Ao_MiNaMii

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    ししんでんしんそくぜんしゅぞく本 side玄武
    氷船の話 今週の更新
    狩りとして動物を撃ったり斬ったりする描写があります

    #天地四心伝

    猟師vs暴れ鹿 助っ人乱入アピールチャンス 三、四、と、立て続けに猟師たちの銃声が森を揺らす。七雲は猟銃に火薬と弾丸を必死で装填しながら、山の斜面に身を低くして標的を見据えた。
     標的は一頭の鹿だ。左右の枝角があちこち不揃いに欠けている。冬毛の生え方も不揃いで、季節による生え変わりというよりも、罠や木々にでも引っかけて傷になった場所が過回復したかのような形と範囲に長い毛が生えていた。
     やや大きめの牡、普段なら良い獲物となるくらいの鹿は、しかしこれまで見たことがないほど暴れ狂っている。鹿は本来臆病なはずだが、今七雲の目の前にいる個体は、角を振り上げて何度も猟師に襲い掛かっていた。襲われた猟師は体の前に構えた銃身でその角を受け止め、おかげで角が刺さりこそしなかったものの、速度が乗った鹿の重量に耐えきれず山の斜面を転がった。彼の猟犬が吠えながら主を追う一方で、鹿は跳ね上がって向きを変え、今度は七雲へと突進する。
     どうにか装填だけ終えた七雲は急いで鹿の軌道から直角になる方向の木陰へ駆け込み、その場所から鹿へ向けて引き金を引いた。しかし、激しく動く的へは当てづらい。弾丸はわずかに間に合わず、駆け抜けた鹿の尻を掠めて森へ消えた。毛皮を裂いてわずかに鮮血を散らした鹿の尻がみるみる治癒して毛が長く伸びていくのを、七雲は苦い気持ちで目に焼きつける。
     ずっとそうだ。犬が噛んでも弾丸が掠ってもすぐに治っていく、おかげで消耗戦にすらならない。一方的に猟師側が消耗するだけだ。
     しかし逃げるにも逃がすにも、この場所は避難所の山小屋群と近すぎる。その考えの元、猟師たちはどうあってもこの鹿を仕留めようとしていた。七雲が次の弾を用意しているうちに三人目の猟師が発砲し、鹿の意識がそちらの猟師へ逸れる。鹿は七雲を忘れたかのように、その猟師へ向けて駆け出した。
     一緒に狩りをしていた七雲含む三人の猟師のうち、最も熟練のその猟師は、突進してきた鹿の角へ閂のように猟銃を引っかけて鹿と押し合う。歯を食い縛った猟師の額には汗が浮いている一方、鹿の口の端からは血泡交じりの涎が糸を引き、こちらも尋常の様子ではないことが察された。
     七雲は急いで再装填を進める。彼が鹿の動きを止めてくれているうちに撃たねばならない。元々用意していた早合――火薬と弾丸を先に合わせておいた分――は既に使い切ってしまったため、予備で持ってきていた火薬と弾丸を順番に銃口へ詰める必要がある。もどかしい気持ちで七雲はそれを終え、専用の棒で銃身の奥へそれらを突き入れてから銃口を鹿へ向けた。
     銃声がまたも森を揺らし、七雲の猟銃が細く煙を上げる。銃弾は鹿の胴体やや腰寄りを抉り、しかし鹿は倒れもせずにその場で暴れた。標的がまだ倒れないと知って、二頭の猟犬が鹿の背や腰に飛びつく。
     それでも鹿は暴れ続けている。その傷が弾丸を吞み込みながら塞がりかけているのを、七雲は恐れと焦り、苛立ちの混じった気持ちで睨みつけた。その手は必死で銃の装填を続けている。
     だが、その装填が終わる前に、鹿は大きく仰け反るようにして角を振り上げた。鹿と押し合いをしていた猟師の手から猟銃がむしり取られ、鹿は角に銃が掛かったまま目の前の猟師に蹄を向ける。
     七雲は思わず叫んだ。
    「先輩――!!」
     その声と重なった葉擦れが七雲の頭上を通り過ぎていく。七雲がはっとしたときには、その音はとっくに樹上から飛び降りていた。
     秋の木の葉より鮮やかな赤い髪が、七雲の目の前で翻って遠ざかる。枝の上から降ってきたそれは力いっぱい鹿の首を蹴り飛ばし、着地した先から猟師を振り向いた。
    「大丈夫か!」
    「あ、ああ……」
     信の姿を初めて見る猟師がどうにか返事をして、視線を鹿のほうへ滑らせる。獣人の脚力に蹴り飛ばされた鹿は、山の斜面に横倒しになりながら蹄で土を掻いていた。
     鹿を蹴り倒して猟師を助けた信は、耳と尾を揺らして声を低める。
    「……首の骨を折ってやったと、思ったんだがな」
     信が鹿を蹴倒した弾みに鹿から飛び退いた猟犬たちが、それぞれの主の傍らでぐるぐると唸る。信が蹴りを当てた首の根元をぐらつかせながら、鹿は前脚を立てて立ち上がった。
     信が腰を沈めて構える。猟師たちも銃を構えた。そこへ、斜面の下側から鋭い声が放たれた。
    「全員待機! 俺が出る!」
    「!?」
     信の耳が震え、猟師たちは覚えのある声に慌てて銃口を下げた。何を、と信が反発するより早く、駆け上がってきた蒼い人影が白銀の一太刀で鹿の首を落とす。
     どさ、と落ちた鹿の首は、さすがに治癒の様子を見せない。首を失った体もぐらりと傾いて、どうと横倒しになった。
     ようやく動かなくなった鹿に、信を含めてほっとした空気が流れる。七雲が鹿から視線を滑らせると、蒼い人影――蒼い衣を纏った蒼生が、刀を納めるところだった。
     斜面を駆け上がった勢いのまま鹿の脇を駆け抜けた蒼生には、返り血の一つもついていない。蒼生様、と、年長の猟師が思わずといった様子で口にすると、蒼生もまたほっとした顔で振り向いた。
    「――間に合って良かった! みんな、怪我はねえか?」
    「はい、蒼生様のおかげで……ただ、」
     もう一人猟師が、と、年長の猟師が続けようとしたとき、ちょうど斜面の下のほうから犬の吠え声と人の声が近づいてくる。鹿に跳ね飛ばされて山の斜面を転げた猟師は、蒼生たちに助けられていたようだ。
     それが分かった猟師たちはようやく胸を撫で下ろし、そして、蒼生や護衛たちと一緒に鹿の検分を始めた。
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