〜彼女の中から自分の記憶が消えていき不安になる五条〜 「あれ?」
隣にいる彼女から戸惑う声が聞こえ視線を向けると携帯を見ながら眉間にシワを寄せていた。どうしたの?と五条は声をかけると、あのねと口を開いた。
「これっていつ行ったっけ?」
渡された携帯。画面を覗くとそこには2人で花火を見に行ったときの思い出が映っており、どうしてそんな事を聞くのかと違和感を覚えつつ先週だよと伝える。
「え、うそ……」
驚く彼女。そんなの知らないと言わんばかりにカッと目を見開いていて、そんな彼女に別の意味で五条も驚いた。
(え、なに言ってんの……あんなに幸せそうにしてたのに)
“来年も見ようね!”
そう言って指切りもしたことが彼女の中ではなかったことになっており、胸の奥底から這い上がってくるナニカに身体がブルッと震えた。
「っ、どうしたの?」
「……ダメだよ。どこにも行っちゃ」
五条は溢れてくる不安を消すように彼女を腕の中に閉じ込めた。
どこにも行かせない。
おわり。