愛されている自覚はあった。……でも、彼は 「あなたは、彼の弱点なんです」
そう告げる伊地知さん。その表情は真剣で。いつもと違う雰囲気にブルッと身体が震えた。
「あなたを傷つける人間は必ず始末します。それだけじゃありません。その人間に関わった者たちも対象です」
心当たりがあるのではないですか?
その問いかけに、ハッ、と息を呑む。
(そうだ、今まで……)
敵はおろか、伊地知さんや生徒達に向ける視線が怖いときがあった。とくに恵君には……。
でもそれは、ヤキモチなんだと思っていたけど……今となっては、そんなことで片付けられる話じゃないとわかる。
「あなたの言葉一つで、彼はなんでもします」
ーーだから、どうか
「ご自身の立場を、ご理解ください」
ペコッと頭を下げ、立ち去る伊地知さん。
彼の背中を見送り、はぁ、と息を吐く。
(……私は、どうすれば)
もっと自分に力があれば……。
護られてばかりの状態に嫌気が差していると、ふと人の気配が。振り向こうとした瞬間、ぎゅっと抱きしめられた。
「どうしたの?なんでそんなに悲しい顔、してるの?」
耳元から聴こえる彼の声。
はぁ、と吐く息が耳を刺激する。
「……、こ、これは」
「嘘言ってもダメだかんね。お前下手だからすぐわかるし。それに……」
ーーお前が悲しいと、僕も悲しいから
「不安は全部、僕が消してあげる。だから、そんな顔、しないで……」
その言葉に、あぁ、やっぱり私は彼から離れられない。そう感じた。
「うん。ありがとね。でも、大丈夫だから」
真横にある真っ白の頭。ふわふんのそれをやさしく撫でる。肩に埋めていた顔があがり、こちらを見つめてくる。ゆっくりと近づくそれに、私は瞳を閉じた。
「大好き。愛してる。お前は」
ーー僕のものだからね
おわり。