Inhale the warmth. (音春)オーディオデッキからずっと知らない曲が小さく遠慮がちに流れている。
それは時に激しく、時に緩やかにメロディーを奏でては余韻を残しながらフェードアウトしていき、そしてまた新しい曲が流れ始める。
ソファーで仰向けに寝転びながら横目に、こちらに背を向け床にクッションを敷いて座ってパソコン作業をしている人物へ「誰の曲?」なんて問いかければ、少し間が空いてから「クライアント先の今までの楽曲です」とちらりとこちら見てくれるものの簡潔な答えが返ってくる。
その後も視線は再びパソコンへと戻り、カタカタと止むことのないキーボードを打ち込む音と遠慮がちな存在感で延々と響くバンドの演奏に、どうやら無意識にため息が出ていたらしい。肺の中の空気がなくなった感覚と同時に、ふと小さく聞こえていた音楽とキーボードの打ち込む音が止まり、続いてずぅっとパソコンとにらめっこしていた彼女がようやくこちらを振り返ってくれた。
1326