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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    ひまわりのあとぐらいのふぃがろの独白、うっすらフィガファウ

    人混み、一人の魔法使い 中央の国では聖ファウストを祝う祭りが幾度となく開かれる。むしろ祭りを開く口実にしていると思えるほど、フィガロが行くたびに露天が、街が、いつだってセールをしていた。
     最初はまるで当てつけのようにすら思っていたが、今はああそういうものなのかと納得している。盛り上がる理由など、気持ちが上がれば良い。感覚が麻痺するのと同じ、自分も順応したのだろう。ほら、西の国の方がよっぽどである。関わりのあるいかれたメンツを思い出し静かに頭を振る。
     日々の感謝、大いなる心に最大の敬意を、共に中央の国の繁栄を!
    「絶対に思ってなさそう……」
     見事な現実と理想の乖離だ。今日だって朝から睨まれ、また喧嘩したんですかと生徒に戒められたばかりである。思い出して、フィガロは小さく笑った。
     嫌われている現状に嘆くより、今は出会えたことやまた共に生活できることを喜んでいる。ずいぶんと丸くなったものだ。我ながら自分に感心している。
     足取りが軽くなって、気分が少しだけ上向きになった。手を伸ばされた白の花束に目を奪われたのも、きっとそのせいだろう。
    「一つ、貰えるかい?」
     花屋の店主から花束を買い、お金を渡す。
     お買い物かいと聞かれて、ええそうですと答えた。
     南の国の開拓を進める前までは仲間のために雑務を引き受け、自ら買い物をする未来が来るとは思っていなかった。
     今までは誰かが買っていたのだ。人間も、魔法使いも、弟子だった彼もその一人である。
    「はぁ……」
     決して苦ではないが、時折考えてしまう。南の国ではどこか忘れていた感覚だ。馴染みの顔と同じ場所で生活するようになってからは特に思う。
     おまえは何をしているんだ。
     訴えられるようはいくつもの目。過去に善を積んだおかげで彼らを抑えられているものの、いつ何か重大なことが起こるか分からない。オズがいなければ、今ごろ賢者の魔法使いたちはとっくに空中分解していただろう。ああ、いつだって彼は運命を握っている。
     羨ましいとは思わない。ただ、そんな力があったら未来は変わっていただろう。何者にもなれていない事実に虚しくなるだけだ。
     ラッピングされた花束、リボンと一緒に結ばれたタグには白い装束を見に纏った紫の瞳を持つ青年が描かれている。聖ファウストとイタリック体の文字はおそらく手書きで、一つずつインクを使って丁寧に記入されているのだろう。味のある書き出しの滲みに小さく笑う。
    「ほんと……」
     嬉しいような、悔しいような。もう、複雑で一言では言い表せられない。
     手を離したことを後悔しそうになりながら、過ぎたことを考えすぎないよう理知的な自分が止めにかかる。長い人生で身についた防衛反応で、生きる術だ。
     荷物を右手にまとめ、白いマーガレットの花束をそっと鼻先へ。ふんわりと香る野花は南の国を思い出した。
     昔も、今も、自然ばかりでまだ他国のように名がある場所ではない。人の良さだけはきっとどの国よりも優れているだろう。
     何もないから、一から始めたかった自分にはぴったりだった。目論見は成功して、南の国の精霊に愛されるようになり、南の国の魔法使いとして召喚された。
     肩書は変わった。過去は、変わらない。
    「ああ……」
     ねえ、知ってるかい?
     聖ファウスト様はね、俺の弟子だったんだよ。
     ときどき、大きな声で自慢してやりたい気持ちになる。女々しくなって、自分が嫌いになりそうだから抑えているだけ。
     誰も信じてもらえないかもしれない。今となってはこの事実を知っているのは腐れ縁ばかりだ。
     もちろん言いふらす気もない。ただ己の刹那の高揚感を満たすだけだろう。現状が好転することなど何一つない。
     ファウストは呪い屋になった。サングラスをかけて、全身真っ黒で、態度も言葉遣いもすっかり荒くなった。要素だけならすっかり別人だ。
     変わるなら全部変わってくれればよかったのに。時折見せる昔の面影に囚われ続けて、むしろ変わっていない本質をつい見つけてしまって、ずっと目で追いかけてしまうから。
     最近は強烈な態度ですら彼なりの甘えにすら思えてきた。嘘、これは自分の心を守るための防衛反応だ。本気で嫌われていたら、さすがに苦しくなってしまうから。
     いっそ唾でも吐いてほしい。分かりやすいのに。叶わなかったあの日を思い出し、一人苦い顔をした。

     ねえ、知ってるかい?
     聖ファウスト様だった彼は俺を見てものすごく嫌な顔をするよ。魔法を教えてあげたのにね。
     酒で記憶を飛ばすこともあるし、敬語も使わないし。多分、最初は北の魔法使いたちと同じぐらい任務に非協力的なんじゃないかな。
     でもね、すごくいい子なんだ。昔から変わってない。真っ直ぐで、真面目で、嫌だ嫌だと言いながらきっと一番真摯に仲間のために身を削っている。
     本当にね、いい子なんだよ。
    「はは……」
     未練たらたら、みっともない。
     可愛い弟子だった彼を思い出しフィガロは静かにため息を吐く。ああ、最近は口すらろくに聞いてくれないのに。
     愛が返ってこないことに寂しさを覚えながら、己の罪を償っているようで安心して、まだ傷をファウストが忘れていないことに安堵する。
     まるで縋っているみたいだ。
     ファウストと話したい。できれば昔みたいに穏やかに。たとえ関係性が戻ることはなかったとしても。
     そんな小さな欲望を叶えたくなって、何かきっかけになるものを買えばよかったと思った。手に持った花束を見つめながら、フィガロはありきたりな会話のきっかけを想像してみる。
     きみのお祝いが開かれていたよ。有名になったね。ほら、ここにもきみがいる。
    「うん、さすがにね」
     多分、もっと嫌われる。やめておこう。
     人混みの中、花束を抱きしめ、肩が下がるほどの荷物を握りしめる。

     人混みを歩く、ぶつかる、お互い気持ちよく相手に謝る。
     いっそ飛んで帰りたいな、と思った。

     早く、抜け出したい。
     
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