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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    休日に学校で勉強するフィガファウ(同級生っぽい距離感の学パロ)

    友達と勉強 土曜日、テスト一週間前。ほとんどの部活は休止しているせいか、校舎ではやけに静かな空間が広がっていた。
    「あ、来た」
    「早いな」
    「電車、いい時間なかったからさ」
     大教室前の開けた空間、六人掛けの椅子の片側三人分を優雅に陣取ったフィガロはファウストにひらひらと手を振る。
     八時五十分、約束の十分前。少し早く来すぎたかも、なんて考えは杞憂だった。
    「一階のコンビニって開いてるか?」
    「時短らしいよ、もう開いているんじゃないかな」
    「分かった」
     リュックを机の端に置きながら、ファウストはぐっと背筋を伸ばす。
     テキストとノートとレジュメと筆記用具、あとは電子辞書。フィガロが持ってきたであろうポケット六法に比べたらうんと軽いはずのに、重装備なファウストに比べ、彼は相変わらず薄っぺらいトートバッグ一つで来ていた。
    「摘めるもの買ってくる」
    「いいよ、持ってきたから」
     ほら、と机の上に出されたビニール袋の中からは小分けのチョコレートや焼き菓子の大袋が出てくる。どれもスーパーやコンビニでは見ないパッケージばかりであった。
    「……言い訳をさせてくれ、僕も事前に準備していたんだ。でも家に忘れた、今から買いに行ってくる」
    「え、足りなかった?」
     ほら、まだあるよ。なぜか机の下から追加で大袋のマドレーヌが出てきた。どれだけ持ってきているんだこの人は。絶対に食べきれない量である。
     ファウストは慌てて首を振れば、フィガロは不思議そうに首を傾げた。
    「違う、申し訳ないから。ブラックでいいか?」
    「え、俺も行く」
    「荷物見てないとまずいだろ」
    「じゃあ荷物ごと。ああ、場所取りはしておいた方がいいね」
     チョコレートと焼き菓子とマドレーヌの袋を机の上に置き、フィガロは荷物をテキパキとまとめていく。
     面倒だからいい、一人で行ってくる。そんな言い訳はフィガロの手際の良さの前では意味をなさなかった。
     廊下の突き当たり、階段を降りるだけ。青色に光るチェーン店の自動扉を抜ければ、普段ふらりと寄る見慣れた景色が広がっている。
    「学校のコンビニ、久々かも。この辺りで授業することほぼ無いし」
    「大教室ばかりだもんな」
    「そうそう、俺らの学部は古い小さな旧校舎だよ」
     二人でくすくすと笑い、一通り文句を言い合う。いつもの流れだ。
     ファウストは話しながらもポテトチップスとせんべいをかごの中に入れていく。
     一応用もなくぐるりと一周して、結局缶コーヒーやペットボトルのコーナーに戻ってきて。ファウストはうろうろと後をついてくるフィガロに目線を向けた。
    「蓋、あった方がいいか?」
    「いや、こだわりはないけど」
    「じゃああっちで頼むか」
     スタスタとレジに向かうファウストは、店員が商品をスキャンしている間にアイスコーヒーを二つ頼む。渡されたカップ二つはフィガロが受け取り、彼は端に設置されたコーヒーメーカーへ歩いて行った。
     ペイペイ! と小気味良い音が響く。決済を終えて、レシートを受け取って、ファウストらポテトチップスとせんべいの袋の端を片手で掴んだ。重たくはないが、案外嵩張る。
     フィガロの元へ向かえば、彼はちょうど二杯目のボタンを押しながら、一杯目に蓋をしているところだった。
    「コンビニのコーヒー、久しぶりかも」
    「コンビニ行きそうな顔しているのにな」
    「あはは、もしかして悪口?」
     誰もいない階段を再び上がり、二人はお菓子ばかり置かれているテーブルに戻ってくる。相変わらず人はいない。警備員の人すらすれ違わない。どうやら席が埋まる心配などしなくてもよかったらしい。
    「ほんと静かだね」
    「テスト前だからな。真面目な人は図書館でやっているだろうし」
    「確かにそうかも」
     フィガロはあははと声を出して笑う。
     前回、テスト前に友達と一緒にレポートをした。
     公民館に行って、一時間ぐらいは人生ゲームをして、途中ファミレスでご飯を食べたりして、一応ちゃんと勉強もして。
     そんな話をしたら、フィガロが羨ましいと言った。
    「あなたは真面目だから、こういうことはあんまりしたくないのかと思っていた」
     ぽりぽり、ぽりぽり。えびせんべいを食べながらシャープペンシルを回す。テストで出るであろう英文を紙で隠して、書いて、答え合わせをして。その繰り返しだ。よし、ほとんど合っている。
    「それはファウストもだよ。きみ、テスト前はバイトもほとんど入れてないじゃないか」
    「それはどの学生もそうだと思うけど。あなたがおかしいんだ、どうしてヘラヘラしているのに道に張り出されるぐらい頭が良いんだ」
    「うーんさっきから微妙に貶されてる?」
     ぺらぺら、ぺらぺら、六法の薄い紙をめくりながらフィガロは笑う。小さい字がびっしり書かれたレジュメは端が折れており、それだけでも彼がどれだけ勉強をしてきたかがよく分かった。
     一人でも勉強はできる。それでも、どこか憧れがあった。みんなでテスト勉強、やってみたい。
     そんなフィガロからの軽い言葉にファウストは少し驚いて、喜んで付き合うことにした。
     それにまだテスト一週間前である。遊んでもまだギリギリ巻き返せるタイミングだ。
     遊びたいのか、それとも勉強したいのか。フィガロの思惑はいまいち掴めない。
     だからこそ、どう転んでも良いとすら思っている。
    「きみと休日に学校で会うのってさ、なんだか不思議な感じ」
    「なんだ、文句でもあるのか」
    「喧嘩腰だね、寝不足?」
     余計にイライラして回していたペンをノートの上に落とす。ケラケラ笑われて、露骨に舌打ちしそうになった。
     血が上るファウストを楽しげに見ながら、フィガロはアイスコーヒーにそっと手を伸ばす。机は結露で少しだけ濡れており、人差し指ですっと拭き取った。
    「せっかく過去問手に入れたのに。いらないの?」
    「欲しい、どうか見せて下さいフィガロ様」
    「手のひらくるっくるだね」
     はいどうぞと渡されたファイルをファウストは大袈裟に頭を下げて受け取る。
     フィガロは勉強ができるだけでなく、コミュニケーションも、要領も良い。時折覗く困った性格以外は、きっと非の打ち所がないだろう。彼と友達になれたのが不思議なぐらいである。
    「いつもありがとう。僕も持ってきた」
    「やっぱりテストはみんなで協力しないとね」
     協力しなくてもほぼ満点を叩き出すフィガロからの言葉にファウストは眉をひそめる。
     ああ、怒らないで。お腹すいたの。ほら、どうぞ。マドレーヌをファウストのノートの前に並べながらフィガロはニコニコと笑う。
     そんな楽しそうなフィガロを見て、怒りはすっかり呆れに変わった。
     一日はまだ始まったばかりだ。
     昼は学校近くのファミレスで食べて、日が沈むまで勉強をして。英文を小さく口に出すファウストをフィガロはにこやかに見つめる。
    「うるさかったか?」
    「気にしないよ、続けて」
     きみの声が心地よかったんだよ。
     なんだか口に出すのが億劫で、フィガロは曖昧に笑った。
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