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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    ほんのりフィガファウ、師弟時代のモブ目線。
    フィのところに修行に行き、ファもフィに少し似てしまっていたらいいよねの産物。

    笑顔 あのお方が笑いかけてくれたから、私は救われました。

     ひと目見たときから、分かっていました。ああ、あのお方は住んでいる世界が違うんだな、と。
     周りの屈強な男よりも細身で少しだけ小柄な人。まるで違う世界からきたような清らかな雰囲気は、私のような隅っこで生きる人間には眩しくて仕方がありませんでした。
     そんなあなたが、私を見て、名前を呼んでくれて、笑いかけてくれた。それが、どうしようもなく嬉しかった。手の届かない神様が、私のところまで降りてきて、手を伸ばしてくれたみたい。何をして惨めな日々を過ごしてきた私に、生きる希望をくれました。
     そんなあなたは、しばらくして北の国へ行かれました。
     強くなって、帰ってくる。その言葉通り、一年経って、強くなって、美麗な人を連れて帰ってきました。
     隣に立ついつも笑顔の男は、時折冷めた目で私たちを見ていました。優しい言葉をかけながら、どこか見下されているような。なんとも言えない気持ち悪さを感じる目線です。
     しかし、そんな彼をファウスト様は大層慕っていました。
     そのとき、私は感じました。ああ、きっと何かが変わってしまったんだと。
     ファウスト様が美麗な人に向ける視線は、私が見たことはありませんでした。どちらかというと、見たくないものを見てしまったような、そんな気持ちに近いような気がします。とにかく、すごく嫌な気持ちになりました。
     しばらくして、美麗の人はいなくなりました。
     やっといつものファウスト様になってくれる。あのときのファウスト様に戻ってくれる。
     そう思っていたのに。あのお方は、変わりませんでした。いつの間にか笑わなくなり、アレク様の隣に並ぶ、ただただ遠い人になりました。
     それからは、あまり思い出したくもありません。ファウスト様のよくない噂が流れはじめ、アレク様はついに動かれて。
     それから、それから。
     
     獄中でも、あのお方は綺麗なままでした。顔に何本も赤い線が引かれていても、腕に締め付けられた跡がついても、服がボロ布のような薄汚れたものでも。紫の瞳だけは清らかなままでした。
     あの方は怒ることもなく、ただ困ったように笑っていました。理不尽な暴力に屈する力もあるにも関わらず、あの人は笑っているだけでした。
     私は、あの日感じた喜びの笑顔が欲しかった。ただ、それだけ。
     いっそ、逃げ出してくれたらどれだけ気が楽になったでしょうか。相変わらずの細腕に止められた鉄の鎖はあまりに大きくて、不恰好で。それを時折じゃらりと動かしながら、あの方は大層つまらなさそうな顔をしていました。
     独房を覗いた私に、彼は力なさげに笑いました。
     しかし、彼は私を見ていません。私の瞳の奥の、もっと違う何かに笑いかけているみたいで。
     
     私は、笑えませんでした。
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