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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    自分のヘキ(魔法で魔女化・オカルト・二人で潜入・ししょーの好み・執着)を詰め込んだフィガファウのSSです。
    2部前っぽいツンツンしたファがいます

    ようこそ終わらぬ○○へ 鬱蒼としげる森を抜けた先、月が輝く怪しくも美しい屋敷。
     煌びやかな衣装を身に纏う人々は白の柱に囲まれた入り口に吸い込まれていく。中に入れば豪勢なシャンデリアが煌びやかに光り、目の前には二股に分かれた大きな螺旋階段が浮かれた客を迎え入れる。赤色の絨毯が敷かれたその道を下っていけば、そこは毒々しいほどに華やかな空間が広がっていた。
     入り口の中央の大きな扉が開けば、談笑する人々はちらりと目線を向ける。一瞬ではあるものの、新しく訪れた男女を上から下までじろりと見るのだ。まるで値踏みのようである。
     もうすぐパーティの中盤にさしかかるころ、少し遅れて一組の男女が会場に入っていく。そして、彼らは場に酔いかけていた人々の視線を一気に奪い去った。
     まず、目に留まるのは顔の良い高身長の美丈夫だ。にこやかに微笑みながら、腕を組むパートナーに優しい微笑みを向けている。
     スラリとした体格、小さな顔、品のある雰囲気。そして、不思議な色の瞳に吸い込まれそうになる。
     そんな彼に腕を組むのは、どこか儚げなスラリとした美人。かなり細身ではありつつも出るところは出ており、女性の理想のような体型。彼女は下品な露出はしないけれど肩から腕にかけてはさっくりと開いた大胆なドレスを着ていた。
     体型が分かりやすく出るシンプルな形はスタイルを一層美しく引き立てる。髪は後ろでしっかりとまとめられており、デコルテにはきらりと小粒の宝石が輝く。価値の分かる者は、一目見ただけでほぅと感嘆の息を漏らした。
     隣に立つ男も相まって、美女は人々の好奇と嫉妬の目を一気に引き寄せていく。けれど興味本位で近づいてきた男たちに、彼女は少しだけ眉をひそめ、さっと扇子で顔を隠した。
     その不躾な態度にすら、美女を鮮やかに彩らせる一つの要素に成り果てる。人々にとっては、その睨みすらも場が盛り上がる気持ちの良い刺激になっていた。
     隣の美丈夫はにこやかに笑い、すれ違う人々に会釈をしていく。パートナーに比べうんと愛想は良いものの、その笑みの裏には底知れぬ不気味さを感じられた。
     夜は次第に更けていき、人々は一層場に酔いしれる熱狂の時間にさしかかる。
     けれど、噂の二人はいつの間にか姿を消していた。
     
     月明かりすら満足に届かない森の入り口。女性はどこか不機嫌そうに眉をひそめ、屋敷をじっと見つめていた。ビジューがたくさんついたハイヒールはいつの間にか黒の編み上げブーツに変わっており、隣に立つ男との身長差で女性の小柄さをより強調させている。
    「もういいか」
     口を尖らせ、眉を寄せた美女の声は男のように低い。彼女はまるでメガネを触るように左手を持ち上げ、指先が空を切ったことへ舌打ちをした。
     そんな彼女ににこにこと笑いながら、男は困ったように静かに眉を下げる。
    「せっかく綺麗なのに」
    「は?」
     どこか寂しそうに言った隣の男にもう一度舌打ちをして、女性は小さく呪文を唱える。瞬間、身体中が光に包まれていった。
     身体は二回りほど大きくなり、こほこほとどこか苦しそうな咳が聞こえる。輝きが放たれた後、女性は黒いローブを見に纏った男に変わっていた。
     彼は男に戻っていても自分より背の高いフィガロをぎっと睨みつけ、そして小さくため息を吐く。
    「だいたい、僕はこういう場は向いていなんだ。なんなんだあいつらは、僕のことをジロジロ見て。気味が悪い」
    「きみが美人だからなのに」
     ファウストは知らない。
     修行時代、人生経験豊富な師匠から絶世の美女をモデルにした魔女化を仕込まれていたことを。真面目で麗しく出来の良いファウストに満足したフィガロから細かいディティールと自分の好みを盛り込まれた指導を受けていたことを。
     フィガロも言うつもりは当然なく、むしろ墓まで持っていく所存である。
    「おまえが目立ちすぎるからだ。亡霊にいちいち声をかけるな」
    「かわいそうだなって」
     指を鳴らしていつもの白衣姿に戻ったフィガロに、ファウストは呆れた目を向ける。
    「思ってもないことを」
    「ひどいな、俺は優しい南の魔法使いだよ?」
    「どの口が」
     ふっと鼻で笑ったファウストは、目線の先の屋敷を見つめる。
    「さっさと終わらせるぞ」
    「もちろん」
     北と中央の国の狭間。厄災の影響を受け、古びた屋敷で堕ちた魂が終わらぬパーティーをしているらしい。
     御伽話のような賢者からの依頼。まるで人間と差異がないほどに成長してしまった呪いに転じた魂を救うために二人はここにきた。
     にこやかな挨拶、楽しげな笑い声、高らかな歓声。屋敷の中の人々は本当に生きているようだった。
     ずっと踊り続けていたいのだろう。笑い続けていたいのだろう。幸せでいたい気持ちはよくわかる。
     けれど、人生には終わりがくるものだ。
    「どうか、安らかに」
     無理矢理繋ぎ止められ、蘇ってしまった魂たちへ。どうか彼らに救済を。
     オーブから発せられる強烈な魔力を、鏡からの光がゆったりと包んでいく。屋敷はカラカラと音を立てながら崩れていき、白く美しい壁は汚れ、穴が開き、ボロボロと崩れ落ちていった。人々の笑いは徐々に大きく、けれど低く濁った声に変わっていく。これが本来の姿なのだろう。
     天井は崩れ、脆い壁だけの空間。あははは、あははは、あはははは。森の奥に木魂するのは不気味な笑い声。白いモヤのような何かは蒸発するように空へ消えていく。
     幸せだけを享受し続ける。そんな都合の良い御伽話など、この世には存在しないのだ。

     二人の魔力が充満する空間。どこか清々しい表情をしたフィガロは、隣のファウストへにこりと笑う。
    「帰ろうか」
     唯一の温もりである差し出された手にファウストは嫌な顔をしてそっぽを向く。

     そんな彼に、フィガロは困ったように、けれも幸せそうに笑うのだった。
     
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