幻惑パレイドリア【パシラン】 炎帝は息を呑んだ。紅蓮の双眸をまなじりが避けんがばかりに見開き、呼吸さえ震わせながら眼前の光景を凝視していた。知らず握りしめた両の拳が、細かく揺れているのも気付かずに。
それは暗がりの中に浮かび上がるひとつの舞台。円形状の客席に周囲を取り囲まれたそこには大きな鳥籠がぽつんと置かれていて、支柱には蔦が絡まり鮮やかな花が咲いていた。中心には鎖がぶら下がり、頭上からの幾重もの光を鈍く反射し、床の上に歪な模様を描く。動く度、揺れる度、金具が軋んでじゃらりじゃらりと重い音を立てる。
不意に、観衆のどよめきが耳を打った。熱を帯びたさざめきに、炎帝はけれど、ただ立ち尽くすことしか出来ない。そこで彼は気付いた。ハッと顔を上げたのなら、自身は観衆の一部であった。両脇に座席を従えた通路の中央にその身は在る。そうして、舞台上の鳥籠を真っ直ぐに見下ろしている。
「――皆様、今宵は当オークション会場へおいで下さいまして有り難う御座います」