キスの日 ハジメテのキスは、ほんの一瞬触れただけ。
「七瀬、目瞑れ」
言われるがままに目を閉じれば、コーチが近づく気配がする。
コーチがよく飲んでいる甘いコーヒーの香りがするな……と思ったら一瞬触れて、すぐに離れてしまった。
一瞬だったけど、柔らかくて、そして熱く感じた。
それからしばらくはコーヒーの香りがするたびに思い出しては顔に熱が集まり、どうしたものかと悩んだ。
そんな悩みはすぐになくなるのだけど。
回数を重ねるごとに、だんだん触れ合う時間が延びてきて、軽く啄むような口付けに変わる。
時々、コーチのヒゲがチクチクとささって痛いと思うこともあった。けれど、慣れてくれば大して気にならなくなってくる。
触れる唇が熱くて、とけてしまいそうだ。
「コーチ……もっと」
もっと、深く。
息が出来なくなるくらい。
「苦しくなったら言えよ?」
「ん……」
あ、といつもよりも大きく口を開けてかぶりつくように唇を塞がれる。舌先で唇を舐められ、俺もおずおずと舌を伸ばせば器用に絡め取られてしまう。
「ンッ、ぁ」
ちゅ、ちゅぷ、ぴちゃ。
夢中になって舌を絡めていると頭がボーッとしてきた。
よくわからないけど、気持ちいい……
熱くて、とろけそうで。
つぅ、と唾液が口の端をつたう。
口の中で混ざり合っていて、どちらのものかなんて分からない。
流石に苦しい、かも――
察したのか、苦しくなったタイミングがたまたま一緒だったのか、唇がゆっくりと離される。
「ったく、苦しくなったら言えって言っただろうが」
口の端、目尻、おでこ、頬、首。
色んなところにキスの雨が降り注ぐ。
「……もっと、欲しくて……ん、ぅ」
「いくらでもしてやるから。ちゃんと息しろ」
口付けながら『いいな?』と確認されるが、コクと頷くしか返事のしようがない。
あともう少し。キスの日が終わるまで、たっぷりと――