【龍遙】冬の寒さ対策冬の寒さ対策【龍遙】
※手袋
十一月の下旬。今年の冬はそんなに寒くねぇななんて言っていたら一気に冷え込んできやがった。急に寒くなるもんだからまだ手袋を用意していない。
仕方なく、コートのポケットに突っ込んでやり過ごしながら歩く。
「寒そうですね」
急な気温の変化もなんのそのといった風の七瀬に冷たく言われる。寒ぃもんは寒いんだから仕方ないだろと思っていると突然横から人のポケットに手を入れてきた。
「何す……あったけぇなお前の手」
「コーチと違ってヤワじゃない。あと、若いからな」
どうだ、と言わんばかりの顔をしてるのが腹立たしいが、暖かさには敵わない。
「……年寄りのオッサン労われ。ちょっとカイロがわりに貸してろ」
と、七瀬の返事も待たずにポケットの中で手を繋いだまま歩き出す。特に嫌がる素振りも見せなかったのをいいことに手袋を出すまでの数日間、活用させてもらった。
※マフラー
「七瀬……もうちょっと防寒しろよ」
「別に寒くない」
十二月も終わりに近づき、大寒波で大雪がなどというニュースも流れる季節。目の前にいる教え子は冬物とはいえコートだけで平気な顔をしている。
対して俺はインナーからはじまり、コート、手袋、マフラーの完全防備である。そんな状態の俺からしたら見てるこっちが寒く感じてしまう。そういえばコイツ、夏は冷たく冬は温かいんだった。
はぁ、とため息をつきながら俺は自分のマフラーをはずし、七瀬の首へとかけてやる。結ぶ前に、マフラーで顔が隠れるように壁を作って引き寄せ、そっと唇を重ねる。ほんの一瞬のことだったが、七瀬の唇は寒さで冷たくなっていた。寒さを感じなくともやっぱり冷えてんじゃねぇか。
すぐに顔を離してマフラーを結び、頭をわしゃわしゃと少し乱暴に撫でてやれば何がおこったんだ? と言わんばかりに固まっていた。
「俺にキスされたくなかったら、今度からはちゃんと防寒してこい」
ほら、行くぞ。と先に歩き始めると後ろから「……なんだ、それ」とぽつりとつぶやく七瀬の声が耳に届く。しばらくして、俺の少し後ろを歩く気配だけがした。
翌日。
「お、今日はちゃんと防寒してきたな」
待ち合わせ場所に行けば、コートにマフラーを巻いた姿の七瀬が待っていた。相変わらず手袋はつけねぇんだな。
「マフラー、ありがとうございました」
手にしていた紙袋から貸したマフラーを取り出し俺の首にかける。そのまま返してくれりゃいいのにとぼんやり思っていたらマフラーを利用してくい、と引き寄せられ、昨日の仕返しだろうかちゅと啄むように口付けられ思わず目を丸くする。
「……」
「……コーチに、キスされるのが嫌で巻いてきたわけじゃないので」
「は?」
どういう意味だ⁇ と呆気に取られていると、俺に構いなしにスタスタと七瀬は歩き出す。
(……嫌なわけじゃない? してもいいってことか? つか、なんだよあのキス⁉︎ 脈ありなのか脈なしなのか……全ッ然わかんねぇぞ⁉︎ 揶揄われてるのか?!)
唸りながらも七瀬に続くように歩き出す。
俺たちが付き合いだすのはまだまだ先の話。