クリスマスの贈り物【同棲 龍遙】「二十五日、出かけるから空けておけよ」
と、龍司に言われたのが十二月に入ってすぐ。今年は一緒に住んでいるし家でのんびり過ごすものだと思い込んでいた遙は少し意外に思いながら「ああ、分かった」とだけ返事をした。
十二月二十五日。当日。
一緒に家を出るものだと思っていた遙をよそに龍司は予定の時刻よりも早くに出かる支度を済ませていた。時間間違えたか? と首を傾げていたら
「先に用事があるから十七時に東京駅な。なんかキャラクターショップが沢山ある地下街でもうろついてろ。着いたら連絡する」と言って出かけてしまった。
「……いってらっしゃい」
家に一人残されて、なんだか寂しい気持ちになったが、待ち合わせも含めてデートだと思えば楽しみになってきた。
(一緒に住み始めてからデートなんてしてなかったもんな……たまには、悪くない)
結局、家に一人でいても落ち着かなかったので、ひと通り家事を済ませて待ち合わせ場所に向かう。
言われた通り地下街のキャラクターショップを覗いてみようと来てみたものの人の多さにぐったりしてしまった遙は「クマのキャラクターの店にいる」と龍司にメッセージを送って待つことにした。
ぼんやり店内を眺めてみれば、サンタの衣装やクリスマスにちなんだ衣装を着たぬいぐるみがところ狭しと並んでいる。ひとつ手に取って「クリスマスか……」とぼんやり思っていたら背後から声がかけられる。
「遙。ん? なんだ、ぬいぐるみ欲しいのか?」
「いや、クリスマスなんだなって思って見てただけだ」
手触りがよかったので最後にひと撫でしてからそっと棚に戻して龍司と向き合う。
「じゃあ、店行くか」
連れて来られた店は去年満席で入れなかった鯖が売りの居酒屋だった。
「去年のリベンジだ。今年はしっかり予約しといたんだよ」
スパークリング日本酒で乾杯をし、さまざまな鯖料理に舌鼓を打つ。クリスマスとは? とも思ったが好物を堪能できたので遙は大満足だった。
食事が終わったところで龍司がトンとテーブルの上に紙袋を置く。
「……それは?」
「遙へのプレゼント」
紙袋から箱を取り出して、開けて中身を遙にみせる。そこにあったのは有名なメーカーのスマートウォッチ。
「お前、スマホすぐ忘れるからな。それに、水中でもつけられるし、練習の成果が色々と記録できて効率もいいと思ってな」
「ありがとう……けど俺、龍司さんに何も用意してない」
「いつも家のこととかしてくれてるだろう? それに、いつか個人でメダル取ってくれればそれでいい」
「取れる保証はどこにもないぞ?」
「その時はその時だ。つけてみろよ」
箱から取り出し、左手に付けようとした時に文字が刻まれていることに気付いた遙は何が書かれているのかよく見てみると『Free』と刻まれていた。
「コレ……大事にする。メダルも、頑張るから」
「楽しみにしてる」
せっかくだからと帰る前にイルミネーションを見て行くことにした二人は大きなツリーを並んで眺めていた。
しばらく眺めていると、遙から龍司へぴたりと寄り添いポツリとつぶやく。
「箱、出した時指輪でも出てくるかと思った」
「あー……迷ったんだけど、ガラじゃないなと思ってな」
「確かに」
くすくすと笑いながらそっと龍司の手を握れば、指を絡められ恋人繋ぎになる。
「いつかは……贈りたいけどな」
「……そうだな。いつかはつけたいな」
こだわりがあるわけではないが、少し憧れる。そう思いながらいつかの未来に想いを馳せた。