【かえはる】バレンタイン2023 燈鷹との合同練習を終え、さっさと家に帰ろうと歩いていたら葉月のヤツが楽しそうに七瀬と話しているのが目に止まる。ホント、仲良いんだななんて思いながら通り過ぎてしまおうと歩を進めると急に、葉月に腕を掴まれた。
「……んだよ?」
「きんちゃんにもあるんだって! ね、ハルちゃん」
何があるんだ? と不思議に思いながら七瀬を見ればカバンからラッピングされた包みを取り出し、俺へと差し出された。
「いつもありがとう。甘いもの平気か?」
「別に、キライじゃねーよ」
受け取ってから、今日がバレンタインであることを思い出す。まさか男からチョコを貰うとはな……。
「……マメだな。ありがとさん」
「アレ? なんかきんちゃんの分大きくない?」
俺が受け取った包みを見て、目ざとく葉月が突っ込む。コイツ、こんな見た目だけどかなりの量食うからな。
「ああ、渚のは昨日味見した分少ないぞ」
「ええー!!! そうだったの?!」
それを聞いていたら我慢したのにと抗議しているが、焼き立ての美味そうな菓子が目の前にあったら我慢できる筈もない。
「それ、フォンダンショコラだからレンジで少し温めてから食べてくれ」
「わーった」
じゃあな、と片手を上げて軽く挨拶を交わしてそのまま家へ帰る。
帰ってきて、手洗いうがいを済ませコーヒーを淹れながら貰った菓子を食おうと包みを開けると、何やらメッセージカードが添えられている。
「なんだこれ?」
何が書いてあるのかと見て、思わず目を見開いちまった。
いやいやいやいや。まさか。そんなわけない。
これは揶揄われているだけだろ。
落ち着け。もし、これが本当だとしてもだ。
本当だとしたら……?
ヒトリ、悶々と考え込んでいたら滅多に鳴ることのないインターフォンの音が部屋に響く。
今それどころじゃねーんだけどな……と渋々応答すれば「七瀬だ」と言う一言だけでドアを開けていた。
勢いよく開けたせいで、七瀬は目を丸くして驚いた顔で立っていた。
「お前、どういうつも、り?!」
であんなメッセージカード入れたんだと言いたかったのに、その言葉を続けるよりも先に七瀬の唇によって塞がれてしまった。塞ぐといってもソレ事態は一瞬触れ合うだけだったが、俺を黙らせるには充分だった。
「そのままの意味だ」
トン、と肩を押されて部屋の中へと戻され今度は抱きつかれてしまった。
「そのまま、つっても……七瀬?」
ギュッと抱きつかれてしまい表情を見ることはできないが、耳が赤くなっている気がする。今までこんなに積極的に絡んでくることもなかったのに、コイツなりに悩んでいたのかと思ったら可愛く……愛おしいと思ってしまった。
本当はずっと七瀬のことが気になっていた。フクオカ大会が終わった頃にようやく自分の気持ちに気がついたが、あいつの周りにはいつも誰かしらが側に居たし、俺が近付こうとすれば周りからの圧が凄かったのもあって必要以上に近付かないでいた。
「……楓」
ぽつりと名前を呟かれて「なんだ?」と返せばゆっくりと顔を上げて見つめられる。
「嫌なら、突き飛ばしてくれていい。楓の、気持ちが知りたい」
俺の気持ち……そんなもん、とっくに決まってんだよ。
七瀬の顎に手を添え、チュとわざとらしく音を立てて口付ける。すぐに離そうとしたのに七瀬の方が追いかけてきてペロと唇を舌でなぞられた。そっちがその気ならもう離さねぇと、かぶりつくように重ねてゆっくり舌を絡めていく。
「ンッ、ぁ……」
鼻にかかった甘い声が七瀬の口から溢れる。どれだけしていたか分からないけど流石に苦しくなってきた。それでももう少しだけ味わっていたいと欲が出て深めに舌を絡めてから吸い上げ、ゆっくり唇を離す。
「俺も、お前のこと好きだぜ。遙」