堕ちる灯「ねぇ、これ湿気ってるんじゃない?」
思春期たちの胃袋を満たすものを求め、徘徊したコンビニエンスストア。そこの一角、値引きワゴンに置かれた色褪せた花火の袋を手に善逸は笑った。夏の残り香のような商品だ。湿気っていても不思議じゃない。
帰りの際に一緒に買ったライターを使い必死に火を灯そうとするが、花火は音を立てず善逸は歯を食いしばった。その様子を横目に見ていた獪岳は皮肉げに嘲笑った。氷菓をひとくち、喉仏がぴくりと動く。箱庭にこもる夏の熱気が、ふたりを包み込んでいた。
「兄貴、代わりに火付けてよ」
「ぁあ?そんくらい自分でやれ」
愛想も素っ気もない返事に、善逸は袋をガサガサと探りながら小さく溜息をついた。背中からはツンとした淋しさが滲み出ていた。やがて、探しものを見つけた子どものように顔を上げ、
「線香花火だけでも一緒にしない?
俺と一緒に勝負しようよ」
「しねぇよ」
「はーん、負けたくないんでしょ?
俺に負けたくないもんね」
「はぁ?てめぇ…」
癪に障る言い方に、獪岳は苛立ちを隠さず地面を蹴り、大股で歩み寄る。善逸は何もかも把握しているかのようにニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。ふたりは向かい合ってしゃがみこみ、同時に火を灯した。何を賭けている訳でもなくただ、義兄と義弟のささやかなプライドを賭けた闘いである。
箱庭の闇に、ぱちぱちと小さな音が生まれる。火薬の匂いが鼻を刺激し、自然と涙腺が緩む。火花が勢いを増し、ぷくぷくと火の蕾が膨らむ。揺れ、跳ね、震える。そして、息を断つ。その刹那、善逸の脳裏に刀の光が閃く。重みを失った首が堕ちるまでの、あの静寂。指先の光はとっくに消え、残るのは常闇だけだった。庭の片隅で軋むように廻る走馬灯が、獪岳の頬を淡く照らしていた。