落とした新刊の原稿(一部)宇宙の色を忘れたと、夢の俺は思っていた。
そいつは見慣れない黒いコートを羽織った俺の知らないもうひとりの俺だった。
セットされた短い髪を撫でつけ、冷たい目を光らせる姿は、いつかに見た要人のそばに立つ雇われ兵に似ていた。
そんな傭兵に、宇宙に“色”があるのかと俺の意識は指摘するが、もちろん届くことはない。
傭兵は小さな宇宙船に乗っていた。操縦は自動で行われ、目的の場所へ演算された軌道通りに進んでいく。
示された先は、×××。聞かない名の惑星だ。人が降り立てるのか怪しい。
それでも傭兵は、モニターに映る航路を尻目に、別画面でプログラムを起動させているようだった。
一部を見て、俺が眠りに落ちる前まで手にかけていたそれによく似ていると気がついた。
だが、どうも変だ。もっとよく見てみたいが、夢を見ている俺の視界は思うように動かない。手を前に突き出しても俺の実体はなく、まるでドローンのように浮いている感覚だ。
傭兵は背を背を丸めてキーを叩いている。俺の思っているようなモノであれば、そのプログラムは世界を変えることができる代物のはずだ。
――へえ! そいつはスゴイ!
そう言って笑うあいつの顔を思い出し、一瞬息が詰まった。
□
マッチが終わり、良い知らせと悪い知らせがあると声をかけられた。
悪い知らせは俺に関わることではないらしい。なら、悪い方からと俺は答えた。
悪い知らせは、ミラージュの死亡だった。
――残り二部隊と言う大詰めのところであいつはキルされたが、部隊が健闘し、チャンピオンを取ったらしい。
本来なら終了後、デスボックスは自動的にリスポーンされ、あいつも喜びの帰還ができただろう。
しかし、ミラージュの分だけ何故かリスポーンされなかった。バナーにデータは無く、デスボックスも空だったらしい。
リスポーン出来なくなる可能性については、どこかで皆が危惧していたことだろう。緻密に管理されているとは言え、所詮はゲーム……バグが発生したと言う訳だ。
リスポーンエラーについて目下調査中とのこと。
俺は話を聞きながら端末で調べていると、あいつのレジェンド登録が早速外されていることに気がついた。復帰は望めないことを暗に感じる。
俺が黙っていると、続けて良い知らせとして、俺のレジェンドランキングがワンランク上がったことを伝えられた。
理由は明白だ。接戦していたミラージュがいなくなり、順位が繰り上がった。
……こんな形で上がることになるとは。あいつは居てもいなくても俺を不快にさせる存在だ。