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    9s86u

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    おはなおいしい

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    捏造と幻覚のド+ロ+ヒヨ)
    (ドラロナ/ロナドラがすきなにんげんがかきました)

    スキマ 左手で保存した文を読み返す前に、一息つこうとした。立ち上がって背を伸ばす。凝り固まった肩をぐるぐる回す。ふーっと息をはいて、乾燥している目を瞬かせた。
     深夜過ぎの事務所は、日中のやかましさが嘘のようにしんとしている。コーヒーでもいれようかと、ロナルドが歩き出したとき。
     ふと。事務所の出入り口に目がいった。廊下の電気は消えており、ガラスの向こうから非常灯のほの明るさがみえた。ドアの下の隙間から、落ちた影が闇を差し込んでいる。なんだか。あまりいい気はしなかった。

     ――昔、吸血鬼退治に行った兄貴を待っていたとき。兄貴から「ゲームをしよう」とメールがきた。内容はこうだ。
    『俺が決めた言葉の数だけノックをする。兄貴が答えて、正解だったら開ける。ヒントは三回だけ』
     兄貴が答えられなかったら、俺の好きな夕飯をテイクアウトしてくれるらしい。ヒマリは寝ているし、俺が兄貴に勝てば好きな食べ物を買ってこさせることができる。二つ返事でゲームをはじめた。

     ……トントン。
     しばらくすると、玄関からノックの音が聞こえた。俺は考えてた単語の数だけノックを返す。
     トントントントン。
    「ただいま」と。兄貴の声がする。それは正解じゃない。
     俺はまた、同じ数だけノックした。
     トントントントン。
    「ロナルド」と。兄貴が名前を呼ぶ。それは正解じゃない。
     トントントントン。
     ……トントン。
     お互い無言でノックを返し続ける。そろそろ、ヒントが必要かもしれない。
     俺は「ふたつあるぜ!!」と教えた。
     ……トントン。
     兄貴は答えなかった。ヒントが足りないのかもしれない。
    俺は二つ目のヒントで「やわらかいぜ!!」と教えた。
    「ロナルド」
     俺は思わず、笑いそうになった。口元を手で隠す。指の隙間から声がもれた。
     ――ドンドンッ!!
     突然、ドアを強く叩かれた。俺は笑いを飲み込んで声を上げる。
    「おわっ、びっくりしたー!! 兄貴、降参か??」
    「……ロ、ナルド」
    「じゃ、最後のヒント……女性、だぜ!!」
     トントン。
    「……ただい、ま」
    「違うぜ!」
     トントン。
    「ロ、なルど、」
    「兄貴の負けだぜ!!」
     トントン。
    「ろナ、るど、ぉ……」
    「ダメだ!」
     トントン。
    「タダ、イまア……!」
    「開けないぜ!」
     トントン。
      トントン。
        トントン。
          トントン。
        トントン。
      トントン。
     トントン。
      トントン。
       トントン。
         トントン。
       トントン。
      トントン。
     トント――
     ッガン!!ガン!!ガン!!ガン!!!!
    「ああああーー!! うっせぇーなぁあああ!!!!」
     あまりのうるささに俺はドアを殴ってた。形が湾曲し、歪んだ下の隙間から落ちた影が闇を差し込んでいる。
     何かが光っていると思えば、白眼の大きい見知らぬ目が睨んでいた。
     ぞっと気味悪さが駆け登る感覚のままに、俺はつま先でソレを蹴飛ばした。
     ガツン!!!!
     言葉できないような、耳が痛くなるほどの叫び声が聞こえる。
     そして声がかき消えたあとの静けさに、俺はすっきりとした気分を感じた。
     かかってきた電話から「大丈夫か?!」と兄貴の焦った声が聞こえてくる。俺は「ああ!こんなの楽勝だぜ兄貴!!」と返事した。

     ――いれたてのコーヒーをすする。
     ロナルドは昔のことを思い出し、ドアの隙間をしゃがみ込んで眺めていた。青々とした瞳を丸くし、じっと隙間をみつめる。
     ……トントン。
     控えめなノックが聞こえた。こんな夜中に訪ねてくる人はいないはずだ。
     ロナルドはコーヒーをひとくち飲んでノックを返した。
     トントントントン。
     ……トントン。
    「ただいま」
    「違うな」
     トントン。
    「ただいま」
    「だから違うって」
     トントン。
    「……た、だいマ、」
     またひとくち、コーヒーを含んだロナルドは瞬きする。うつむいて隙間をみつめる瞳は、こうこうと輝いているようで、
    「――ロナルド君、それ、愉しい?」
     振り返ると、隣の部屋からゲームを片手にした彼が呆れたように見下ろしていた。
    「……全然」
     ふらりと。立ち上がったロナルドは、いたずらが見つかった子どものように口を曲げる。
    「休憩してただけだし」
     彼が「原稿、終わった?」と聞けば、ロナルドは「あと最終チェックするだけだ」と答える。ノックの音はとうに聞こえず、ロナルドも興味を失ったように机へ戻っていった。
    「なら、さっさと終わらせたら?」
    「うっせーなぁ、分かってる」
     ロナルドは煩わしそうに返事をしながらマグを机に置き、作業に手をつけ始める。
     それを見届けた彼は、ソファーに座りながらドアを一瞥する。そして、中断していたゲームを再開させながら呟きをこぼした。
    「……隙間テープでも貼っておくか」
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