コック彰 x ほえーる冬炎の料理人彰人(コック)X 陸上に迷い込んだクジラ一族の冬弥(ほえーる)
あらすじ
とある海辺の村に、一流の料理人になる夢を持つ少年がいた。その少年は夢を叶うために憧れている料理人の師匠の元に修行しながら働いていた。その料理の腕は村人たちも認めていて、特に魚料理が一番得意らしい。ある日、村にある砂浜に大きな紺色のクジラが流されていたみたいと、少年の友人から話を聞いた。その紺色のクジラのことに気になって、砂浜に駆けて行ったが、あそこにクジラの姿がいなかった。代わりに、奇特な衣装を着ている少年が砂の上で伏していた…
ストーリー
カラン、カラン。ちょうど日が昇っている頃、海辺のレストランに来客が訪れた。
「あきとぉーーいる?」
「はよ、三田か。おまえ朝から元気だな」
「おう!さすが彰人!お前なら絶対もう起きてたな!」
「まあ、ちょうど朝ランに行くんとこ。おまえにしては珍しく早かったな、まだ徹夜でどっかで遊びに行ったんだか」
「おいおい!ひどいな!俺だって働くんだよ!二日前に海に出ってて、今帰ったばかりだよ!」
「はいはい… で、オレになんか用あんのか」
「ああ、そうだそうだ!この間お前なんか新しい魚料理を作ってみたいとか言ったんじゃねえか。ねえねえ、クジラには興味ある?」
「クジラ?」
「そうだよ!俺今海から帰ったばかりって言ったじゃん。さっきいつものように人の少ない方の海岸に船を泊めたところ、近くの砂浜になんか大きなもん見たんだ。で、近くに行ってみたら、まさかクジラがこっちまで流されたんだよ!まあ、クジラは珍しいからそれなりの価値があるんだが、他の誰かに売ることより、やはり一流の料理人さんに譲ってあげたほうがいいかな」
「話はなんとなくわかった、でもオレはパスだ。ありがとな」
「ええ、なんで!クジラだよ!こんなチャンス滅多もないじゃん!」
「オレはクジラを食べたくない、料理にしたくない、そもそも殺す気もない」
「へぇーーお前、まさかクジラのことが好きなのか?まあ、あいつは多分レアなやつみたいだし?普通のクジラは確か灰色なんだけど、あいつはなんと紺色だよ!お前本当に興味ねえのか?」
「紺色のクジラ? …いや、オレやはり行ってみる。もし謙さんがオレを探したら、言っといて頼む」
言ったか否や、彰人がレストランから走り出した。
「おい彰人待って!お前場所知ってんのか」
そして、洸太郎も彰人を追いに行ってしまった。
***
「おい… 何なんだよ…」
「待って彰人!はぁ…はぁ…おまえホンットに足早いなぁ…」
「おい三田、お前寝ぼけちまったんじゃねえか?何がクジラだ」
「はあ?あそこにいるんじゃ...って、えぇぇ!?いない!?」
二人が駆けて来た砂浜には何もない。正確に言うと、クジラほど大きな生き物はいない。
「いや、待って、あそこに何が…」
そう、まだ静かな砂浜にクジラはいないが、一人奇特な衣装を着ている少年が伏していた。
「おい!大丈夫ですか!聞こえますか!」
が、伏していた少年から返事がない。
「えぇ、人!?さっきは確かいないはず…」
「遭難したのか?船は見えねぇけど… とりあえず先に救急しよう。三田、手伝って!」
二人を合わせて伏した少年をもっと楽な姿勢に調整した。
「うわ… すごい美人だな…」
「お前、今それを言ってる場合じゃねえよ… 先ずは生存確認だ... よし、まだ呼吸がある。反応がないからしょうがねえが、人工呼吸を…」
少年の頭を軽く支えながら、彰人が少年の顔に近寄って来た。二人の間に僅かな距離もないところで、突然少年の目が開いた。そして少年の急な変化に気づき、彰人は止まった。数秒間、灰色の瞳とその真上のオリーブ色の瞳はお互いに見つめていた。
「あ…あの…」
「うわぁぁ!?」
少年の声に驚かされて、彰人は慌てて手を放して少年から離れた。
「あの...!も…申し訳ございません!先程あなたは気を失ったから、救急措置をしようと思いました!とりあえず失礼しました!」
「おお!久々のいい人モードの彰人だ!懐かしいなあ」
「お前は黙れ」
「そっか…俺は気を失ったか…そういうことですか…なら俺はあなたに助けてもらいましたということですよね。ありがとうございます。」
そして、少年は洸太郎に向かって感謝の言葉を言った。
「そこのあなたも、ありがとうございます。」
「えぇ俺?へへ、まあな~」
「おい三田… 話を戻して、あなたはもう大丈夫そうですね。あなたはどうしてここにいるんですか。もしかして海で遭難されたんですか。他に誰かが一緒にいらっしゃいますか。」
「いいえ、俺一人です。俺の名前は青柳冬弥、この海にずっと住んでいるクジラの一族です。普段はもっと深いところにいますが、偶々こうして上の世界にも来ます。しかしやはり海面にはまだ慣れてないのせいか、結局道を迷い込んでしまった上、岸にまで流されました。幸いお二人に助けてもらいまして、無事で済みました。改めて本当にありがとうございました。」
少年ーー冬弥は自己紹介の後、目の前の二人にもう一度感謝の気持ちを伝えようとして、嬉しそうに微笑んでいた。ですが、二人にとって冬弥の話はあまりにも不可思議なので、まだ衝撃の中でうまく言葉を出ない。
「ク…クジラ、ですか… へえ… ああ、すみません、自己紹介忘れていました。オレは東雲彰人、近くの村に住んでる人です。こいつは三田洸太郎、同じ村の人で、あなたを見つけたのも彼です。」
「そうですか。よろしくお願いします。」
(よろしくじゃねえよ…普通は初対面の人間に自分はクジラなんて言わねんだろう…信じる人いるもんか?気づいてねえのか?もしかしてこの人、いや、この子、すごく天然?参ったな…)
冬弥の言葉にツッコミながら、彰人はため息をついた。こうなったらーー
「まあ、ここで座るまま話すのも悪いし、あなたもし行くところがないなら、うちの店にちょっと休憩しに来ませんか?」
そう言いながら、彰人は冬弥に向かって片手を伸ばした。
***