「グレイ、もう寝る〜?」
日付が変わった。しかし、眠ってしまうには少し惜しい時刻。寝支度を整えた二人は各々がベッドで好きに過ごしていた。グレイはせっせとプレイ中の携帯ゲームのログインボーナスの回収を終えたところ。ビリーは自身のベッドに頬杖をついて足をパタパタとさせている。
「うん。…もう少ししたら、寝ようと思ってる」
「もう少し?」
「デイリー消化して、後はイベントも周回しておきたくて」
改めて口にすると、思わず自嘲の笑みが漏れる。好きなものを恥じる訳では無いが、あまりに明け透けな物言いだったと後悔した。ビリーくんは?と返すと思ってもみない言葉が返ってくる。
「…ねね、隣で見ててもいい?」
「み、見ててもつまらないと思うけど…」
つまらなくないもん、と飛び起きたビリーは隙間なくピッタリとグレイの横について座る。
「あ、」
「うん?」
「今のイベント、ブライダルがモチーフなの?」
「そうだよ。マップの中に教会とかもあって武器も白基調のが追加されたかな。去年は薔薇の花束みたいな武器もあったし。……あ、確か見た目も変えられたっけ────、」
一通りデイリーや周回をこなしてからキャラメイクの画面に飛ぶと、やけに意志を持って体重をかけられた。ぽすん、ビリーのバックには天井が見える。
「ご、ごめん。退屈だったよね…?」
するり、スマホを抜き取られベッドボードに乗せられる。
「グレイの真剣でクールな顔近くて見れて超楽しかったよ」
「そう…?」
「で…おあずけはもういい?」
「お、あずけ」
言われた言葉をそのまま口にして噛み砕く。唇が近い。グレイの耳にだけに届く言葉が鼓膜を擽る。ひ、と喉が鳴る。
「熱い視線でアピールしてたけど全然効果なかったから実力行使しちゃった〜。…ね、いいでしょ」
先程とは打って変わって、質問ではなく言い切る声。グレイがそんな大層な事をいつ課したというのだろう。動揺から後退るけれど、ビリーはすぐに詰めてきた。何か有耶無耶にする言葉を繕う為の口は、ちゅ、と軽快な音を立てて阻まれる。
「隣の部屋は空、明日はオフ。見たい映画は午後から上映。…前にシたのはいつだっけ?グレイ」
「い、しゅうかん、前…」
「ン〜大正解♡」
手袋のないビリーの手がグレイの前髪をかき分ける。正解のご褒美なのか、そこにキスを降らせたと思えば今度は耳に指をひっかけて弄ぶ。あからさまに熱を帯びたあまやかな手付きにグレイはその気にさせられていた。耳に寄せられた唇からはグレイの脳を溶かす言葉ばかりが並ぶ。
「グレイ、」
「な、に」
「は〜っかわいい〜。弱いのは耳?それとも俺の声に弱いの?」
「か、かわいくない…よぉ」
「え〜…気になるのそこなんだ…」
耳とビリーの声に弱いことは自覚があるってことでいいのか。そっかあ、気の抜けた声とともに熱を吐き出すよう努める。ふつふつと煮える欲を逃がす。溜め込みすぎてがっつき過ぎた日には顔を見るなりそらされてしまう、そんなのは今後一切御免である。
「今日はたくさんお喋りしながらしよっか」
「…おしゃべり?」
「うん、…嫌な事があったらすぐ言ってネ」
「そんなの…いや、なわけ…無いよ」
「ほんと?気持ち悪くない?ちゃんと言うんだよ?」
「そんなの、ないから…っ」
「じゃあ、…たくさん好きって言って。全部声に出して教えてネ」
こくり、グレイが声なく頷くとビリーの碧が妖しく輝いて見えた。
「さて、許可取れたことだし、今日はたくさん声出そうね♡」
「えっ」