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    sika_um

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    sika_um

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    現プロゲーマーに(腕前的な意味で)目付けられてるけどお友達になれて嬉しいグレイくんと気が気じゃなくて年相応が垣間見えるビリーくんのビリグレ。

    Everything to me! ここ最近ビリーの心中は摩擦を起こしヒリついていた。新しく覚えたマジックを見せたくてしょうがないのに、忙しそうにしている父は忙しそうにしていて。遠慮を覚えるような、焦燥に駆られるような。そういった久しい感覚に近いのかもしれない。
     しかし父ではなく恋人相手、素直に本人にぶつけるわけにもいかない為、言葉の矛先がふよふよと彷徨う。如何せん、当の彼に非はない、責めるわけにはいかないのだ。
     とある昼下がり、ビリーはいつもの様にSNSをチェックしていた。いつの時代も炎上は付き物だ、グレイの事も気を付けて見ているようにしているのは火種や厄介事の芽に目を光らせていて損は無いから。決して恋人に粘着するファンを炙り出すわけじゃない。そんな彼の投稿といえば、頻繁に行われる訳ではなく、偶に載せたと思えばゲームの攻略だったり、切り抜いたゲームのプレイ動画だったり。返信等は同業者のみだが、記の動画見たさに登録している人はやや多め。文句なし、円満な公式SNS運営と言えるだろう。
     ちなみにビリーとグレイ、二人は付き合って一年未満で順調に初々しいカップルと言って差し支えないと自負する。今がいちばん楽しい時期、とでも言うのだろうか。まあでも、グレイとならいつまでも今が一番なんだけれど。
     ​─────順風満帆とも思えた生活は、グレイにちょっかいをかける不届き者のせいで歪みが生じた。
    「…NOAH?へえ、聞いたことあるかも。プロゲーマーなんだ」
     NOAH。懐ゲーの実況からメジャーなFPSで高ランク帯のプレイ動画まで幅広く扱う二十歳そこらの配信者だ。話し方は軽快で、顔は童顔で可愛さを売りにしている。プレイ中に口が悪くなるところがギャップを感じるファンが多く、人気を博しているとかなんとか。ゲーム配信は趣味として始めたみたいだが、企業からハンティングされてからは構成力、企画力など勢いが増し、ゲーム業界を盛り上げる一員として数えられる。
    「​───ってとこかな!」
    「あは、聞いてないのにつらつら出てくるじゃん」
     ニューミリオンで一番の情報屋に知らないことは無い、と言いたいところだが。口にしていない(出来ない)事まで隅々まで調べあげている、というのは秘密である。もちろん動機は私怨込みで、だ。
     NOAH名義のSNSからグレイにコンタクトがあったのは、半月程前。初めはグレイのファンだとか、プレイ動画見ました、一緒にゲームしたい!だとか。随分熱烈なファンが着いたもんだなとハンモックの上で楽観視していた。これまでプレイしてきたゲームの遍歴が似ている事から話も合うみたいで、投稿上での会話が広がっていったらしい。グレイの性質上、顔を合わせての会話は不得手だが文面でのやり取りでは饒舌な面がある。輪にかけて盛り上がったのだろう。
     程なくして、会って話したいというメッセージがグレイの元に届いた。ちなみになぜビリーが知っているかというと、単にグレイに相談されたからだ。恋人として相談されたか否かで言えば、否。詐欺?壷買わされちゃうの?と顔を青白くさせていた彼のネガティブさに初めて感謝することとなる。───こんなの、どう考えてもナンパじゃん!
     ヒーローにはタレント事務所のようなマネージャーは居るわけではない。プライベートはある程度一任されていて。ましてや今回、加えて右も左も分からない子供がSNSで知り合った人と会うわけでもない。相手も企業所属で下手なことはして来ない、と思う。恋人心を的には、即決して駄目でーーす!!とシャッターを下ろしたいところだ。
     ああ、でもグレイ。メッセージ、楽しそうに交わしてたな、とか。誘われたオンラインマッチのゲームをしているときだって凄く活き活きとしていた。ビリーには出来ない、二人にしか出来ない話だってある。
     身勝手で、愚かな嫉妬。うまく折り合いをつけて、辛うじて蓋をする。こんなことでグレイの世界を狭めたくない、独占をして満たされるのは、ビリーの器のみだ。意を決して快く送り出した、それはもう、満面の笑みで。
    「そしたらさー、こんな事になってるの。意味わからないヨネ?」
     ネットの端で賑わう話題の記事をタップしてフェイスに見せる。ゲーム配信vs有名人の構図を売りにした新作対戦型ゲームのタイアップ。ゲーム好きを公言する俳優やモデルが名を連ねる。その末席にはグレイの名前もあった。
    「グレイ、今日収録なんだっけ」
    「うう、おいそれと他の男のところに送り出しちゃった…」
    「ハイハイ、そういうのいいから」
     グレイの前では細心の注意を払って取り繕っているつもりだけれど、通りすがりの悪友にあっさり機嫌でも悪い?と言い当てられてしまい目を丸くした。流石ベスティ♡以心伝心だね♡なんて、ビリーは茶化すエネルギーすら持ち合わせていない。東の国に旅は道連れ、という言葉がある。人間聞かない方が良かったと思わされるたくさんあるのだと知ってもらう為にも、フェイスに引っ付いてウエスト共有スペースまでやってきた。ビリーの話を最後まで聞いてもらう所存だ。
    「あれ、声がすると思ったらビリーくんだ!」
    「あはは、お邪魔してマース」
    「夕飯食べた?まだだよね?ピザ食べてく?…食べてくよね?!まってて、追加注文してくるから〜!」
    「ちょっと、ディノ!一人増えたくらいで追加するのやめなって…」
    「……。」
     SNSの更新を連打する。頭の上で交わされる会話に耳を傾けつつも、監視は怠らな​い。
    「嫌なら見なきゃいいのに」
     痛い正論だ。しかし、そういう訳にもいかない。
    「見てないところでされるのはもっと嫌なの!」
    「えー、なになに。何の話?」
     食いついてきたディノにひと通り説明すると、恋バナか〜…若い子は凄いな…と身を縮めていた。
    「ディノ、ラブアンドピース…☆って言う割に恋愛ごとには弱いよね」
    「ほら、パイセンのは人類愛だから」
    ビリーは相容れないな、と口に出すことはしなかった。きっとディノだってフェイスだって、ビリーとは馬が合わない気がした。
    「…グレイに話しちゃえば?」
    「え〜!やだ…」
    「嫌そうな声出さない」
    「格好つけたい年頃だよ?そんなの、言えるわけないじゃんっ」
     考えなかった訳でもない、言ってしまったらそれは、とても胸がすいて楽になるのだろう。
    「グレイ優しいし、たくさん困っちゃうと思うんだよね」
    「……そう?」
    「なに、DJはグレイが優しくないって言うの?」
    「いや、グレイは優しいと思うけど。あー、でも自分の需要に頓着なさそうだし、他人からの好意に疎いのかな。そういうところは…酷い男ってやつ?」
    「わかる…………………………」
     他人からの好意、には疎いとするなら困りはしないでしょ。だってビリー、本命じゃん。何をそんなにこそこそと嫉妬しているのだろう。しかし、フェイスは面倒事に口を出す事はしない。
    「あー!また香ばしい投稿増えてる…!なになに…うわ、写真まであげちゃって。なにこれグレイの腕じゃん…誰の許可があってグレイの腕に巻きついてるワケ…?」
     グレイの許可じゃないの?とレスはせずに置いた。
    「ふふ、なんだか年相応で可愛いね」
    「そう?一層面倒だなとは思うけど」
    「……一部始終、グレイくんにそのまま見せてあげたいな。自分のことを想ってこんなに百面相してるなんて知ったら、嬉しいと思うけど」
     確かに、こんなに表情豊かなビリーは初めて見たかもしれない。アカデミーの頃から付き合いがあるフェイスですら、見たことの無い顔をほいほいと覗かせる。一年足らずの付き合いでこの変化…これが恋ってやつ?柄にもなく、そんな事を思う。次第にエスカレートする愚痴は惚気に姿を変えた。
    「もー、そんなに心配なら迎えにでも行ってきたら」
    「!」
    「ナイスアイディア!連絡しちゃえ〜☆」
    「投稿見る限り今終わったとこっぽい…ケド…迷惑じゃないカナ?」
     あのビリーが変に弱腰で調子が狂う。ディノは目を輝かせて激励を飛ばす。
    「そんなの、嬉しいに決まってるよ!フェイスもそう思うでしょ?」 
    「グレイなら…嫌ってことは無いんじゃない?」
    「連絡した?」
    「した。…………あ、既読!」
    「そのままご飯でも食べてくれば」
    「! そうするっ」
     直ぐにグレイから返信があり、ビリーは先程までの曇り顔が嘘みたいに上機嫌。ドタバタと身支度を整え、踵を返す。
    「DJ、ディノパイセン!お邪魔しました!」
    「………………………………はあ、やっと居なくなった」
    「いやあ、青春だね、フェイス」
    「いや、あれは青春以前の問題でしょ」
    「そうなの?」
     どっちかっていうと、覚えたての恋に右往左往する子供のそれではないか。

     
     

    「グレイくんっ、今日は収録お疲れ様でした!」
    「お疲れ様です、NOAHさん」
    「初見とは思えない立ち回りでしたよっスタッフも驚いてました」
    「そんな、練習の時間も設けてもらいましたし。まだまだああすれば良かったなって後悔することばっかりです。あの、今日は本当に楽しくて、発売前の作品のテストプレイ…貴重な経験させてもらいました」
    「もう、俺とグレイくんの仲じゃないですか!発売前だから持ち出し出来なくてわざわざ御足労いただいて…ありがとうございますっ、そうそう!さっき載せたオフショット、SNSで順調に伸びてますよ。僕が呼んでもいい枠があればまた呼んでもいいですか!」
    「あはは、まだ会って間もないですけど…こちらこそ、ありがとうございました。僕なんかで良かったら」
     数時間振りに液晶から離れ、面と向かって話すのはなんだか不思議な感じだ。先程まで敵同士、戦場を駆けずり回っていたとは思えない和やかな雰囲気に気が緩む。
    「今こそペーペーですけど、もっと有名になったらもっと……そうだ、試しに今度大会とか出てみません?一緒に!」
    「い、一緒に?」
    「グレイくんこのゲームもかなりの腕前でしょ?昨年度の一緒に出場したメンバーに欠員出てて、絶賛募集してるんですよ」 
     見せてもらった液晶には毎年欠かさずにチェックしているFPSの大会の名前が記されていて、思わずひえ、と声が漏れた。
    「おおおお、恐れ多いというか…なんというか…」
    「元プロゲーマーなら資格も充分ですし、会社は俺が説得します!ブランクあって今のランクって言ってましたよね?大会に向けて特訓とかしたら絶対上位食い込めると思うんですよ!」
    「……そんな、僕なんか…。」
    「勿論腕に惚れ込んでるってのもありますけど。でも俺、純粋にグレイくんとゲームするのすごく楽しかったので」
    「……。」
    「そんなに難しく考えないで」
    真っ直ぐな熱意に気後れしないよう必死に言葉を拾う。知り合ってから、ただただ楽しい時間が過ぎてきた。未だかつて、こんなにゲームの話で盛り上がれる人はいない。まともに友達が出来たのだって最近の出来事で、キャパシティの限界を感じつつも、次の言葉が溢れてくる。
    「……お誘いありがとうございます、嬉しいです。本当に、」
     こんなに熱心に誘ってもらって。ゲーマ冥利に尽きる、光栄なことだ。
    「! じゃあ、」
    「だけど。僕は…練習も、それこそ本番の大会だって何かタワーから要請があれば、大会を蹴ることになります」
     嬉しい、楽しい。けど、何よりも。僕は、どうしようもなく。
    「ヒーロー、なので…。期待には添えないかと」
     おそらく、グレイがヒーローに向き合うのと同じく熱量が彼にはある。彼にとっては、ゲームがそれだ。そんな彼に、無責任な返事はしたくないと思った。
    「……かっこいい〜っ」
    「え、」
    「角が立たないように、その場しのぎに、はい、って口だけ言うことも出来たのに…!紳士っていうか硬派っていうか…グレイくんは近年稀にみる正直者さんですね!本当に歳上?」
    「うう…」
     幾度となく歳下の子達に言われてきた言葉が胸を刺す。断りをいれたあとも、NOAHさんは満面の笑顔を崩さない。
    「では、スカウトの件は取り下げさせて貰います。めちゃくちゃ惜しいですけど…でも、時間が合えば…一緒にゲームしてくださいね?」
    「それは、もちろんっこちらこそ、です」
    「やったあ!絶対ですよ?…えへへ、憧れの人とゲーム友達になっちゃった」
     大きな通知音が鳴る。思わずビクついてしまったが、慌てて液晶に視線を落とす。
    「ビリーくん、」
    「そうだ、これから打ち上げとかどうです?」
    「……。」
    「…? グレイくーんっ!」
    「ひゃわ、」
    「なになに、彼女から連絡ですか?」
    「………………。」
    「ふふ!沈黙は肯定と取っちゃいますよ」
    「ええと……あの……」
     彼女じゃなくて彼氏です、と言うはなんだか憚られるし、違う、と言うのはそれこそ嘘になる。どう返したものか、と思案すると彼はくすくすと口元を綻ばせる。
    「…ふふ、動揺してる。可愛いなあ。いいですよ、今回は見逃してあげますっ、その代わりといってもなんですが、エントランスまでご一緒しても?」
     エントランスまでの道のりも、彼との話は途切れることはなかった。恋人の有無についての言及は、ソワソワしてるみたいだったから、大好きな人が待ってるんですね、とそれだけ。好奇心からついて出た言葉だったらしい。今度は詰まらないで返せる気がした。憚ることも、嘘でも何でもない。
    「…そうです、ね。彼はとっても​─​────────。」
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    sika_um

    DONE現プロゲーマーに(腕前的な意味で)目付けられてるけどお友達になれて嬉しいグレイくんと気が気じゃなくて年相応が垣間見えるビリーくんのビリグレ。
    Everything to me! ここ最近ビリーの心中は摩擦を起こしヒリついていた。新しく覚えたマジックを見せたくてしょうがないのに、忙しそうにしている父は忙しそうにしていて。遠慮を覚えるような、焦燥に駆られるような。そういった久しい感覚に近いのかもしれない。
     しかし父ではなく恋人相手、素直に本人にぶつけるわけにもいかない為、言葉の矛先がふよふよと彷徨う。如何せん、当の彼に非はない、責めるわけにはいかないのだ。
     とある昼下がり、ビリーはいつもの様にSNSをチェックしていた。いつの時代も炎上は付き物だ、グレイの事も気を付けて見ているようにしているのは火種や厄介事の芽に目を光らせていて損は無いから。決して恋人に粘着するファンを炙り出すわけじゃない。そんな彼の投稿といえば、頻繁に行われる訳ではなく、偶に載せたと思えばゲームの攻略だったり、切り抜いたゲームのプレイ動画だったり。返信等は同業者のみだが、記の動画見たさに登録している人はやや多め。文句なし、円満な公式SNS運営と言えるだろう。
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