それはどんなにしあわせだろうそれはどんなにしあわせだろう byまよい庭火
冬の日に乱太郎で暖を取る長次の話
雪は懇々と降り駸々と積もっており、このままこの速度で降れば忍術学園が一面雪景色になるんじゃないだろうか。と六年長屋で本を読んでいる長次は思った。彼の同室である動かないと死んでしまうのではないかという程活発で元気な七松小平太は、長次以外の六年生たちと外で元気に雪合戦をしている。
「いけいけどんどーんっ!」
「てめ、石詰めてるぐらいカッチカチじゃねぇか!凶器だろ!」
「そんなモン知るか!小平太に聞け!」
「てめーが同じチームだろうが!!」
時折、小平太のお決まりの言葉と、文次郎と留三郎の言い合いと、天才トラパーである綾部喜八郎が冬休み前に掘った蛸壺にハマって助けてくれ〜と伊作の泣き声が聞こえてくるあたりは日常と至って変わりない。
雪合戦はどうやら伊作・留三郎のは組コンビ対文次郎・小平太の委員長コンビという対戦カードらしい。
雪合戦に名を連ねていない仙蔵は対等じゃないから私は観戦係に徹するとしよう。と言って、雪合戦を見ながら防寒着を着てひとり、お茶を啜っている。
忍者学園は今、冬休みの真っ最中でいつもならあんなに騒がしい学園も今はしんと静まり返っている。それもそうだ。学園にいるのは今、学園防御の為にいる最低限の教師と六年生だけ。…のはずなのだが、ひとり六年生以外の人物が混じっていた。
その人物は現在、六年長屋で本を読んでいる長次の防寒着に抱きつきながら寝ている一年は組の猪名寺乱太郎である。
冬休みはあと三日ほど残っており、いつもなら補講だらけの乱太郎も今回はいい成績を納めたそうで一年は組の教科担当である土井半助が冬休み前に涙を流していたのも記憶に新しい
。なぜ補講も何も無いのに乱太郎がこんなにも早く忍術学園に来たのか。それは今積もり始めている雪が関係しているらしい。
「おはようございまぁーす。誰かいらっしゃいませんかぁ?」
乱太郎が忍術学園の門を叩いたのはまだ朝方であった。まだ雪が降り始める前のことで、補講もなにもない乱太郎が忍術学園に来たことで六年生たちは珍しいこともあるものだ、と門まで出迎えたのだ。
「おお、乱太郎じゃないか。」
「おはようございます。先輩方。」
「乱太郎、まだ冬休みも残ってるのにどうしてこんなに早く忍術学園に来たの?」
乱太郎と同じ保健委員である伊作が六年生全員が聞きたかったであろう事をいの一番に言ってのけた。乱太郎は頬を掻きながらえっと…。と口篭りながら言葉を紡いだ。
「…えっと、私もよく分かっていないんですけど、」
私の両親が、今から多分雪が降るかもしれないから早く忍術学園に行った方がいい。って急かされたんで来たんです。
私もこんなに晴れているからそれは無いんじゃない?と言ったんですが、まあ両親の天気予報は結構当たるし、雪が降ると悴んで走れなくなっちゃうので早く来ちゃいました!と乱太郎は言った。
そんなことあるのだろうか?と六年生は乱太郎に気づかれないように顔を合わせた。現在の天候は快晴でこれから雪が降り始めるとは思わないくらいの天候である。
乱太郎の両親は忍者でもあり農家でもあると聞いているので、気候によって自分たちが育てている作物が左右される農家にとって雪は大敵であるため、空の色、風向き、雲の様子、霧の有無などを見て判断したのだろうと、六年生たちは推測した。
「そっかあ、雪降るのかあ。」
「まだ分かりませんけどね。」
でも、大体父ちゃんと母ちゃんの予報は当たるので多分降ると思います。と乱太郎が言い切った一刻後に雪がパラパラと降り始めたのである。降り始めると六年生たちは驚いたように顔を合わせその中でひとり乱太郎は寒くなるなあ…。と呟いていた。
雪が降り始めると次第に降る量が増えていき、地面に積もり始めた。積もり始めたところで小平太が雪合戦をしよう!と言ったことで今、雪合戦が行われているわけだ。文次郎と留三郎は小平太に腕を掴まれて強制参加、仙蔵と伊作と長次は自室でやりたいことがあると言って断ったのだが、留三郎が伊作の手を咄嗟に掴んだことにより、参加しているという訳だ。
「…乱太郎、お前はどうする?」
お前も雪合戦に参加するのなら私も参加するぞ?と微笑む仙蔵に、うーん、どうしましょう……。と考え込む乱太郎。
「…うーん、立花先輩のお誘いは嬉しいんですけど、」
私、雪が降るって言われてからすっ飛んできたので少し眠たいのです。ちょっと自室でお休みさせて頂きますね。とにへらと笑う乱太郎の顔には彼が言った通りに疲れが残っていた。
「…そうか、ならば今回は引き下がるとするか。」
また起きて元気になったら雪でも眺めよう。と乱太郎の頭を撫でて仙蔵は去っていき、二人になった乱太郎と長次。
「それなら、私の部屋に来るか…?」
じ、じゃあ失礼しますね!と去っていく乱太郎の手を掴んで、咄嗟に長次の口から出たのはその言葉だった。
長次自身もどうしてこんな事を言ったのか分からなかったのだが、今から雪が降って寒くなるというのに誰もいない一年長屋に籠ったとしても暖かくならないから、それなら幾分か暖かい自分の部屋にこればいいと無意識に考えていたからだった。
「え、いいんですか?」
*️⃣
このぬくもりをずっと覚えていられたら。
(それはどんなにしあわせだろう)