僥倖に預かるの続編「…なんで、仙蔵が乱太郎を見つけてるのさぁ…。」
僕が一番最初に見つけたと思ってたのに…。としょんぼりしているのは、前世で乱太郎の所属していた保健委員会の委員長であり、乱太郎と同じく不運を携え、周りからは不運大魔王と呼ばれていた善法寺伊作だ。
乱太郎のことを前世でもどの先輩よりも一番可愛がってくれていた彼は、乱太郎の家の隣に住んでいて、お兄さんポジを獲得していたらしい。
立ち話もなんだから僕の部屋で詳しい話を聞かせて欲しい！ね！来るよね！と肩を掴まれてしまった仙蔵と乱太郎は、あれよこれよと伊作の家へと案内されて事の顛末を話した。
記憶を思い出したのは誕生日を迎えた昨日だったことと、今世の両親は前世の両親と同じだったが、記憶を持っていなかったこと。だから、もし、自分たちのように出くわしたとして、自分だけが前世のことを覚えていて相手が覚えていなかった時。きっと、どうすればいいか分からないし、絶望してしまうかもしれないと思ったこと。そんな絶望なんかしたくないから、記憶が無いフリをして殻に閉じこもったこと。
そして、記憶がないフリを徹底するために情報収集として家の周りを歩いていた時に偶然、仙蔵とぶつかってしまい記憶があることがバレて今に至るということ。
仙蔵に言ったことと同じ事と、仙蔵と出会ったことの顛末を伊作に話すと、そんなの誰でも考えることだから仕方ないよ。と頭を撫でてくれ、乱太郎も最初に見つかったのが仙蔵だったのが運の尽きだったね。とまた笑った。
伊作も仙蔵と同じく前世の記憶が物心つかない頃からあったそうで、良く誰かがいないと泣いていたそうだ。物心ついた時に、隣に引っ越して来たのが乱太郎の両親で、最初は気づかなかったらしいが、家族ぐるみで仲良くなって乱太郎が生まれた時に、乱太郎の両親がまだ幼い赤ちゃんを抱いて名前を言われた時、やっと前世で関わりのある子を見つけることが出来て涙が出たという。
「…あの時は本当に奇跡だと思ったね。」
現世で誰も自分のことを知ってくれている人なんか居ないんじゃないかなんてどこか諦めている自分がいたけれど、乱太郎と出会ったことで現世と自分を繋ぎ止めてくれたんだよ。と伊作は喋った。
自分は物心つかない頃から記憶があったから、乱太郎もそうなんだろうと心のどこかで期待していたが、自分のことを覚えておらず、その時は少しだけ落胆したらしい。が、記憶が無くとも、自分のことを兄と慕ってくれてまるで前世の時のような関係に戻れたことが嬉しかったとも語った。
そう言いながら、乱太郎の頭を撫でる傍ら、伊作は仙蔵に対して恨み言を吐く。
「…僕が最初に乱太郎を見つけたから、記憶が戻ってから前世の誰かを見つけるのも僕であって欲しかったのに。」
今世で再会して早速恨み言を吐かれるのは頂けないが、そりゃそうだ。と仙蔵は思った。もし自分が伊作の立場だったならば、自分だけが乱太郎のことを見つけている状態でこうして自分のように横取りされたら腸が煮えくり返る程だし、末代まで恨むだろう。でも最初に見つけたのは自分だ。伊作は記憶がなかった時に乱太郎に会って兄のポジションを獲得しているのだから、それぐらい奪ったって良いだろう。と思いながら、すまんな。と謝った。