「花なんか別に好きじゃなかった」
ぷつり、ぷつり、ぷつり。
「だからそうやって、千切って遊んでいるのか」
ひ、ふ、み。
「これは、まじないだ」
ひら、ひら、ひら。
「まじない?」
フウガの手の中で可憐に咲いていた白い花は、挟んだ指に引っ張られ花弁を摘み取られていく。
モクマは見ていた。里に下りてきたフウガが先程、里に住む少女からこの花を差し出され、笑いながら受け取っていたのを。確かにあの時、フウガは笑っていた。目鼻立ちが整った美しい少女と、フウガ。並んだ姿がよく似合っていると息を呑んだほどだった。
里の者達と手を振り別れたフウガは、常紅樹が生い茂る森の中へ花を手にしたまま入っていった。モクマもその後に続いた。ついて来いと命じられたから。
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