淳まこ(多分、両片想いだったんじゃないかな)いつからかなのかは判らない。気が付けばその不可解なものは早田の中に生まれていて、今もずっと燻った状態で存在している。それは自分でも判らないうちに早田に不快な感情を与えて、そしていつの間にか消えるようにいなくなる。
「……あ」
そして唐突に気付いた、その不可解なものが何なのか。ワールドユース大会に向けて召集された全日本ユースの合宿で、その人物に再会してから。
「俺、三杉の事が好きやったんか」
自分が三杉の事を気にしていた自覚はある。心臓病というハンデがあるにも関わらず、誰よりも凄いテクニックとセンスを持つサッカーの天才。指揮官としても優秀で貪欲に上を目指す姿は、同級生ではあるが尊敬に値した。
「我ながら、にっぶ……」
そんな言葉を呟きながらコツンと手の甲を自分の額にあてた早田ではあったが、不意に周りの空気が違っている事に気付いて視線をそちらに向けた。
「………もしかして、声に出てた?」
呆気に取られるような表情を浮かべている、チームメートの姿。自分では心の中で呟いていたつもりだったのだが、どうやら思いっきり声に出してしまっていたらしい。
「お前、三杉の事が好きだったんだな」
しみじみと反町から言われてしまったその言葉に、早田は我ながら間抜けすぎると自分で自分が情けなくなった。三杉が自分の事を恋愛対象にするとは全く考えられないし、そんな自意識過剰な感情は持ち合わせていない。ただこの合宿を迎えるにあたって、その感情には気付きたくはなかったし知られたくもなかった。
「今の、集団幻聴って事で忘れてくれへん?」
「集団幻聴って、あのな……」
思い切り真剣な表情で言われた言葉に、反町は呆れる事しか出来ない。けれど早田の気持ちも判らなくはないので、彼の希望を叶えてやりたい気もするのだけれど……。残念ながらそれは出来ない事だった。
「あ……のな、早田。それは出来ない相談なんだわ」
「え、なん……で」
早田も自分で無茶を言ったとは思っている。けれど出来ない事ではないだろうとも、早田は思う。ちょっと聞かなかった事にしてくれたらそれで良い事だろう、と。
「してやりたいのは山々なんだけどさ、出来ない理由ってのがあってだな」
チラリと反町が視線を向けた方向を、早田もジッと見つめる。