淳まこ自意識過剰。
頭に過ぎったその言葉を、三杉淳はグッと押し込むようにして心に刻む。自分の気持ちが彼に向いているからといって、彼の気持ちが自分に向いている確率はかなり低い。恋愛フィルターの掛かった目で見ているから、そんな風に感じてしまうのだ……と自分に言い聞かす。
「まいったな……」
軽くため息を吐いた三杉の視線の先には、彼の想い人が楽しそうに笑っていた。三杉の気持ちには気が付いていないのだろう、彼が見ている事にもきっと気付いていない。けれど彼は時折ジッと三杉を見る。仲間や友人を見るのとは違う、まるで愛しい相手を見つめているかのような瞳で。そう見えるのは、三杉の願望なのかもしれないけれど。
人の気も知らないで……。
三杉が彼の事を知ったのは、中学三年の夏。サッカーの全国大会を見に行った時の事だ。目的は大空翼率いる南葛中学の試合観戦だったのだが、その一回戦の対戦校のエースが彼・早田誠だった。その試合で南葛中を苦しめたそのプレーは印象的で、今まで見た事のないタイプのDFに興味を持った。けれどその時の感情はあくまでもサッカー選手へのもので、特別なものではない。それからフランスで行われる大会の為に全日本ジュニアユースが結成される事になり、その選抜合宿が全国大会終了後に行われた。早田は選手として召集され、三杉はコーチとして参加する事になって。
その感情は、その時すでに生まれていたのかもしれない。
サッカーに対する姿勢や情熱、そしてサッカー以外の姿も目の当たりにして心が揺すぶられた。早田は明るくてコミュニケーション能力が高い。見た目は大雑把そうに見えるのに、意外と人の動きをよく見ていて色々な事にすぐ気付く。それから、仲間思いで涙脆い。何となく目で追いかけてしまった存在はいつの間にか三杉の中で大きくなり、ジュニアユース大会が終わる頃には違う感情を生み出した。
『恋愛的な意味で、彼が好きだ』
自覚してしまった感情は三杉の中で大きくなり、同時に困惑した。三杉はかなりのイケメンで小学生の時にすでにファンクラブがあったほどなのだが、恋愛に関しては自分から動いた事がない。心臓病である彼は大げさではなく人生を大好きなサッカーにつぎ込んでいて、恋愛には全く興味を持たなかったからだ。だからこそ三杉は初めて感じているであろうこの感情に戸惑っている。