コインランドリー7 デンジが来なくなって一ヶ月経った。
別に喧嘩をした訳じゃない。でも、アイツが俺の気持ちも知らないで妹を勧めてきたり、俺に好きな女がいると勘違いして告白しろだの何だのとはしゃいでいるのがムカついて、ついキツい言い方で会話を終わらせてしまった。
それからデンジが帰ってしまって……。それ以来音沙汰なしだ。
少し頭を冷やそうとこちらからも連絡をしなかった事もあり、気が付けば一週間が経っていた。
……怒っているんだろうか。いや、仕事が忙しいだけだ。前にもこんな事あっただろ。
そう自分をごまかしているうちにまた一週間が過ぎてゆく。
流石に寂しくなってデンジに電話をしようと思い立つも、どう切り出していいのか分からない。
今度は俺の仕事が忙しくなってきたのもあり、デンジの事を後回しにしているうちに体調を崩し、寝込む羽目になってしまった。
そんな俺を心配して様子を見に来てくれた姉がいる時だった。
ピンポンとチャイムが鳴る。
「アキー? 誰か来たみたい。何か荷物頼んでたりする?」
姉が寝室の扉を開けて聞いてきた。
「ああ……。そういえば……食料品とか頼んでる」
「分かった」
姉はパタパタとスリッパを鳴らして玄関へと向かった。
「宅配じゃなかった」
「誰だった?」
「んー、間違いだったみたい。なんか、金髪の男の子だったよ」
「金髪?」
まさか、デンジか?
「心当たりでもあるの?」
立ち上がろうとするも、熱のせいなのか目まいがしてよろけた所を、姉に止められた。
「どこに行くの? 風邪なんだから出歩くのはやめなさい。友達なら電話してみたら?」
「ああ……」
そうだな。友達だ。……まだ友達のはずだ。
俺はノロノロと携帯を立ち上げ、発信ボタンを押した。
しばらくすると「もしもし」というデンジの声が聞こえてきた。
久しぶりに聞くデンジの声だ。
鼻をすする音が聞こえる。もしかしてあいつも風邪をひいてるんだろうか。
「……アキ」
変わらないデンジの声に嬉しくなり、いつもの調子で話し始めた。
「久しぶり。元気だったか?」
「あ、ああ……」
心なしかデンジの声が暗い。
「来てくれたんだろう? なんで帰った?」
……反応がない。
「……デンジ?」
聞こえているのか不安になり、呼びかけると掠れた声が聞こえてきた。
「なんでって……お邪魔虫になりたくねーから」
「お邪魔虫?」
「あのキレーな女の人…お前の彼女なんだろ?」
そこでピンときた。誤解されている。
「違う! 彼女じゃない。姉だ! 風邪で寝込んでたから心配して来てくれたんだ」
「えっ! お姉ちゃん……? なんだ、彼女かと思った……」
「言っただろ、俺は好きな人がいるって」
俺が好きなのは、デンジだ、と続けようとすると、デンジが言葉をかぶせてきた。
「あー……、無理に言わなくていいぜ。どうせ俺の知らない女だろーし。じゃあな、ゆっくり休んで早く良くなれよ」
「おい、デンジ、待てよ!」
なぜだか誤解が解けない。いやだ、デンジにそんな勘違いをされたままなのは。
「聞けよ、俺が好きなのは」
デンジだ、と言おうとした瞬間にプー、プーと電話が切れた音がした。
「くそっ」
かけ直すも全然繋がらない。
「なんでだよ……!」
リダイヤルのボタンを押す指先が冷えてゆく。
まるで俺達の関係を示すかのように。