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    nekoyamanekomi1

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    nekoyamanekomi1

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    コインランドリーで出会う🍁🪚。現パロ風。
    今回は🍁視点となります。
    前回までの作品にスタンプありがとうございます!

    #アキデン

    コインランドリー4あいつを初めて見たのは、いつだったか。
     毛布を洗うために隣のコインランドリーに行ったのが始まりだったと思う。
     ガランとしたコインランドリーで彼は一人、椅子に座って静かに本を読んでいた。
     ゴウンゴウンと洗濯槽が回る音。
     窓から差し込む陽光に金髪が透け、赤みを帯びた瞳が妙に美しかったのを覚えている。
     話すことはないし、目が合う事もない。
     ただ、外国人のように淡い色合いの彼を見かける度、自分の中でどんどん気になる存在となり。
     そのうち洗濯機で洗えるものまでもコインランドリーで洗うようになってしまった。
     我ながらなかなか気持ち悪い事をしているという自覚はある。
     だけど、彼に会えるかもしれないと思うと自然に足が向いてしまう。
     彼はどんな声で、どんな口調で喋るんだろう。
     どんな風に笑って、どんな事に興味を持つんだろう。
     ──この感情に名前をつけるとするならば。
     ここまで考えて首を振った。
     名前をつけてどうする。知り合いでもない、ただコインランドリーで見かける同性の相手に抱く感情としてはあまりにも重すぎる。
     
     そう思っていた。あの雨の日までは。

     ◇◇◇
     
     その日は雨が降っていた。
     こんな雨の日に、コインランドリーに来る人間などいないだろう。
     そうは思いつつも一縷の望みを胸に、傘を持って外へ出た。
     
    「……いた」
     いつもの席に座って、いつものように本を読みふけっている彼がいた。
     まさか本当にいるとは思ってなかった。
     自動ドアを通り抜け店内へと足を踏み入れる。
     すると彼はチラリとこちらを見た。
     軽く会釈をして開いているランドリーを開け、洗濯物を放り込む。
     (すごい雨ですね、とか話しかけてもいいものか……?)
     そんな事を悶々と考えていると、彼が口を開いた。
    「げぇ〜! マジかよ。めちゃくちゃ雨降ってんじゃん……!」
     雨が降る前にここに来ていたのか、傘を持っていなさそうな彼は外を見て落胆の声を上げた。
     まず思ったのは(へえ、こんな口調なんだ)ということ。
     なるべく会話を続かせたい俺は、あえて敬語を使わず、彼の口調に合わせる事にした。 
    「お前、傘持ってきてないのか?」
     すると、一瞬驚いたように目を軽く見開き、ニカッと笑った。
    「お〜、持ってきてねぇ」
     それが、俺とデンジの最初の会話だった。

     天気予報からテレビの話になり、彼がテレビを持っていない事を知った俺は、賭けにでた。
    「古いテレビを安くで譲ってやるから見に来いよ」という怪しさ満点の誘い文句。
     俺なら絶対行かない。だって怖いし。
     だがデンジは「お〜、行く」と俺の誘いにホイホイと乗って家まで付いてきた。
     はっきり言ってチョロい。チョロすぎる。
     テレビを餌に自分で誘っておいて何だが不安になる。
     (こいつ、自分がキレイな顔してるの自覚してねーのか?)
     男だからって何も警戒してねーんだろうな。
     ……いや、別に彼に対してそんなやましい感情は抱いてないが。
     無邪気にテレビを五千円に値切ろうとする彼に、ゲームをしにまた遊びに来るように提案すると、大喜びで食い付いてくる。
     ……可愛いな。
     そういえば、どことなくタイヨウに似てる気もする。顔じゃなく雰囲気が。
     そうか、だからこいつの事が気になってたんだな。それなら自分の感情に説明がつく。
     俺はデンジに対する感情を、弟に対するそれだと納得させ、接するようになった。

     それからデンジは俺の部屋へちょこちょこ通うようになった。
     初めは三日に一回。そのうち二日に一回と頻度が上がってゆき、気が付けば毎日のように来るようになった。
    「だって、アキの作るメシうめーもん。食費入れるぜ。一万でいい?」
    「いいよ。金なんて」
     一人分も二人分も大して変わらない。
     むしろ一人の時はコンビニで買ってきた惣菜だったりしたので、今の方がかえって安くついてるくらいだ。
     するとデンジは軽くため息をついた。
    「なぁ、お前ってさぁ。俺に対してめちゃくちゃ甘くない?」
    「そうか?……弟と同じくらいの年だからかな。だからつい甘くなる」
    「……まあ、嬉しいけどよぉ。でも俺ァお前の弟じゃないからな。金はとりあえずここに置いとく」
     冷蔵庫のマグネットで金をはさみ、鼻歌を歌いながら皿を洗い始めた。
    「あ、そうだ。今日はアレしよーぜ。マリオ○ート!」
    「いいな」
    「今日は負けねーかんなぁ」
     いつもデンジはニコニコとしていて機嫌がいい。
     はっきり言ってゲームの腕前はそこまでではないが、デンジと遊んでいると時間を忘れて没頭してしまう。
    「あ〜! また負けた!」
     床に倒れ込むデンジは子供みたいだ。
     ふと時計を見ると、もう10時を過ぎていた。
    「そろそろ寝るか。今日も泊まってくだろ?」
    「お〜。じゃ風呂いれてくる」
     まるで本当の兄弟みたいだ。
     流石に風呂は一緒には入らないが、同じベッドで眠っている。
     初めは流石に戸惑ったが、デンジは気にしない様子で布団に潜り込んだ。
    「このベッドすげぇデケーな! これなら離れて寝れるし問題ねーな」
    「ああ……」
     いいのか? 本当にいいのか?
     離れて寝るにしても少し手を伸ばせば簡単に触れ合えてしまう距離だぞ。それをお前は……。
     ベッドに入らずグズグズとしてる俺に「……問題ねーよな?」と不安げに瞳を揺らした。
     その様はまるで迷子になった子供みたいで。
    「ああ、問題ない」
     つい言ってしまったその一言で、一緒に寝る事が確定した。
     デンジは意外と……というか何というか、寝相が良かった。というか寝付きが異様に早い。
     これは寝付きがいいというか、気絶に近いのでは? と思ってしまうほどだ。
     おかげで俺はデンジに気付かれる事なく寝顔をじっくりと観察する事ができた。
     スッと通った鼻筋。軽く開いた口元から覗くギザギザの歯。形の良い眉。長いまつ毛が下まぶたに影を落とし、薄いまぶたの下を眼球が微かに動いてる。
    「……眩しいかな……」と思いつつ、ふわふわの髪の毛を撫でてやるとむにゃむにゃと動く唇が可愛くて、つい毎晩のように灯りを煌々と付けたまま、頭を撫でてしまうのだった。
     
     ある日、実家からメロンが送られてきた。
     メロンから実家が北海道だという話になり、その流れで一緒に北海道に行こうと誘ってみると大喜びではしゃぎ始めた。
     具体的な話はしなかったが、少なくとも俺と二人で旅行してもいいと思うくらいには好かれているという事実に頬が緩む。
    「そろそろメロン切るか」
    「おう! じゃあここきれいにする」
     皿を洗うデンジの横でメロンを冷蔵庫から取り出すと「アミアミのメロンだ!」とはしゃぐ様が可愛らしい。
     デンジの分を少し大きく切り分けてから種を取る。それを流しに捨てようとしたらデンジに「ここが一番ウメェとこだろ!」と怒られてしまった。
    「いや、普通種は捨てるだろ……」という俺の反論は種ワタと一緒にデンジの口の中に飲み込まれてゆく。
     アーンと開けた口の端からメロンの汁が垂れ、それを赤い舌で舐めとる。指についた汁を舐める仕草がエロティックで、目が離せない。
     マジマジと見つめる俺の視線に気が付いたのか、デンジは俺を軽く睨んだ。
    「なんだよ。なんか文句あっか?」
    「いや、ないけど……。そんなに種が好きならこれ全部食うか?」
     どうせ捨てる部分だ。
    「おー。いいんか?」
     デンジが犬なら尻尾をパタパタと振っているだろう。そのくらいいい笑顔だった。 
     さっきはあんなにエロかったのに。今は可愛くご褒美を待っている。その姿に動揺した俺は、スプーンで種わたを取り除けばいいところを、うっかり手で掴み取ってた。
    「ちょっと待て。皿を……」
     何してんだ。俺は。種ワタを乗せようと小皿を探す俺の手を、デンジは掴んだ。
    「何を……」
     するんだ、と言い終わる前に俺の指ごと種ワタを口に含み、ムシャムシャと食べた。
     それだけでは飽き足らず、手についた汁まで味わおうと指に舌を這わせてくる。
     指の腹を舌先でなぞられると変な気分になる。
     まるで性器をしゃぶられているような──。
     下半身が反応しそうになって、慌ててデンジの舌を摘んだ。
    「いへぇ」
    「お前な……。いちいちエロいんだよ」
     俺の必死の抗議を彼は聞き流した。
    「何がだよ。男同士なんだからエロいも何もねーだろ」
     拗ねたように濡れた唇を尖らせ、上目遣いで見つめてくる。……だから、エロいんだよ! 
    「言ってろ。ほら、メロン食わねえのか」
     デンジに少し大きいメロンを差し出してやると、大喜びで食いついた。
    「食う食う〜」
     一口サイズに切ってやったメロンをパクパクと凄い勢いで頬張り、それだけでは足りないのか皮を歯でこそげ取ってゆく。
    「足りないならもう一切れ食うか?」
    「マジで? いいんか?」
     そんなに美味しそうに目の前で食べられたら、つい甘やかしてしまう。
     二切れ目のメロンもあっという間に平らげるとデンジは満足したのか腹を擦った。
     ……はあ、可愛いな。
    「はぁ〜、腹いっぱいになったら眠くなっちまった」
    「じゃあ泊まってけよ」
    「おっ、サンキュ、じゃあ風呂の準備していい?」
    「ああ」
     泊まっていくときはデンジが洗濯をするルールになっていた。
     グルングルン回る洗濯槽を見つめながら、デンジが問うてくる。
    「なぁ、なんでこんなデケー洗濯機あるのにコインランドリーに通ってたんだよ」
     それを聞かれると辛い。
    「……あの時は調子が悪かったんだよ」
     まさかデンジ目当てでコインランドリーに通ってたとは言えない。
     必死にごまかすと「ふぅーん」という気のない返事が返ってきた。

     デンジは土日、連絡が無くても必ずと言っていい程遊びにやって来た。
     ピンポンという軽やかな音がすると、弾かれたように玄関までダッシュを決め鍵を開ける。
    「はよ」
    「ああ。おはよう」
     ギザギザの歯を覗かせて、その辺のコンビニで買った飲み物とおやつを手渡してくる。
    「いつも言ってるけど、気を使わなくていいんだぞ」
    「気ィなんか使ってねー。俺が食いたいモン買ってるだけだ」
     そうは言っても袋の中にはいつも俺の好きな薄塩ポテチが入っているのを知っている。
    「ン」
     なかなか受け取ろうとしない俺の胸に袋を押し付け、デンジはテレビの前に陣取った。
    「今日は何で遊ぼっかな〜」
     棚に並んでいるゲームソフトを眺めて目をキラキラと輝かせている様子はまるで子供のようだ。
    「そうだ、昨日買った新作ゲームがあるぞ」
    「マジで! んじゃそれしよーぜぇ」
     そう言うと思った。俺とデンジは小学生のように、ゲームの世界に没頭していった。

    「んじゃ、また明日な!」と帰り支度をするデンジに泊まっていけよと言いそうになったが、あまり連日誘うのもおかしいのかもしれない。
    「ああ、また明日な」と玄関まで見送り、軽く手を振った。
     ドアが閉まった途端に寂しくなる。
    「早く明日にならねーかな……」
     まだデンジと一緒にいたい。
     ……これは、本当に弟に対する感情なのか? タイヨウと離れる時もこんな気持ちになった事なんてないのに。
     ──もしかして、俺はあいつの事が……。
     認めたくない言葉が脳裏をかすめ、思わず首を振った。
     いや、違う。あいつは親友だ。だから離れる時に寂しくなるんだ。そうに決まってる。
     今までどんなに仲の良い友達がいてもこんな気持ちにはならなかっただろうと、心のどこかでもう一人の俺がツッコんでくるも。
     それに対する良い答えが見つからない俺は、それを無視して玄関の鍵を閉め、部屋を片付けに戻った。

     日曜日。その日は朝から曇っていた。
    「雨、降るかな……」
     デンジは何時頃来るだろう。雨が降り出す前に来たらいいが。
     そんな事を考えている間に雨は降り出し、窓の外は真っ暗になっていた。
     デンジが来たら近所で見つけた美味しいラーメン屋に行こうと思っていたので、家には食材すら無かった。
     かと言って一人で食べに行く気にもならず。
    「……何か買いに行くか」
     デンジが来ない日曜日は久しぶりだ。
     ここ数週間はデンジがいる休日が当たり前になってたからな……。
     傘をさして近所のコンビニへと足を向けると、相合い傘をして楽しそうにはしゃぐカップルがいた。
    「明日のパン切らしてた! デンジ、買って!」
     さっきから頭の中を占拠している名前を女が呼ぶ。
     まさかと顔を上げると、そのまさかだった。
    「テメー、自分で買えよなぁ。売れっ子なんだろぉ?」
     デンジだ。楽しそうに女の肩を抱いて笑っている。距離が異様に近い。なんだ、その女は?二人の声は聞こえるのに、脳味噌が内容を理解できない。
    「ん?」と女がこちらへ視線を向けた。
     思わず隠れてしまう。
    「視線を感じたんじゃが」
    「誰もいねーぜ」
     そしてまた二人はじゃれ合いながら、コンビニへと入っていった。

     綺麗な女だった。デンジと並んで立っていると、本当に絵になった。
     あれは、あの女はデンジの恋人なんだろうか。
     ……すごく、親密な空気を漂わせていた。
     自分の中に黒くドロドロとした感情が湧き上がる。
     ああ、この感情は知っている。嫉妬だ。
     俺はあの女に嫉妬している。
     もはや自分の気持ちに嘘はつけない段階にまできていた。
     もう、認めざるを得ない。
     俺は、デンジが好きだ。弟や親友としてじゃない。恋愛対象として好きなんだ。
     こんな気持ち、できる事なら一生気づきたくなかった。
     でももう遅い。
     今度デンジと会う時、どんな顔をすれば……。いや、あの女の事を聞くべきなのか。
     
     結局その一週間は、デンジが我が家に来る事はなく。
     その間ずっと同じ事ばかりを、ぐるぐると考え続けていた。
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