お人形遊び 星座はいつ? からいつの間にか、誕生日はいつ? という話になった。それから、女の子だし宝石に興味ないかとペペが問うたものだから、人並みに、と答えた。
ここで言う人並みにとは、魔術師並みに、という意味で言ったのだ。降霊科として語れば宝石は触媒に使うなり魔力を貯めるなり様々に用途があり、あればあるだけ困らない。
なので、これは私が招いたことじゃない。
「だから宝石に興味があるというのは、身に着けたいって意味で言ったわけじゃないのよペペ」
「分かってるわよ。嫌いじゃないなら付き合ってちょうだいな。私、お人形遊び好きなのよね」
「無駄だと思うけど……」
私の背後に立って私の髪をくくりながらペペが言う。
通りすがる人の視線が痛い。色々と融通してくれたヴォーダイムには悪いのだけれど、お茶会用の場所として食堂近くを提供されたことに若干の恨めしささえ感じる。だって私のお茶会の相手はペペなのだ。Aチームの中でも距離の近い――悪く言えば少し馴れ馴れしい人。だから、このような事態が起きることくらい想像に容易かったのだし。
ペペは私に「次はこれね」と言って、黄緑色の石がついたバレッタを差し出した。
今髪をまとめさせられていたバレッタを外してそれを手に取り、それで髪を結わえ直す。
「……どう?」
振り返って訪ねれば、ペペロンチーノは通算5度目になる首を振る仕草をした。
「ダメねぇ。ぜんぜんダメ。ベリルはアナタには、ぜんっぜん似合わないわー」
「べ、ベリル……」
「ん? ……あらヤダ、違う違う! それについてる宝石がベリルって名前って話!」
ケラケラ笑われるとなんとなく面白くない気分だ。私はこれまでで一番迅速に、ベリルの付いたバレッタを取り外す。
「……もういいでしょうペペ。よく考えたら私、貴方に施しを受ける義理は無いもの」
「誕生日プレゼントを施し呼ばわりなんて嫌ねぇ、無粋よオフェリア。だって今の私は使う髪飾りが決まっているんだもの。寝るとき以外バレッタを使う機会も無いし、勿体なくてね。一個くらい貰って欲しいわ」
「でも、やっぱり無駄だと思うのよ」
ペペが私に試させているのは自分が使い古した宝飾品だ。こんな高そうなものを無造作にじゃらりとテーブルの上に並べるペペこそ勿体ないことをしている、と私は思ってしまう。
「そもそも私、目の中に宝石があるから、石で飾り立てるとゴテゴテして……」
「あら、思い込みは良くないわ? 宝石が駄目なら、そうねえ」
「……まだやるの?」
次はこれね、と選ぶペペの指。プレゼントとは言っても、私の意思は反映されないらしい。
ペペが満足したのは、さんざん試した結果、透明なパールとビーズ飾りが垂れたバレッタだった。
「…………」
頭を動かすとしゃらりと揺れる仕草が藤の花のようで可愛いと思う。輝きは私の目には負けているが、控えめで眩しくないところが上品な感じがする、と示された三面鏡の中の自分を見て思う。
「どう?」
「……悔しいけど……可愛い」
素直に答えたら、ペペの顔が(こう言っては失礼だけれど)ニマァア、と歪んで、私は小さく悲鳴を上げる。
悪い予感がする。
「うんうん、私も可愛いと思うわっ! でも、アナタはもっと伸びしろがあると思うのよ! 良かったら次はお化粧の練習をしましょうか? そうそう、私の部屋にインドで買ったけど着てないサリーがあって――」
「っ! だ、大丈夫。私、そろそろ帰るから!」
このままでは本当にペペの人形にされてしまう。ガタンと椅子を鳴らして私は立ち上がった。
「あらぁ残念。じゃ、お誕生日おめでとー」
ペペロンチーノに曖昧な返事をしながら私は茶会の席から離れて、早足で人混みのある廊下を抜ける。
「あ、見て。あのバレッタかわいい」
「本当〜」
すると、唐突に背後からそんな声がした。
カア、と顔が熱くなる。
私のことだろうか。自意識過剰かしら。ああもう、バレッタなんかつけてるから、いつもより人の目が気になって仕方がない!
……でもバレッタを今は外す気になれなくて、私はできるだけ身を縮めなから自分の部屋まで逃げ帰ったのだった。