「とても楽しい悪夢だったよ」「夢を思い出したから今話して良いかい?」
ある日、司と類がガレージで会議を行なっている最中のことだった。いくつかの話題が落ち着いた頃、類は唐突に「夢の話」について語り出して良いか司に尋ねた。
「別に構わんが」
急なことだったので戸惑いはしたものの、司も類の見る夢とはどんなものなのか気になったため特に止めることはなかった。
「僕は一応教室にいたんだけれど、場所がおかしいんだ」
「まさかオレのクラスか?」
彼の夢の中にまで自分が干渉していると信じて疑わない司はそう考える。
「いや、密林だった」
しかし予想を遥かに上回った返答が返ってきた。
「は?」
「僕は不思議とそこを教室だと認識していて、東雲くん、瑞希と3人で給食について話しているんだ」
「待て、お前は何歳だ」
出てきた二人は1年生だし、そもそも給食は高校にない。
「地面から出てきた青柳くんと旅に出て、その道中で晶介さんに頼まれて木の枝と等価交換で爆弾処理をしたんだったかな」
「対価が釣り合ってなくないか……?」
「でも夢の中でいただいた時は信じられないくらい嬉しかったんだよ」
思い出しながらだから、という言い訳では擁護できない奇妙な夢が続く。既に教室という平凡な言葉から始まったとは想像もできない展開となっており、逆に何が起こるのか分からず楽しくなってくる。
何故か登場人物は二人の後輩やフェニラン関係者ばかり。すぐに姿形の浮かぶ人物が突拍子もない行動をするので、司は想像しては首を振った。
特に目の前で夢を語る類が木の枝の良さを冬弥に力説し、喜んで振り回している姿などあまりにも酷すぎて一度トイレに避難したほどだった。
しかし、話が進むにつれ司は違和感を覚えた。ある人物が出てこないからだ。
友人、後輩、果てには上司まで出ているのに、司だけが出てこない。
「……そうして、いつの間にか一緒になっていた東雲くんが僕とボクシングで戦うことになったところで目が覚めたんだ」
夢とは殆どがそういうもので、何の脈絡もなく物語が終わる。意味ありげな伏線も回収されず、納得も理解もできないまま、感情だけを変に揺さぶってどこかへ帰っていくのだ。
「すごい夢、だとは思うが……」
司もそんな抽象的な感想しか口に出せなかった。一通り聞いても何が主題なのか全く分からない。
「類はどう思ってるんだ?」
オレが出てこないこの夢を。
司の言葉に、話を終えた類は水を一口飲んで笑った。