膝折れてなお「知っているかい、坊や」
ふつりと細い茎を手折った鶴丸がついでのように口を開く。鶴丸の唐突な語りはめずらしいことでもない。はぁ、と諦めたように息を吐き、大倶利伽羅は話の続きを待った。
「こいつらは折れて倒れても、そこから根を伸ばして立ち上がるんだそうだ」
「そうか」
「こんな細っこい茎だっていうのになぁ」
再び、鶴丸の手が花を手折る。
「…おい、あまり引きちぎるな」
「刈りつくさなければ別にいいだろう?」
気にした風もなく鶴丸は足を進めていく。ゆらゆらと揺れる花の群れ。
「きみと似ている」
ともすれば聞き逃しそうなほどに、ぽつりと紡がれた言葉に、思わず足を止める。その気配に気付いたのか、振り返る鶴丸の口許には静かな笑みが浮いていた。
「きみは、たとえ膝を突いても、折りはしないだろう」
真っ平らな笑みを崩さず、鶴丸の言葉は続く。その髪に透ける落日。
「そこから立ち上がって、そうやって、どこまでも進んでいく」
「…あんただって同じだろう」
ざわりと波立つ心のまま、吐き出した言葉に、一瞬、鶴丸の目が丸くなる。そうしてゆるりとその表情が崩れた。
「…同じか」
零れ落ちる言の葉。
「そうか、きみは俺をそう定義するんだな」
独白の響き。近いようで遠いのか、遠いようで近いのか。互いの間に横たわる空間を花野を鳴らして風が吹き抜ける。
「…国永」
暮れ泥む空。言外に含んだ音を正しく理解したらしい鶴丸が、ゆっくりとこちらへ足を向ける。後を追う視線。ふ、と緩やかに持ち上がる口角。
「どうした、伽羅坊。迷子みたいな顔をして」
「…あんたに言われたくないな」
「そうかい」
頭花を掲げ、秋桜はただ上を向いている。