Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    blumeV0511

    ss。納受けのみ
    @V0511Blume

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    blumeV0511

    ☆quiet follow

    息抜きに。ラブレターで頂いた、現パロオフェ納書かせて頂きました~
    ラブレター有難うございました!!!元気でました♡

    曇り空は、太陽に恋している。空気が震えるほどの歓声、当たるスポットライト、煌く汗。
    雄叫びと共に抱き合う姿は酷く暑苦しいはずなのに、誰もがみなその光景に感動を見た。

    興奮気味のアナウンスで、本日のMVPの名前が高らかと読み上げられる。
    ウィリアム・エリスーー抱き合う山にもみくちゃにされていた彼は、まるで真夏の太陽のようにギラギラとエネルギッシュな笑みを浮かべ、インタビューマイクに茹る程の熱量を、よく通る声に乗せて放っていた。

    僕はそんな姿を、ただ圧倒されて見た。
    今日は所属大学のラグビーチームの準決勝だった。試合会場は我が大学のホームスタジアムで、皆このゲームの観戦チケットを得るのに必死だった。
    僕はといえばスポーツになんてほとんど興味がない。ましてやラグビーのルールすら危うく、授業の単位で堕ちない程度にジムの時間に参加する位しかしないような人間だった。
    それがなぜ、この歓喜渦巻くスタジアムに居るのかと言えば、隣で大はしゃぎしている幼馴染に無理やりに引っ張って来られたからだ。スポーツと食事は何でも好きな幼馴染は、普段なにかと世話をやいているのだから付き合えと有無を言わさなかった。
    そうして僕は対して興味のない試合を見せられたあげく、人嫌いだというのに興奮に狂った集団の渦中にポツンと居座ることになってしまったのだ。

    だが、この経験は悪いものではなかった。自分の知らない世界というものは案外と面白く、情緒入り乱れるこの現状は割合と興味深いものだった。
    インタビューを受けるウィリアム・エリスにウットリと恋をする顔、チームの勝利に歓喜する幼馴染のような興奮に溢れた顔、負けたチームの悔しげな顔、感動で泪する顔。
    表情の変化が乏しいと言われがちの自分には、ラグビーの試合より、この感情の混沌の方がよほど面白かった。
    スタジアムをゆっくりと眺め、その混沌の中心にいる男をもう一度見つめる。
    太陽のような彼は、インタビューを終えて去る後姿すら陽光を放っているように輝いていた。

    僕は興奮冷めやらない幼馴染に適当な相槌をしながらスタジアムを出る。少しばかり体温が高いのは、色々な感情に中てられたからだろうか。疲れたな、と溢しながら帰ろうとした首根っこは「試合の後はビールで祝杯だろう!」という理不尽に掴まれて、あっさりと帰路から遠ざかっていった。


    そんな事から数日。学内は次の優勝戦に向けてボルテージは最骨頂というところだった。そのせいで落ち着かない学内に、僕はいい加減うんざりとしていた。こういう時は人目を避けれる図書館にいるのが一番いい。
    授業が終わった瞬間、僕は誰にも捕まらないように急ぎ足で図書館へと駆け込んだ。
    勤勉なものだけが集まるわけではないが、図書館は忠実な司書により安寧と秩序が保たれており、僕はこの静寂とインクと紙の匂いにようやっと息をついた。
    窓際にある、お気に入りの二人掛けテーブルをキープし、レポートを終えてしまおうと資料になりそうな本を数冊取りに本棚の隙間を通る。
    年季の入った床は毛足の廃れた絨毯が敷かれていて、足音さえも飲み込まれる。
    この狭い本の林は騒がしい学内で落ち着ける数少ない場所だった。
    あれも、これもと手にとって座席に戻ろうとした時、ぽんっと肩を叩かれた。

    「イソップ・カール?」
    「……ぇ?」

    唐突に名前を呼ばれ、振り返った視線の先をみて硬直する。
    今しがた、僕の肩を叩いた存在を呆然と見つめ、手にした本をどさどさと床に落とした。

    「悪い、驚かせたか?」

    あの日聞いた、夏のような熱量とは違い穏やかで静かな声が、申し訳そうにそういいながら僕が落とした本を拾い上げる。呆然と立ち尽くしたまま拾うのすら忘れていたの前で全ての本を拾い上げた男が、やっぱりあのスポットライトの下で見せた笑顔とは違う、はにかんだ顔で頬を掻いた。

    「おーい、大丈夫か?」
    「ぇ、あ、すいません」
    「急に悪い、あー、ウィリアム。ウィリアム・エリスだ」

    僕が両手で持つのも大変だった本を片手で軽々と持ちながら、頬を掻いた方の手で僕に握手を求めつつ自己紹介をする男の名を知らないものなどたぶん、この学園にはいない。僕はしばらく硬直したあと、しかたなく彼の手を握った。
    大きなては、ゴツゴツと豆だらけで固く、同性なのに僕の手をすっぽりと包み込んだ。

    「ぁの、なんで僕の名前」
    「あー……その、アンタに頼みがあって」

    取り敢えず、座らないか?そう言った彼に慌てて、自分がキープしていたテーブルへ案内する。彼は当たり前のように僕が座ろうとした椅子を引き、僕が座わるのを待ち、それからテーブルへと本を置いた。
    それから自分も優雅に椅子に腰を下ろす。泥臭く、汗臭いスポーツをしている男とは思えない所作に、僕はもう何に驚いたらいいのか分からなかった。

    「えと、その、それで頼みって」

    僕なんかが、彼の頼みを聞けるものがあるのだろうかと困惑しかないが、気になり過ぎて早々に問いかけてみれば、ウィリアムは酷く恥ずかしそうに後頭部を搔いて、そっとテーブルの上に一枚の紙を差し出した。

    「……ぇ?C+?」
    「うっ……その、Mr.ジャックの課題で、そのこうなってしまって」
    「え、ラグビー部って確か……」
    「オール教科、B+以上じゃないと試合に出れない」

    彼が差し出したのは一枚のレポート評価の紙だった。そこに記された記載はC+

    落第がFで、C+は通常の生徒で言えば平均点ギリギリというところだ。
    だが、うちの大学のラグビー部のモットーは文武両道。
    ラグビー部が女子人気なのは逞しい男達が所属しているからだけではなく、将来有望なエリートの集団だからだ。そんなわけで、普通の成績ではラグビー部では許されない。
    ウィリアム・エリスはどの試合にも大抵でていたのだから、当然成績は上位者に入っていたはずだ。それが、まさかのC+。本人の羞恥に満ちた顔をみれば、このような成績を彼はとったことがないのだろう。

    「Mr.ジャックのレポートだけこれで、再提出をしないと試合に出してもらえない」
    「ぁ、えとそれでなんで僕……」
    「Mr.ジャックが、カールはこのレポートでSを取ってるから聞くといいって」
    「……」

    あの軽薄なスレンダーマンに厄介事を押し付けられたと瞬時に理解した。
    期待を背負ったラグビー部のヒーローを試合に出さないなんてことは雇われ教師としては出来ないが、成績に嘘を点けるわけにもいかず、再提出で救済しようとしたが手を差し伸べることも難しく、僕に投げつけたのだろう。
    もう二度と、あの教授の手伝いはしないと心に近い、向かい合うウィリアムをみる。
    今にも泣き出しそうな顔で、縮こまって、項垂れている姿は怒られた大型犬のようだ。
    あの日、スタジアムで見た姿とはあまりにも違って、僕は思わず吹き出してしまいそうになった。

    (この人も、こんな風になるんだな)

    そう思うとなんだか可哀想で、僕は俯いている彼の頭を思わずぽんっと撫でていた。

    「……ぇっ!」
    「……っ、ぁ、えと……」

    慌てて手を引っ込める。自分のした行動が自分でも理解できなくて、驚いている彼の目に見つめられるは酷く居心地が悪かった。どうしようかと困り、僕はテーブルに置かれた本を弄りながら、短く言葉を継いだ。

    「空いてる時間は?」
    「あ、えと、練習は大体放課後だけど、水曜日だけは休息日になってる」
    「昼休みは?」
    「ミーティング入ることもあるけど、空いてる」
    「それじゃぁ、昼と水曜日、足りなかったら練習の後でもいい。レポート、やり直そう」

    僕の言葉にウィリアムの目が子供の様に輝く。あまりにピュアな瞳にうっと喉が詰まる。いいのか、有難うと僕の手を両手で包んで喜ぶ姿に僕は悪い気はしなかった。

    そうして学園一の人気者と、まったくもって接点など持つような人間ではなかった僕の奇妙な関係が成り立った。

    ***

    レポート作成を手伝う条件として、僕は目立つことが好きではないからなるべく約束した時間以外で話かけない、なにかあればSNSを通じてという条件を出した。
    ウィリアムは見た目に反し、かなり真面目な性格なのか、それとも試合のためか僕との条件を忠実に守っていた。

    「……これはこの資料のここをまとめて、うん、そう」
    「凄いな、イソップ。Mr.ジャックより全然分かりやすい」
    「あの人、妙な言い回しが好きなだけだから」

    レポートを完成させるためだけの極短い逢瀬は、彼の忠実さと誠実さも相俟って悪くない時間だった。いつのまにか彼は僕をファーストネームで呼び、僕もまた気を遣わない言葉使いでウィリアムとの会話を楽しんだ。
    元々勤勉で物覚えの良いらしい彼は、少しアドバイスをするだけで思った以上にさくさくとレポートを作成していく。この分だとあと数日でこの関係は解消しそうだった。
    そう考えると、なぜか少しだけ胸が軋んだ。

    「これが終わったら何か御礼させてくれよ、イソップ」
    「……いいよ、そんなこと」

    僕の言葉にウィリアムがあからさまにしょんぼりとする。大きな体を縮めてなんでだよぉと呟く姿はやっぱりフィールドにいる彼とは大違いで笑ってしまいそうになる。
    学園内で見かける彼の姿は、キラキラと眩しい太陽のような姿だというのに、自分の前で見せるこの姿は一体なんなのだろうか。気を許されているのだろうか。いつもウィリアムのこの態度が不可思議で、それでいて何とも言えない醜い優越のようなものを感じ、僕はどうにも居た堪れなかった。

    「なんでだよぉ、いいじゃん。飯くらい行こうぜ?」
    「ウィリアム、言ったよ。僕は目立ちたくないんだ。君みたいなヒーローと居たら嫌でも目立ってしまう」
    「……っ、ぁ、あ。そっか」

    大きな瞳が揺らぐ。あぁ、しまった。今の言い方は、駄目だった。彼のピュアな眼差しに陰りを見て、後悔する。言葉足らずはいつもの事だけど、彼は幼馴染とは違い僕の言葉を受け流さない。傷ついた幼子のような顔に僕はいたたまれず、だけど謝る事も出来なくて、手早く荷物をまとめると、使う資料の指示だけ早口で述べて彼の前から立ち去った。

    「謝りも出来ないで、逃げるなんて」

    自分のあまりに稚拙な行動に泣きたくなった。
    あんな嫌味な言い方、絶対に彼を傷付けた。彼と一緒に時間を共にするにつれて、彼の光に照らされた自分の嫌な部分ばかりが目について仕方がない。
    逃げるように出た外は僕のように陰鬱な空の色をしていて、僕の心の醜さをいっそう責めたてられているような気分だった。それでも明日は会う日ではないということに心底ほっとしていることも嫌だった。

    ***
    (眠れなかった)

    ウィリアムの傷ついた顔がチラついて、昨夜は一時も休まらなかった。
    会う日ではないけど、せめて謝るくらいはした方がいい。自分の理性がそう僕を諭す。
    だけど学校内であまりにも格差のある自分が彼にどうやって話しかけたらいいのか分からない。でも、次のレポート手伝い日まで時間が経てば経つほど気まずさが僕を苦しめる。
    そう考えて、また自分のために謝ろうとしている事にうんざりする。

    結局、僕は我儘なのだ。
    彼の違う一面を見れたことに優越を感じ、かといって目立ちたくないからと彼の好意を無碍にし、彼の事なんてちっともわかっていないのに傷つける言葉を吐いて、それでいて自分の良心の呵責に耐え兼ねて謝ろうとしている。何処までも幼稚だ。
    誰かにこんなに感情を揺さぶられたことはなく、正直戸惑っている。今までだったら、気まずくなったならそれでサヨウナラで終わっていたのに。今は頼まれごとをしている最中ということもあり、投げだすこともできないでいる。いや、いっそ僕以外の誰かに変わって貰えたら。そもそももうレポートだって完成するのだから僕がいなくても。
    そんなことを悶々と考えてしまう。

    彼の事で頭がいっぱいで、気が付けば僕はラグビーコートのあるフェンス沿いにまで足を延ばしていた。
    コート内では、芝生を汗だくになって駆けるウィリアムとチームメンバーがいる。
    陽にやけた浅黒い肌、真剣な眼差し、見学者の黄色い歓声も物ともしない集中力に僕は静かに息を飲んだ。
    緊迫したステージに立つ前の、泥臭い姿。誰よりも勤勉に向き合う姿勢は、本番よりも一際輝いている。改めて、自分の愚かさを痛感した。あんなにもひたむきな彼に対し、目立ちたくないからなんてなんてくだらない。寧ろ誇るべきなのだ。彼という人と知り合えたことを。

    グラウンドでトレーニングをしているチアサークルの一人が、休憩中のウィリアムの側に駆け寄っていく。
    キラキラと太陽の光に輝くブロンドと、陽に当たり健康的な肌、柔らかな体つきと明るい微笑みが可愛らしい女生徒は、ウィリアムにタオルを手渡してなにか楽しげに話している。
    胸が酷く痛んだ。あまりにも美しく縁取られた世界だったから。
    往年のロマンス小説の挿絵のようにピッタリと嵌ったのその光景に痛んだ胸の正体に僕は俯くしかなかった。美しいヒロインとヒーローを眺めて俯く脇役が抱える感情は一つ、嫉妬と恋心だ。僕は自分の変化の根源を知り、納得と共に絶望した。

    「……降りよう」

    メールで必要資料の一覧と、取り組み方だけまとめて送って、それから謝罪して、レポートの手伝いから降りよう。Mr.ジャックには僕から伝えると告げてそれから……

    「イソップ!」
    「!」

    突如掛けられた声に弾かれたように顔をあげる。いつの間にかウィリアムがフェンス越しに僕の近くへとやって来ていた。
    目立つから、学校内ではあれほど話かけないでと言ったのに。そんな言葉が出かかって、またやってしまうと唇を噛んだ。

    ウィリアム越しに彼のチームメイトやチアサークルの子達の視線が刺さる。
    何でお前が?そう言われているようで、ぞっと血の気が引いた。すぐその場から逃げたしたくて、息が浅い。どうしようと後退れば、ウィリアムの優しい声がもう一度僕の名を呼んだ。

    「ごめん、話しかけて」
    「ぁ、う、ぅぅん」
    「練習見てくれてんのかと思ったら、嬉しくなって」

    あぁ、この人は優しい。こんなどうしようもない僕のために自分がルールを破ったことを謝って、それでいて素直に気持ちを伝えてくれる。
    暖かくて、格好よくて、僕なんかでは釣り合わない人。

    「ウィリアム、レポートのまとめなんだけど後はもう僕がいなくてもできると思う」
    「……え?」
    「必要資料のリストだけ送るから、その、もう時間を作る必要はない、から」
    「ま、待ってくれ。それは、嫌だ」
    「え?」

    ウィリアムの言葉に困惑する。一人ではやりたくないのだろうか。
    だとしても、この人は元々できる人だから僕のサポートがなくても残りもまとめ切ることができるはずなのに、なんでだろうと彼の言葉の意味を考えるが分からない。
    僕は困り果てて、小さく溜息を吐いた。

    ウィリアムが、初めて会った時のように怒られた犬のような顔で僕を見下ろす。

    「ルール破ったから、もう俺との時間は作りたくない?それとも、ごはん誘ったから?」
    「……違うよ」

    ならどうして?そう聞いてくる彼に僕は苦笑する。この実直な人にはきっとストレートに理由を伝えなければ、理解も納得もしてくれないだろう。一生胸に秘めておくつもりだったが、これ以上、彼という存在に焦がれてしまう前に自ら断頭台に上がるべきなのだ。

    「ウィリアム・エリス」
    「は、はい」
    「昨日は酷い言い方をしてごめんなさい」
    「え、あ、大丈夫。気にしてない!お前の性格を考えず、俺が無神経だったから」

    ああ、この人は本当に優しい。僕は傷ついて尚、僕を慮る彼の心の温かさに泣きたくなった。本当にこの人は、最初からずっと陰りのない太陽だ。
    それを気にしてなのか?と大きな体をオロオロとさせる姿に、僕の卑屈な心が少しだけなりをひそめる。一歩だけ近づいて、フェンスに絡む太い指にそっと自分の指を触れさせた。

    「ウィリアム・エリス」
    「な、なんだ?」
    「……曇天が太陽に恋をしたら、その輝きをダメにする」
    「何?天気の話?」
    「ううん、恋の話だよ」

    僕の言葉にウィリアムの目が見開かれる。断頭台に上がるとはいったが、どう伝えたらいいのか分からなくて、酷く遠まわしな言い方になった。
    察しの良い彼には、そんな言葉でも伝わったようで動揺したのか暫く視線を彷徨わせていた。

    「だから君とこれ以上いるのは良くないと思うんだ。僕のためにも」
    「何で」
    「分るでしょう?君と僕とでは関わる世界が違い過ぎる。雲の向こうにある光を望む人はいても、曇り空を望む人はいないから」
    「確かに、太陽の光は温かく心地いい。だけど雨が降らなきゃ花は咲かないし、雪が降れば心は浮き立つ。ぎらついた太陽ばかりでは、人はその熱気に干からびる。雲がかかって、穏やかな心地になる人だっている。俺は、確かにフィールドでみる抜けるような青空が好きだ。けど!!!燃えるように熱い体を、冷ましてくれる日の陰りに癒される」

    まさかの熱弁にイソップは言葉を割り入れることもできないまま、ウィリアムの熱気に気圧された。触れいた手はいつのまにかウィリアムの指が絡みつき、フェンスに縫い留められた。

    「イソップ・カール」
    「ぇ、あ、は、はい」
    「逃げるなっ」
    「……っ」

    真っ直ぐな眼差しは、僕には眩しすぎるのに僕はウィリアムから目を逸らすことが出来なかった。どうしたらいいのか、でも僕にはこれ以上分からない。ただ、じわじわと熱気に中てられるように肌が火照っていく。

    「逃げ、ないけど。僕、これ以上どうしたらいいのか、分からない」
    「ぇ?」
    「だって、初めてだから。こんな気持ち。そんなに、見つめられたら、困る」
    「……か、わっ、えー???」
    「ゆ、指、離して。ちょっと、想定してないことすぎて、熱くて、のぼせそう」

    眼の前が滲む。熱中症になるときってこんな感覚なのかもしれない。
    休憩の終わりを告げるホイッスルが、まるで助け船のように鳴り響く。
    いつも僕と対峙している時は穏やかで、少し幼さすら感じる彼があからさまに舌を打つ。僕はそんな雄々しい姿にビックリとしてしまって、ウィリアムをじっと見つめた。

    「イソップ・カール!」
    「は、はい」
    「ほんとに、逃げない?」
    「う、うん」
    「なら、もうちょっとこっち来て、フェンスもっとがっしり掴んで?」

    言われるがまま掌をつけるようにフェンスを掴めば、ニヤリと笑ったウィリアムが僕の手をぎゅっと握り体をかがめ、フェンスを掴んだことで剥き出しになった僕の手首に、フェンス越しに唇を触れさせた。
    冷たい金属と、反比例するジュッと焼ける熱に僕は息を飲み呆然と彼の行いを見るしか出来なかった。

    「それの意味、知らなきゃ調べてくれよ。次の予定日までに、ちゃんと理解しておいてくれ。途中で降りるなんて、駄目だぞ」

    それだけ言うと、彼はチームメイトの中に戻っていく。
    僕は、突然の熱と濡れた感触にそれどころではなく、ぐらぐらと回る視界のままどうやって家の帰ったのか、それすらも覚えていなかった。

    帰宅して、明日の事を考えて彼の言葉を思い出し、じわりと熱を帯びる手首をする。
    ネットというものは便利で、僕は彼の行動を検索したことを酷く後悔した。


    「僕の方が先に好きになったの筈なのに、こんなのはズルい」

    ストレートに示された、言葉よりも分かりやすいアクションに僕は毛布にくるまって、明日どんな顔して図書館に行けばいいんだと、また眠れないーーけど酷く幸福に満たされた夜を過ごすことになるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖🙏💯😍👍💒💖💖💖☺👏😍💖👏🌞💖😭🙏💖👏☺💕💕💕💕💖💕💕❤💞👍🙏💯💕💘💞💗❤😍💖🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works