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    kureko1703

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    kureko1703

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    長くなりそうなので分けます。新十傑ネタ。途中まで

    春の祝福(前)猛吹雪の中、ザクザクと雪道を進む。幼い頃から家族同然に育った黒羊に先頭を歩いてもらい、その轍をフラフラになりながら歩く。吹き上げる雪のせいで見えるのは前方の羊のみで、どれほど進んだのか、そもそも進めているのかすらもう分からない。けれど、もう森に戻る訳にはいかなかった。

    「〜ンンン…」

    「はぁ…ぁ…だい…じょうぶ…進もう。出来るだけ…遠くに…。誰も…何も…いないような…遠くに…」

    「ンェェェ…」

    気遣うような視線を見なかった事にする。「進んで…」と言えば、「…メェェ」とひと鳴きして再び進み始めた。

    「(ごめんね…辛いよね…僕が弱いから…ごめんね…)」

    矢が深く刺さったまま、すっかり感覚を失った背中には雪が積もっている。いくら"死なない"とは言え、苦しいものは苦しい。目の前の黒羊は、自分以上の苦痛を味わっている筈なのに、主人を気遣い、ひたすら主人の為に前を歩く。けれど、いくら加護があっても所詮はか弱い人間。神獣に比べれば何倍も劣っているのも事実だった。

    ドサッ

    「!ンェェッ…メェェエエッ…」

    羊の鳴き声が虚しく響く中、主人は雪の中に倒れ込んだ。その声に答えなければと思うものの、限界を訴える身体は、最早ピクリとも動かない。徐々に降りてくる瞼に、主人は抗う術はなかった。

    「…ごめ…んね…」

    その一言だけをようやく絞り出した。暗くなっていく視界の中、懐かしい記憶が走馬灯のように過ぎる。まだまだ幼い頃。別れ際に2人で交した約束。もう二度と叶わない…オママゴトのような、あったかい約束事。

    「(ぼくは…"君"みたいに…できなかっ…)」

    「ンムグッ…ンッンッンェェェ…」

    例え、主人が動かなくなっても羊は止まらなかった。服を引っ張り、懸命に前へと進む。指標も何も無い中、目的も無く一人と一頭が進んだ歪な轍は、吹き荒れる雪によって瞬く間に消されて行った。





    ……



    「爆豪…爆豪!!起きてるか!?急いで来てくれ!!」

    「…ァ??」

    いつもは静かな集落の早朝。爆豪は、その慌ただしい声によって叩き起された。安眠を妨害されたためか乱暴にテントを開ける。すると、ここ数日しばらく続いていた吹雪はようやく落ち着いたのか、一変してカラッとした良い空模様だ。

    「ウゥウウッ」

    「…来い」

    ゆったりと伸びをする狼にそう告げれば、尾を振りながら嬉しそうにそばに寄ってくる。ヨシヨシと軽く撫でれば随分とご機嫌な様子だが、ヒクヒクと鼻を鳴らしていた。警戒している様子はないから敵襲では無いのだろうが、妙な感じだ。

    移民族である爆豪達はその場には留まらない。季節ごとにあちらこちらへと旅をし、流れ移ろう民族だ。それ故に賊に狙われることも多いが、こちらも戦闘部族。普段は爆豪か居なくても余程のことが無い限りは対処できる。だからこそ、ここまで騒ぎが大きくなる事は稀だった。

    「…何があった?」

    「あ、爆豪。おっせぇよ俺達じゃどう対処したらいいか分かんねぇのに」

    「だから詳細を言えっつってんだろアホ面ァ!!その頭に脳みそ詰まってんのかボケ!!!」

    「う、うぇぇい…って違う!!"神獣"だ!!"神獣"が暴れてんだよ!!」

    「ア???」

    「グァッ!!!」

    爆豪が上鳴と話していると、タイミングよく切島が吹っ飛ばされてきた。ゴシャァッと音がして雪の上に落ちる。

    「あ、爆豪!!おっせぇよお前!ブブッ!!俺と玄じゃあれ押えらんねぇからお前が喋ってくれ!」

    喋ってる途中で切島の頭上に巨大な亀が降ってきた。仰向けにひっくり返ったせいか、もそもそと切島の背中の上で起き上がろうとする亀と、重すぎて起き上がれない切島。こう見えて、そこそこ位の高い神獣使いである切島が押し負けるのは稀だ。

    「今時"野良"じゃねぇだろ。"使い手"の方は?」

    「足元に転がってるけど意識がねぇ!神獣に邪気はねぇからまだ生きてるんだろうけどよ、あのレベルの神獣は俺じゃ会話もままならねぇよ」

    「…チッ…テメェらどきやがれ!!!疎かになった周囲の警戒、それと集落内の警備の強化!!オレが命令するまで女子供はテントの中から出てくんな!!分かったらさっさと散れ!!」

    人が1箇所に集中して警備が疎かになっている間に、賊に入られて内側から攻め落とされると言う話もある。聞きかじった程度でも、警戒して損は無いと、爆豪は人払いがてら命令を出すと、人集りは瞬く間に持ち場に戻って行った。

    その流れに逆らうように住民をおしのけながら前に出ると、そこには確かに"神獣"がいた。雪を身に纏い、バチバチと緑色の閃光を放つ黒い羊だった。それだけで、爆豪は確かにこの神獣は切島には荷が重いと言うことを察した。

    神獣はただでさえ、顕現させるのが難しい存在だ。自然発生する者、人に呼び起こされる者、どちらにしても使役するのは相性や才能がものを言うため、"使い手"になれる人間はかなり少ない。その中でも、個性が使える神獣はさらに希少であり、その使い手はもっと少ない。ただでさえ、神獣の力は凄まじいものだが、個性を使える神獣の力は桁違いだと言ってもいい。

    切島と上鳴、そして爆豪を残して蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていった集落の人間。神獣は姿勢を低くし、唸り声を上げながら前足を何度も蹴りあげて威嚇している。知性があるにしても野性的な彼らの、優劣ことカーストを決める方法はシンプルだ。

    「俺は爆豪勝己。神獣使いだ。身内が気に触ることをしたのなら相応の詫びはしてやる。けどな、こちらからテメェらに危害を加えるつもりも無ければ、関わるつもりもねぇ。オレらに用がねぇならとっとと立ち去りやがれ」

    「グァァァァァァアアアアッ!!!!」

    「ッ!!!!」

    爆豪の相棒の千が大きく咆哮をあげれば、怯んだのかそれとも意図が通じたのか、目の前の神獣は威嚇をやめた。けれど、個性は身にまとったままであり、ギラギラとした目つきのままこちらを睨みつけていた。

    数秒か…はたまた数分か…しばらく膠着状態のまま睨み合っていたが、黒い羊は、本当に何もしてこないと判断したのか、足元に転がる使い手の腕を襟元で引っ張りはじめた。

    そこでふと、感じた違和感を爆豪は口にした。

    「…なぁお前。なんでソイツにそこまでする?使い手の魔力を使わずにお前らが力を酷使すればすぐにガタがくんだろ。現にオレの千に対抗する力だってもう残ってねぇんだろ」

    「…ブルルルルッフ…」

    爆豪は、神獣が使い手を引っ張ってきたであろう歪な形をした長い長い轍を見て尋ねた。その跡の長さから、随分と長い時間この神獣が使い手を引っ張ってきたことは誰が見ても明らかだ。

    ただでさえ神獣は消費するエネルギーが多い。だから契約した神獣に対して、使い手は必要に応じ魔力を与えたりするのだ。だが、今神獣がくわえてる使い手は、歪な轍の長さを見ても長い時間目を覚ましてはいないのだろう。その身体を小さくしたり、眠るなりして消費を抑えればいいものを、この神獣は自らの魔力を削って長い長い道のりをここまで歩いてきた。

    雪が積もり、生きている方が不思議なくらい瀕死の使い手を連れて。

    その言葉に神獣は爆豪を一瞥しただけで、そのまま使い手を引っ張って行こうとした。けれど、2、3歩進んだ所でタタラを踏み、その場に倒れ込んだ。「ゴォ…グフッ…」と荒い息を吐き出し、立ち上がろうとしては足を滑らせ起き上がる事にすら失敗していた。それでも何度も使い手を引っ張ろうとする。

    もう限界なのだろう。

    「なぁ…爆豪…どうにかなんねぇか?」

    同じ神獣使いとして、健気な神獣のその様子に気の毒に思った切島が思わず爆豪へと問いかけた。後ろを見れば、上鳴もその痛ましい様子に顔を青くして耐えるようにじっと見ている。

    「…はぁ…クソめんどくせぇ」

    ザクザクと雪を踏み締めて神獣に近寄る。すぐに神獣は「ブルルルルッ」と再び唸り声を上げて睨むが、最早個性を使う余力もなく、ただ睨むだけだった。

    「来い。ソイツが治るまではここに置いといてやる。さっき言った通り、テメェらが暴れなければ危害を加える気もねぇ。それに、テメェみてぇな力の強ぇ神獣は弱ってようが居るだけで魔獣への抑止力になる。こっちにも利点はあるんだ。悪くねぇ条件だろ?」

    「……」

    神獣は爆豪を睨んだまま目を逸らそうとしない。まるで信用できないとでも言っているかのようだった。

    「テメェらの事情なんざ知らねぇ。だが、神獣使いが神獣に対して約束を無碍にすりゃどれだけデカい代償を払う事になるかアンタも分かんだろ。わざわざ素性の知れねぇテメェらの為じゃねぇ。感謝すんならそこのアホ面とクソ髪に感謝しろ」

    神獣の目はそれでもしばらくは、ジィっと爆豪を見つめたままだった。そのまま、赤い目がそらされることなく真っ直ぐに見つめ合っていると、神獣は目を閉じてその場に伏せた。シュゥゥウウウっと音を立てながら蒸気のようなものが身体から立ち、晴れた時には神獣は小さな子羊に姿を変えていた。少なくとも、爆豪の言葉に嘘偽りはないと判断したようだった。

    「クソ髪アホ面ァ!!さっさと運んで手当してやれ!!」

    「あ、おう!」

    「おっけー!!」

    子羊は抱えられた時ギロリと切島を睨んだがそれだけだった。一方で使い手は身動ぎひとつしない。上鳴に抱えられてもぐったりとしたままだ。

    「お、おい爆豪。これ…」

    「あ?」

    抱えようとした拍子に背中の雪が落ちた。そこには肩から背中にかけて深深と三本の矢が刺さっていた。雪に血の跡はないことからも傷口周辺は乾いているのだろうが、纏っていた黒服もよく見ればべっとりと血が着いた跡があった。下手に抜くよりも刺したままの方が出血は確かに抑えられるが、それでも無理に動いて相当な量を出血したに違いない。吹雪の中移動してきたことを考えれば、本当に生きているのが不思議な程の大怪我だ。

    「…なんでコレ生きてんだ」

    「いや、えっ、オレに聞かれても…とりあえずリカバリーガール呼んでくるわ。爆豪はソイツ頼むっ」

    「あっ、テメェ!!!」

    言うが早いが上鳴はすぐにその場から走り去っていった。「チッ」とまた1つ舌打ちをしてその使い手を抱き上げた。その時、パチッと内側を爆ぜるような感覚が駆け抜け、思わず、使い手の顔を凝視する。帽子が顔を隠していたためその顔は見えなかったが、爆豪にはその現象に心当たりがあった。

    「…切島、ソイツも俺のテントに運べ。んで、周囲の警戒を限界レベルまで引き上げろ」

    「あ?おう、でも何でだよ」

    「…ようやっと見つけたんだわ…オレの"探しもん"」

    「!!」

    爆豪が吐き捨てると、ズンズンと集落の中を歩いていく。女子供が避難している他所のテントの窓からは物珍しそうな目が飛んでいたが、そんな目を一切合切無視して爆豪はまっすぐ自分のテントまで進む。切島に抱き抱えられた神獣は、まるで約束を違えるなと言わんばかりに後ろから爆豪を見つめ、大人しくしていた…。




    ……




    身体がだるい…背中が痛い…息が苦しい…

    ぬるま湯に浸かっているかの様なぼんやりとした意識の中で、ジワジワと訴えかけてきた感覚は苦痛だった。回らない頭でも、少年は何となく無茶をした"ぶり返し"が来たのだということを悟った。何度も経験した感覚だが、ここ数年で起こった物よりもかなり酷い症状に感じた。

    あの子は…進んでくれたんだ…なら僕も…止まってはいられない…

    身体に力を入れる。…上手く力が入らない。だから個性を使った。そうすればあっという間にここから離れられるだろうと思ったから。

    バキバキッゴトッ

    と、音を立てて少年は段差から落ちた。ゆっくりと起き上がり、ぼんやりとした頭で周りを見渡す。見知らぬ風景だった。人の居ない場所を目指したつもりが人のいる場所に着いたらしい。…あの子も居ない。どこへ行ったのだろう?

    「───!!」

    「────ッ!!──────!」

    声がする。ぼんやりとそちらを見やると、人が居た。なにか叫んでるけど、耳がなんだか遠い。よく見えない。あの子がいない。

    「…どこ…?」

    「───。──────」

    ズンズンと1人がこちらに向かってくる。スンスンと匂いを嗅ごうとしても、今はこちらもほとんど機能しなかった。少年の焦点がようやく合ってくると、その男の人は神獣使いのようだった。側には見ただけでも、かなり位の高い神獣が居た。

    「ンェェェ」

    「ぁ…」

    その腕に抱かれて小さくなったあの子が居た。元気そうだ。気が緩んだせいで個性が解けた。立っていられなくなり、その場にへたり込む。

    「ンェェェ!!ンッンェェエエエエ!!」

    トコトコと、足音を鳴らしながらあの子は擦り寄ってきた。優しく触れば慣れ親しんだ温かさが広がる。

    「…ごめんね…」

    「ンンンッ」

    抱き抱えるとぺろぺろと舐められる。幼い頃、モコモコの身体が優しく擦り寄ってくるのが嬉しくて、周りが反対する中、少年はこの子を神獣に"選んだ"。

    不吉だ、無価値だ、木偶の坊だと言われても、僕はこの子が良かった。

    へたりこんだまま、少年が顔をあげればさっきの神獣使いが立っていた。逃げなければ…とは思うが、ボロボロの少年に、この神獣使いから逃げられる程の体力は残されていなかった。こんな"厄介者"をただ生かしただけだなんて考えられない。自身の身体の値打ちがどれだけするかも分からないが、生かした以上は売るつもりなのだろう。

    そうすれば、残された"家族"であるこの子とはもう二度と会えない。

    この後どうなるかは分からないけれど、そう考えれば、たとえ最後だとしても、この子に会えたのが嬉しかった。

    「…あり…が…と…」

    精一杯そう呟く中、少年の意識は再び泥沼に飲まれて行った…。





    ……




    爆豪はベットの上に怪我人を寝かせ、切島は爆豪の相棒である千が普段使っている小さなベットの上に羊を乗せた。慣れた手つきで少年の身ぐるみを剥いでいく。矢が刺さった部分はどうにも出来ないのでハサミで周辺の布を最低限切り取った。そうして顕になった少年の姿に息を飲む。

    想像に反して少年の身体付きはしっかりとしていた。けれど、その背中は乾いた血がベッタリと着いており、その他にも切り傷や細かい傷が痛々しいほどに残っていた。血液を大量に失った身体は死人のように青白い。

    そして何よりも目を引くのは、帽子をむしり取った時に現れた、その頭部の角だった。左右の耳の上に渦をまくような角、そしてその上には真っ直ぐな角が一対生えていた。

    切島は顔を青くする。恐らく、切島はその見た目から、この使い手に何があったのかを察したのだ。自分と同じ位の歳の少年に起こった悲劇を。

    「…ハッ、食う側が食われかけてりゃ世話ねぇだろ」

    爆豪はそう吐き捨てたが、その言葉とは裏腹に、自嘲と不安が入り交じったかのような顔をしていた。簡易的にその身体を拭いていれば、すぐにテントの外からザクザクと言う足音が聞こえてきて、すぐにテントの入口が開かれた。

    「容態はどうだい?」

    「…生きとる。つーか死なねぇ」

    「それは容態とは言わないんだよ。…いや、まさか、"神付き"の子かい?」

    上鳴と途中で合流したのか瀬呂の2人に連れてこられたリカバリーガールはそう問いかけた。爆豪がすぐに頷いたことで、その表情はより険しいものになった。

    …察せられたのは、神獣使いか、知識がある者だけだっただろう。

    「なぁ、"神付き"ってなんだ?」

    「オレらも聞いていいこと?」

    「…その辺の事情は後さね、まずはこの子の手当だよ」

    恐る恐る上鳴と瀬呂が聞いてきたのをリカバリーガールが一喝する。それを聞いて慌てて3人が動き出した。本来ならば、怪我人は、リカバリーガール専属の人間が付き添いや手伝いをするのだが、今回の相手はかなり位の高い神獣の使い手だ。事が事なので、万が一に備えて集落の中でも実力のある爆豪一派が対応しているのだ。

    矢を抜くために少年の口にあて布をする。万が一暴れた時、過って舌を噛み切れないようにし、4人がかりで手足を抑えるのを、小さな神獣は懐疑的な目で見ていた。

    「行くよ。アンタ達も気張るんだよ」

    爆豪達4人が頷くのを見てリカバリーガールがそのまま矢を引き抜く。しかし、暴れるかと思われた少年は、それでも身動ぎひとつしなかった。ズルズルと引き抜かれた矢の後を追うように血がゴプゴプとゆっくり流れ出す。そこを手早く消毒と止血を施し、薬を塗る。残りの矢の処理も同じように施し、所々傷ついた箇所にも包帯を巻いていく。全ての処置が完了しても少年は終ぞ動くことは無くぐったりとしていた。

    「…生きて…るんだよな?」

    「死なねぇからな」

    「なぁ、さっきから言うそれ"神付き"って言うのが関係してんノ?」

    瀬呂がそう聞くと、爆豪は面倒くさそうに頭をかいた。まぁ、匿った以上、いずれ話さなければならないことでもある。切島をジロリと見て話せと促すと、睨まれた方は胸糞悪いからか、ため息をひとつついて話し出した。

    「"神付き"っつーのは、簡単に言えば神獣に気に入られた人間だ。それも数多くの高位の神獣に。どうやって産まれたのか、いつ産まれたのかも殆ど文献には残ってねぇけど、その身体は不死身だっつぅ話で、角が生えているらしい。でも、力が強力すぎるから寿命は短いとか…まぁよく分かんねぇことの方が多いって言われてる」

    「おー、確かに角が生えてるもんな…」

    「でも、それがなんでコイツのこんな状態に関係あるのよ?神獣に愛されてんなら普通尊敬されるもんじゃね??」

    上鳴は純粋に疑問に思ったのだろう。それも、当然だ。彼の周りにいる神獣使いは皆尊敬されるような人間ばかりだったし、この村の結束は特に強いものだったから尚更だ。神付きに関してあまり理解してないが、仮に自分の身近な人間が神付きになっても、祝福したと思う。

    自分ならと考えてのその質問は、現状に関しては的外れだったのだが。

    「普通、強すぎる力っていうのは畏怖されるんだよ。ましてや神付きは爆豪の千みたいな上位の神獣を何体も操り、その身は神獣の加護で魔力が尽きなければ不死身だという話さね。そんなモノが非力な自分たちに牙を剥いた時どうなる?ただでさえ人は弱い生き物さね。自分と違うものは排除したがるのが通りさ。もしくは、人攫いにでもあったか。"神付き"なんて珍しい人間なら闇市で高値で売れるだろうさ。噂程度であるけれど、神付きのその血肉を食えば寿命が伸び、骨は腕の立つ鍛冶師が作ったどんな武器の性能をも優に超える装備になり、その角で作った笛は才が無くても神獣を使役出来るほどの力を持つと言う話がある。

    まぁ、実際にそんなことをすれば、多くの恨みを買って祝福が呪いに転じるばかりだと言うのに…」

    リカバリーガールの一言一言に段々と顔が青ざめていく2人。神獣使いでは無い2人には、少年はただの角の生えた人でしかない。ただそれだけの理由でこんな目に遭わされたのかと憤りさえ感じる。どちらの理由だったにしても、これ以上傷ついて欲しくないと強く思った。

    「爆豪はコイツの事どうすんの?」

    そう聞いてくる上鳴の目は、遠回しに突き放したりしねぇよな??という圧が滲んでいる。爆豪がその目に不快感を覚えたのは、血も涙もない事をすると思われたからだ。心外とばかりに吐き捨てる。

    「…さっき言った通りだわ。ソイツが神付きだろうが関係ない。オレはオレの好きにする。…オイクソ羊、その汚ぇ毛洗い殺してやるから行くぞ」

    「…ンエッ?!ェェエエエエッ!!!」

    まさか"クソ羊"が自分の事とは思わなかったらしい。小脇に抱えられた所で今まで大人しくしていたのが嘘のように鳴き出す。小さくなった神獣は暴れたが、体力を消耗している上に小脇に挟まれては弱々しい蹴りをお見舞することしか出来ず、そのままテントから連れ去られて行った。

    「私もとりあえず自分のテントに戻りたいね。持ってきた薬と包帯だけじゃ心許ない」

    「お、じゃあ俺と上鳴でまた送ってくケド?」

    「こっちは任せろ、とりあえず爆豪戻ってくるまで見張っとくから」

    「おー、じゃあまた後でな」

    そう言って5人はそこで解散した。切島は、瀬呂達がこの後何するかを話しているのを聞きながら、テントの外で相棒である玄の甲羅に腰をかけた。昨日とはうってかわり、暖かい日差しにひとつ、呑気に欠伸をした。

    この後、神付きのその恐るべき生命力を目の当たりにすることになるとも知らずに。





    「…んぉ…ぁ、いけねぇ寝てた」

    今日は天気も良く、外が暖かいせいか切島はついうたた寝をしてしまっていた。日の傾き加減からほんの数分の時間も経たない程度だと予想を立てたが、警備の厳戒態勢がすぐにとかれたこともあり、つい気が緩んだのだろう。そう結論づけて切島は背筋を伸ばした。

    「お、爆豪おかえり〜随分時間掛かったな」

    「無駄にモコモコしやがるコイツのせいだわ!!」

    「おー!!すげぇフワフワになったな!!さっきの時点でも十分モコモコだったけど」

    「ついでだから少し切って整えた」

    「へぇ!!さすが爆豪!!神獣もさっきより随分イケてるな!!」

    切島が親指を立てて笑うと、小脇に抱えられて不満げだった神獣が、満更でもないかのように「ンエー」と声を上げた。

    「中の様子は?」

    「あーわり、ついうたた寝しちまって…見てねぇんだわ」

    「あ?テメェ…」

    「ほんっと悪ぃ!!気がついたら…って感じだったんだわ…でもあの怪我ならいくら神付きでもそう簡単には動けねぇだr…!?」

    バギッゴドッゴッ

    っと中から何かが折れたような破壊音が鳴り響く。2人で慌てて中に入ると、ゆらりと包帯をした男がバチバチと閃光を弾けさせ立ち上がっていた。男が寝かされていたであろうベットが木っ端微塵になっており、立っている場所もミシミシと音が鳴っている。

    「おいアンタ大丈夫か!!」

    「待て切島ッ!!動くんじゃねぇ!」

    庇うようにして爆豪は切島を静止した。そのまま男を睨みつければゆったりとした動きでこちらを見る。うねった角は先程よりも暗く鈍く光り、目の瞳孔はまるで羊のように横に伸びていた。けれど、その草食獣のような姿には似つかわしくない犬歯を覗かせて男は口を開く。

    『…どこ?』

    音にはならずとも、その口の動きで何を探しているか分かった。同時に爆豪の抱えた羊がモゾモゾと動く。

    「俺が行く。テメェらはこっから動くな」

    千がピタリと寄り添ってきた。下手に刺激しないようにと言う意図を組んでいるのか、爆豪よりも前に出ることは無かったけれど、その傍から離れようとは絶対にしない。羊を抱えたまま、ゆっくりと男に近寄ると、羊が呼びかけるように鳴いた。

    「ンェェェ」

    『…ぁ』

    その声を聞いた瞬間、男の個性がバチッと音を立てて解けた。目の瞳孔や牙も元の人に戻り、角の鈍いひかりも収まっていく。そのまま、男はストンっと、その場にへたりこんだ。

    「ンェェェ!!ンッンェェエエエエ!!」

    爆豪が羊を下ろしてやると、鳴きながら男の元へと走っていく。男は擦り寄ってきた羊を優しく撫でては愛おしそうに見ていた。

    「…ごめんね…」

    「ンンンッ」

    男が、羊を抱き抱えるとそう掠れた声を零した。羊は相変わらずスリスリと擦り寄っては、鳴きながら男の顔を嬉しそうにぺろぺろと舐める。

    落ち着いたのを確認して、爆豪もゆっくりと男に近づいた。すぐにその存在に気がついたのか、男は爆豪を見上げる。その瞳はゆらゆらと揺れ、半分ほど落ちた瞼からも、付け焼き刃のようにしか回復出来なかった男の体力の限界を示していた。

    「…あり…が…と…」

    男は諦めたかのように笑って、そのまま気絶した。その礼は何に対するものなのか。少なくとも、助けてくれた事に対してという事ではないのは分かった。

    「…チッ、勝手に諦めんなクソが。切島ァ!!!」

    「うぉ?!」

    「工房から廃材の魔石をありったけ袋に詰めてもらってこい!!それとアホ面としょうゆ顔に替えのベットと布団その他一式持ってこさせろ!!」

    「なんかわかんねぇけどおう!!」

    バタバタと、切島がテントを出ていく。ガヤガヤと、外は騒がしいが閉じられたテントの入口をわざわざ開けて見てやろうなんて物好きは居ない。

    爆豪は、ボロボロになった己のベットだったものを見る。簡易的な木で組まれた骨組みにマットと布団を敷いていたそれは、今は見る影もない。どうにかまだ使えないかと見聞したが、"朽ちた"骨組みが刺さったり、布や中のクッションがどうしようも無いほど"劣化"していたために断念した。全て新しく変えなければならない。

    「何をどうやったらたかが数年でンな面倒な身体になんだよ」

    「クゥウーン…」

    爆豪が、気絶した男とそれにピッタリとくっついて離れない羊を見ながら独り言る。心配そうな相棒の声だけが響いた。




    神獣
    通常の獣と違い、森や海等の清らかな場所を好むため、存在自体が希少。その力の強さから、神獣と心を通わせることの出来た人間のいる村は栄えるとも言われる。強さによって位(ランク)がある。個性を使える神獣は稀である。気に入った人間には自身の声を聞かせるという。
    力の弱い神獣ほど、契約後は主人の魔力に依存する。代わりに、主人の怪我を身代わりしたり、自分の個性を主人も使えるようにしたりする事もある。使い手が解約をせずに死んだ時は、相手のいない契約に蝕まれ堕神に堕ちる。

    神獣使い
    神獣に認められた人間。契約した神獣と近しい位の神獣であれば、対話する事もできる。そもそも神獣に認めてもらえること自体が稀。
    使い手が神獣との約束事を違えた場合、相方との繋がりが脆くなっていく。その為、命が関わるような重い約束事を違えた場合、相方の神獣に食い殺されたり、村ごと滅ぼされたりと怒りを買う事もある。

    神付き
    ありとあらゆる神獣に好かれる存在。どんな神獣の言葉も聞くことが出来る。何がそんなに神獣を引きつけるのかは分かっていない。頭に角が生えていることが多い。加護を与えた神獣か、使役する神獣に魔力が残っている限り死ぬことは無い。

    魔石
    魔力を多量に含んだ石。主に神獣使いや冒険者が持つもの。加工次第で様々な用途に使える。加工されたものほど価値が高い。

    契約後の神獣
    契約する際、神獣使いは自分との繋がりを明確にするため、神獣へ名付けを行う。その名前が自分以外にバレた場合、下手をすれば自分の神獣が悪用される場合もあるので基本は愛称で呼ぶか、名前の一部を呼ぶ事になっている。




    ……




    少年の目が覚めたのは翌日の朝だった。うつ伏せでしか寝れない少年を気遣ってか、フワフワの柔らかい枕の上でしばしばと瞬きをする。 そこで起き上がろうとした所で右手からジャラジャラと音が鳴る。

    「…んぅ…なに…へ…?」

    音の先を見れば右手が手錠が鎖で繋がれていた。その先を辿っていけば、ベッドの上で、誰かが頭まで布団をすっぽり被って寝ているようだった。顔は見えないが、砂色のつんつんとした髪が見えていた。鎖の先はその布団の中に吸い込まれるように消えていた。

    「ンエェ」

    「…!ラス??イ"ッ…っー」

    トコトコ小さな音を立てて羊が近づいてきた。咄嗟に起き上がろうとして背中に走った激痛のため、再び布団に沈み込んだ。

    「ンッンッンッ」

    「あ〜はは、ごめん大丈夫。ありがと…う"!?」

    羊が咎めるようにぺろぺろと舐めるものだから、少年は擽ったそうに笑った。その時、鎖がジャラジャラと鳴ってしまい、慌ててその繋がる先を見た時だ。いつの間に布団から出たのか赤い目と合った。不機嫌と不満と嫌悪を固めたかのような鋭い目つきに、思わず怖気付く。

    「…テメェ起きたんか」

    「あっ…あの…えぇと…」

    少年が口ごもっていると、布団の方から「チッ」と舌打ちが飛んできた。やがてもぞもぞと動き出すとジャラっと音を立てた鎖の存在を思い出したようだった。

    「あ〜、待ってろ。今外す」

    そう言うと、枕の下をまさぐって鍵を取りだした。そんな所に仕舞ってていいのかと言う少年の疑問を他所に、ガチャガチャと音を立てながら手錠を取り外した。…自分の分だけ。

    「チッ、くそめんどくせぇ…すぅ…アホ面ァア!!!!」

    キーーーンッ!!!と耳鳴りする程の怒鳴り声が鳴る。すると、テントの外からドタバタと音がして人懐っこい顔をした少年が現れた。

    「なになに何事!?あ、アンタ起きたのか!!」

    「バアさんのとこ行ってくっからテメェこいつ見張ってろ」

    「えっ、オレでいいの??」

    「テメェが適任だ。見回りはその後で変わってやる」

    「…はいはい、了解」

    それだけ言うと、ツンツン頭の少年は外套だけ羽織り、外へ出て行ってしまった。入れ替わるように黄色い髪の少年がテントに入ってくる。

    「あ、アイツ鍵外さないで行ったのかよ!もー、悪ぃなすぐ外す!」

    「あ、…ありがとう…ございます」

    そう言うと、慣れた手つきで枕の下からもう一個の鍵を取り出した。2度目のそこに入れてていいのか、そもそもそれを僕にみせていいのか?と言う少年の視線に、アホ面と呼ばれた少年は苦笑いした。けれど、気にした様子もなく、ゆっくりと少年の身体を起こすと、手錠を外した。

    「…ありがとうございます」

    「いーって事よ!オレ上鳴電気ってんだ、よろしくな!」

    「…あの、なんで僕…ここに…と言うか手錠…」

    羊を抱き抱えた少年は、おずおずと尋ねた。上鳴と名乗った少年はキョトンとした後、気まずそうな顔をして頬をかく。そして、申し訳なさそうに話し出した。

    「そうだよな。悪い、まず経緯聞かないとオレらのこと信用出来ねぇよな。あー…と、まずオレらがアンタを見つけた時、行倒れてたから手当しようとしたんだよ。そしたらお前の神獣が暴れまくったから爆豪、あ、さっきの目つきの悪いやつがこの集落で族長の爆豪勝己って言うんだけど、そいつがアンタの神獣と契約?約束?事をして村に招いたんだよ」

    爆豪勝己と言う言葉に、少年の目が僅かに見開いた。けれど、少年のそんな様子に気がつくことも無く上鳴は説明を続ける。

    「んで、えーと、手錠はアンタが1回ベッドを壊したからこれ以上余計な事しないようにっつー事で見張りも兼ねて爆豪が付けたんだよ。なんかあった時オレならすぐ対処出来るからっつって。…もしかして、壊したの覚えてねぇ??」

    目を見開いて驚く少年は、黒い羊の方を見て目をパチパチとしていると、羊は「メェ…」とだけ小さく鳴いた。すると、少年の顔はみるみる青ざめていく。

    「ご、ごめんなさい…僕覚えてなくて…。助けて貰ったのに名乗りもしないで本当にごめんなさい。僕は緑谷出久、この子はラスって言います」

    「え!?いや、謝んねぇでくれよ。寧ろそんなすぐ信じてくれんの?その…"神付き"で酷い目にあったんじゃないかってうちの集落のそう言うのに詳しい人が言ってたからよ」

    「…ラスがだいたい合ってるって言っていたので…ごめんなさい。すごく迷惑をかけたみたいで…」

    上鳴はキョトンとした顔の後、緑谷にニカッと笑いかけた。元々ムードメーカーのような存在なのだろう。人懐っこさが、今の緑谷には暖かかった。

    「気にすんなって!困った時はお互い様だろ!な?敬語もムズムズするからオレにはタメで話してくれよ!オレもそうするし。って言うか、緑谷ってマジで神獣の言葉が分かんの!?」

    キラキラとした好奇心を抑えられないのか、目を輝かせてそう訪ねてくる上鳴。どうするか迷っていたが、どうせバレているのなら隠すことはないかと、話した。

    「はい…あ、えっと、うん」

    「すっげぇ!!じゃあラスにとってオレの印象ってどうよ!?やっぱりイケてる??」

    「えっと…"近寄ると毛がパチパチするから嫌"…だって」

    「だからか!?切島や瀬呂はモフらせてくれんのにオレだけすっげぇ嫌そうな顔してたの!!」

    おーいおいおいとでも言うようにショックを受ける上鳴。緑谷が狼狽えておろおろすると、どうやらラスに避けられているのは何となく分かっていたらしい。分かってはいたが、神獣にもモテないのはその体質と冬の乾燥する時期が原因とは言えショックだったようだ。夏場なら気兼ねなく触れたかもしれねぇのになぁと肩を落としていた。

    「…あ、でも"上鳴くん含めて5人は信用してる"って。上鳴くんと、さっきの爆豪さんと、えっと…しょうゆ顔?さんと、…それ本当に人物名なの?…あ、えっと、クソ髪っていう人と、あとおばあさんだって」

    「ぶはっwwwそれ爆豪がオレらに付けてるアダ名wwwww後でちゃんと紹介すっからそっちの方で覚えてやってくれwww…他のやつも気の良い奴だからさ!」

    そう話している最中に、テントの入口が開いた。そこから爆豪と、おばあさん(?)が入ってくる。

    「あ、おけぇり!今経緯についてあらかた話終わったとこだけど、あ、緑谷、この婆さんがさっき言ってたおばあさんの

    「…かっちゃん?」

    …え??」

    さっきは慌ててまともな返しが出来なかった緑谷。ちゃんと挨拶しようと相手をじっくりと様子を見ていたのだが、今度は思わず漏れ出てしまったと言うように、呆然と目を見開いて固まっていた。なにかに気がついたのか、ハッとした上鳴は慌てて爆豪を見るが、その顔つきは何も変わらず、強いて言うなら眉間のシワが先程よりも深くなっていたという事だった。

    「…ンだテメェ。初対面のクセに馴れ馴れしい」

    そう言われた緑谷は僅かに傷ついたような顔をした。けれど、すぐになんでもないかのように無理やりはにかんだ。

    「あ、ごめん…なさい。人違いだったみたいです…。あの…自己紹介もせずにすみません。僕、緑谷出久って言います…この子はラス。休ませて貰っているのに、僕ベッド壊しちゃったみたいで…ごめんなさい…」

    「…チッ」

    そう言うと、ぺこりと頭を下げた。その様子に爆豪は舌打ちだけすると、すぐに踵を返して、テントを出て行った。その様子に緑谷はオロオロとして泣きそうな顔をしていた。

    「はぁ、全く。怪我人の気を揉ませることをするんじゃ無いよほんとに。アンタも気にする事はないよ。あの子はアレが常さね」

    「そーそ、爆豪は根はいい奴なんだけど、言葉と目つきと性格はクッソ悪ぃからなww初対面のヤツにもあんな感じだから緑谷も気にする事はねぇよ」

    「そう…なんだ…」

    「さて、それじゃあさっさと包帯替えるから傷口を見せとくれ」

    「あ、はい!分かりました…えぇと…」

    「あ!そういや紹介が途中だったな。このばあさんがお前の怪我の治療してくれた人で、修善寺治与さんこと、リカバリーガールだ」

    「通称みたいなもんだからリカバリーガールと呼んどくれ」

    「えっと、それじゃあリカバリーガール、お願いします…」

    スルスルと、身体に巻いてある包帯を外し、傷口を診てもらう。すると、2人とも驚いたような顔をしていた。

    「昨日よりももう大分いいみたいだね、顔色も良いし、これならササッと治してしまおうか」

    「え?」

    チユーッ!!と、音がして気がつくと緑谷の身体に残る痛みは引いていた。その事にパチクリと目を瞬く。

    「す、すごい!リカバリーガールの個性なんですか!?」

    「ふふ、まぁそんなところだね。言っても、私の個性は治癒力を活性化させる個性だから、治癒するには相応の体力がないと何も出来ないのさ。ま、昨日の土色みたいな顔色より随分良くなったもんだね」

    「確かにちょっと疲れたかもしれない…でも、すごいです!!ありがとうございます!!」

    「したら上鳴、アンタこの子を案内したげな」

    「え?リカバリーガール送らなくていいの?」

    「どうせ数時間で爆豪がすぐに帰ってくるんだから、あたしゃここで待ってるよ」

    「おー、了解!」

    「さ、緑谷行こうぜ」と、その辺に仕舞ってあった爆豪の服をポイポイポイッと、緑谷に着せる。最後に緑谷の帽子をすっぽりと被せると、上鳴はテントの外から手招きした。緑谷はラスを抱えてテントを出る前にリカバリーガールに深深と頭を下げると、その後を追う。

    リカバリーガールは、さてさて、どうなる事やら…と、勝手に入れたお茶をすすりながら窓の外を眺めたのだった。



    ……



    「わぁ、すごいね…」

    集落の中はわいわいと活気づいていた。連れてこられた市場のような場所には、多様な種族がいるのはもちろんのこと、皆笑顔で店を切り盛りしていてとても楽しそうだった。

    「だろ!?鍛冶屋、魚屋、肉屋、八百屋、なんでもあるんだぜ!つっても、今は冬の時期だから夏場に作った干し肉や干物とか、漬物とか保存食のやり取りが多いんだけどな。まぁ、定期的に集落の外に魔物を狩りに行ったり魔石を採集しに行ったりもするんだ。元々冒険者も多いし、必要に応じてって感じだな」

    緑谷の目は生き生きとしていた。特に、薬屋の前では目をキラキラさせて店の店主と話したまま中々動かなかった。その後も何度も何度も上鳴や住民に質問を繰り返した。そんな中で上鳴は、移動する合間に緑谷が少し寂しげな表情を浮かべてることに気がついた。

    「どうした緑谷?どっか体調でも悪いんか?」

    「え…あ、ううん!なんでもないよ!それより上鳴くん!あれ!あれは何??」

    ぎゅっとラスを抱きしめながら緑谷は笑った。その後すぐに別の疑問を上鳴にぶつけ、またキラキラとした視線に戻る。足早に移動するその姿を後ろから追いかけた上鳴は、無理に聞き出すのは良くないなと反省し、せめて、少しでも楽しんでもらいたいという気持ちになった。

    「ジャーン!ここがこの集落で1番大きい店なんだ!美味いもんもいっぱいあるから好きなの注文しろよ!」

    「え、悪いよっ!!」

    「いーっていーって!それに緑谷は今1文無しだろ?旅は道連れ世は情けってな!」

    「えっ、なんで僕お金持ってないの知って…て、僕のこと助けてくれたんだから知ってるか…。でも、やっぱり悪いよ…」

    「いーのいーの!これはもう決定事項な!それに、もうすぐ待ち合わせの時間だし!」

    と、店の中へ入っていく。慌てて緑谷もビクビクしながら中に入っていくと、奥の席の方で手を振っている人が居た。上鳴もそれに気がつくと、手を振りながら向かっていくので追いかける。

    「おっすお疲れ〜」

    「あ!その子もう連れ歩いていいんかよ?だいぶ怪我酷かったろ?」

    「お疲れ〜、さっきリカバリーガールが治してったからそのまま案内してたんだよ、なぁ緑谷!」

    「あ、うん。はじめまして、緑谷出久です!この子はラスって言います」

    突然話を振られた緑谷は慌ててぺこりと頭を下げて挨拶をする。その柔らかい表情を見て、座っていた2人も安心したようだった。

    「オッス!オレは切島鋭児郎!ンでコイツが相棒の玄だ!」

    と、切島と名乗った男は頭の上の小さな亀を指さす。眠いのか、亀はずっと目を閉じていた。

    「オレは瀬呂、瀬呂範太。ヨロシク」

    二人はニカッと笑う。その人のいい笑顔に緑谷も安堵していると、上鳴が補足説明をした。

    「ちなみにそっちが"クソ髪"でそっちが"しょうゆ顔"な?アイツのネーミングセンスウケるよなw」

    「あ!僕を助けてくれたんですよね!ありがとうございます」

    「いいっていいって!漢なら困ってる人を助けるもんだろ??」

    「そうそう。あと、オレらタメでいいよ。それより緑谷何食べる?色々あるけどコレとかオススメよ?どうせソイツの奢りだし」

    「はぁ!?お前らは少し遠慮しろよ!!」

    わいわいと騒ぎながらも、合間合間に緑谷への気遣いが見えてムズムズする。どれにするか聞かれていたが、初めて聞くメニューが多く、分からないものは仕方ないと緑谷は3人のオススメに任せた。すると、あーでもないこーでもないと言いながら結局大量の料理が4人のテーブルに運ばれてきた。

    「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙やっちまったァ!!!上手いこと乗せられたァ!!!」

    「へへ、ゴチでーす」

    「緑谷どれ1番気になる?不味かったらオレら食うから好きに選んでよ」

    「あ、えぇと、どれも美味しそうな匂いがするから迷っちゃって」

    結局の所、緑谷は選べなかった。珍しい料理の数々にどれを食べたらいいか分からない。幼い頃から基本は、野菜と肉を煮込んだスープとパンを食べていた緑谷にとってそのどちらでも無い料理は未知のものだった。

    「んじゃ1口ずつとかどーよ!?んで、緑谷は気に入った物を食べるとか??」

    「えっ、でも食べさしとか悪いよ」

    「いーっていーって!!」

    「最初にこれとかどうよ?どうせひとり一個だし」

    と、目の前にポンっと、白く丸い食べ物が置かれた。どうやって食べるのか分からず、手のひらサイズのそれを困惑して見ていると、切島がガブッと齧り付いていた。それを見て恐る恐る手に取ると、見た目はツヤツヤしているのに、出来たてのパンのようにフワッとしていた。切島を見習い、思い切って齧り付く。

    上鳴達3人が、思わず緊張の面持ちでその様子をじっと見ていると、次第に咀嚼している緑谷の口角が上がっていく。そして、バッと勢いよく3人の方を見ると、もぐもぐしながら目をキラキラと見開いてすごい勢いで頷いていた。

    「お!?気に入ったかそれ?!」

    「んっ、すごい!!こんなの初めて食べた!!中にお肉が入ってるんだね!!外はフワッとしてるのに中のお肉はジューシーですごく美味しい!!」

    「肉まんって言う食べもんなんだ。だいたい寒い今の時期食うんだけどよ、ひと仕事終わったあとの小腹にこれがちょーうめぇの!」

    「ニクマン!」

    「こっちの小籠包はどう?似た食べ物だけど全然違うよ?あ、火傷しないようにな」

    「緑谷丼物好き?食ったことないならこれとかどう?」

    と、色んな食べ物が緑谷の前に置かれていく。美味しい美味しいと目を輝かせながら頬張る姿に3人は嬉しくなりついつい世話を焼いた。そうやって皆で回しながら食べればテーブルにあった料理をあっという間に平らげた。

    「はぁ〜美味しかった〜」

    「オレも満腹〜」

    「久しぶりにこんな食ったわ〜」

    「なぁなぁ!緑谷はどの料理が1番気に入った??」

    「あ、確かに!それすっげぇ気になる!」

    「オレもオレも!!」

    と、3人に詰め寄られ一瞬ビクッとするも、うーんと真剣に考え始めた。けれど、すぐに食べた種類の多さに名前が思い出せなくて困ったように言う。

    「ごめん、名前覚えてないや。サクサクでジューシーでトロトロしてたんだけど。」

    「ん〜、サクサクって事は揚げ物系か?」

    「あげ?…えっと、サクサクしたお肉と卵が白いツブツブに乗ってるやつなんだけど」

    「「「カツ丼だ!!」」」

    「あ!そう!それ!カツドン僕すごく好き!!」

    思い出してか、すごく嬉しそうに綻ぶ顔を見て3人は決意した。春先にもっと良い肉でカツ丼を作ってもらおうと。それからは、段々と世間話に移って行く。その中で、集落の成り立ちなども聞いたりした。聞けば、まだ10年も経っていない新しい集落だという。これだけ活気に満ちているのに、意外と日が浅い村だということに驚く。

    「え、それじゃあ3人とも爆豪さんに拾われたの?」

    「まぁそうなるわなぁ。オレの個性は硬化でよ。地味だけど、肉壁になるからって賊の連中に使われた。そんときは泣いて嫌がった方がひでぇ目に合うと思ってたから逆らえなくてよ。まぁ、爆豪がいなけりゃ今こうして真っ当な人間にはなれなかっただろうなぁ」

    「オレはね、親に売られて貴族ん家で実験台にされたなぁ。なんか、電気がすげぇエネルギー持ってるからってお前はずっと電気だし続けろって言われてさ。感電したらオレのことぶっ叩くんだぜ酷くねぇ?!まぁ、爆豪にぶっ潰されてからはあの家落ちぶれたらしいけどな!ww」

    「オレは運び屋してたよ。良いもんも悪いもんも、当時はリスクが高いほど金が弾んだから本当に色々。んで、死体運びしてんのが爆豪にバレて殺そうとしたら返り討ちにあって、ボコボコにされて足を洗ったわけ。オレまだこんなちっさい子だったのに、あんなに徹底的にぶちのめされるとは思わなかったしな〜」

    「アイツ子供相手にも容赦ねぇもんなwww」

    と、ゲラゲラ笑う3人とは対照的に、緑谷の顔は青くなっていく。思い返されるのは、上鳴に連れ出される前の爆豪の冷めた目付きだった。人違いだったとはいえ、いい大人が馴れ馴れしく「かっちゃん」なんて言われれば不快だろう。

    「…でも、爆豪さんって3人と歳近いんじゃないの?すごく若く見えるけど…」

    緑谷が零した言葉に3人の動きはピタリと止まる。上鳴はあー、だのえー、だのと唸っているし、切島は視線を逸らして頬をかいていた。

    「アイツねぇ、呪われてんの。だから、オレらと会った時から10年近く経ってるけど性格も見た目もずっとあんな感じよ?」

    「おい瀬呂、言っていいのかよそれ」

    「どうせ黙っててもすぐバレるでしょ。」

    「そっ…か…」

    10年前から姿が変わっていないのなら、本当に自分が知っている人物とは別人だったのだろう。本当に爆豪さんには申し訳ない事をしたと少しばかり落ち込む。

    「あ、そう言えば、なんで緑谷は爆豪のことを『かっちゃん』って呼んだんだ?」

    上鳴の質問に、瀬呂と切島が目を丸くした。緑谷は、やっぱりこの歳にもなってあだ名とはいえちゃん付けなんて子供っぽいし嫌だったろうなと思い、困ったような顔をうかべた。

    「小さい頃、幼馴染がいて。その子のことを僕はかっちゃんって言って毎日のように遊んでたんだ。5歳の頃引っ越して村を出て行っちゃったから10年以上会ってないんだけど…爆豪さんの名前も性別も一緒だったし、何となく似てたし赤い眼だったから間違えちゃった。後でもう1回ちゃんと謝りたいな…」

    「あの爆豪がソックリねぇ…まぁアイツが怒鳴るのなんていつもの事だし別に気にしなくてもいいと思うけどな」

    「でも…」と、言い淀む緑谷。けれど、そんなくらい空気を察してか、話題を明るい方に変えたのはやはり上鳴たちだった。

    「それな!オレなんて顔面爆破されるのなんていつもの事よ!?」

    「お前は借りた金返すの忘れて借りっぱなしだからだろww」

    「そーだぞ!あの爆豪が貸してくれるだけありがたいと思えよ。つーかお前なんでそんなに金借りんの?そこそこ稼いでるだろ?」

    「美味いもん食い歩いてたら装備買う金が無くなったから借りた!」

    「ひぃーwwww馬鹿だろ!!!wwww」

    「アホだァーwwww」

    「爆豪だってオレの食いもん半分は食ってんだから妥当だろ!!」

    そのテーブルはあっという間に笑いに包まれる。3人の仲の良さと、テンポよく行われる会話に自然と緑谷もリラックスしていた。美味しいものをおなかいっぱい食べて、こんなにも楽しい会話をしたのは久しぶりだった。

    「3人ともありがとう。見ず知らずの僕を助けてくれて」

    思わず出かかった涙を堪えながらそう言うと、3人はまた明るい顔を緑谷に向ける。

    「おう!でもそう言うのは爆豪に言ってやれよ」

    「最終的に決めたのはアイツだしな」

    「ぶっきらぼうで素直じゃ無いけど意外と全部照れ隠しなのよ?」

    「…うん」

    ラスが信用しているほどなのだから、悪い人では無いことはわかっている。だが、睨まれたりため息や舌打ちをあんなにも沢山露骨に向けられた事が初めてだった緑谷にとっては苦手な部類に入る人だった。それに、爆豪からしたら初対面で馴れ馴れしい態度だった緑谷の印象も悪いだろう。考えれば考えるほど気が重くなる。

    「んじゃオレらそろそろ行くわ」

    「あ、緑谷、オレらも付いてっていーか?」

    「え、僕はいいけど…」

    「おいおいオレには確認取らねぇのかよ?つーか仕事は?」

    「オレら今日の午後は休みなの。それにお前は別に着いてっても文句言わねぇだろー」

    と、言うと、今度は4人で食堂を後にした。周りをキョロキョロと眺めながら、また、緑谷からの質問攻めが始まる。最初はオドオドとしていたのに、今ではすっかり気を許してくれた様子で3人は微笑ましくそれを見守っていた。

    「なんだか移民族の集落って言うよりも本当に村みたい」

    「まぁ実際そんな感じだな。冬は基本一定の場所に留まるからよ、ある程度頑丈にテントを張るんだ。それに、ウチの集落にはモノを小さく出来るやつも居るから、移動するのにものが多くてもさほど困らねぇんだ」

    「だから集落なのにあんなに立派な見張り台とか囲いしてあるんだね」

    「そ、周りを柵で囲んじまえばこういう開けた場所でも魔物や賊に襲われる心配も少ないしな」

    移民族と自称するには、要塞のような囲いがある理由も納得できた。良い村はどんなに貧しかろうと、人が集まり、表情が豊かだ。ここの集落でも、緑谷が店のテントを通りかかる度に優しく声をかけてくれた。行き倒れていた子だと分かるやいなや、病み上がりの緑谷にあれよあれよとものが手渡され、今はその両手には、お土産に持たせてくれた干し肉やお菓子、ラスの為の人参の入った袋を抱えていた。

    「あ、おーい爆豪ー!!」

    話に夢中になっていると、上鳴が呼び止めた。ビクッとして緑谷が上鳴たちの方を見ると、その先には羽が着いたままの息絶えた鳥を手にぶら下げた爆豪がいた。こちらに気が付くと、とても不機嫌そうな顔で眉を顰める。

    「ンでテメェらがここにいんだよ」

    「リカバリーガールに言われて緑谷を案内してた。家で爆豪を待ってるっつってたけど、顔だしてねぇの?」

    「別に、さっき送ってきたわ」

    「なんだ、んじゃ知ってんじゃん」

    爆豪はフンっと鼻を鳴らすと、そばに居た神獣へ鳥を投げた。狼のような神獣は、器用に口でキャッチするとあっという間にひと飲みにし、ペロリと口周りを舐める。毛並みも良く、体格も大きいので、かなり位の高い神獣なのだろう。

    「…オイ」

    「ひっ、あ、爆豪さん」

    「…ん」

    神獣に見とれていて、爆豪が近寄ってきたことに気が付かなかった。思わずビクッとして声を上げると、ずいっと何かが握られたこぶしを突き出される。恐る恐る手のひらを差し出すと、ポトリとその上に何かが落とされた。

    「…これ…」

    「やる。肌身離さず着けとけ」

    それは、赤い石がひとつ付いたペンダントだった。自分には似つかわしくないほどキラキラと輝くその石が魔石だと、手に取った瞬間緑谷は気がついた。

    「ぼ、僕、こんなに希少な物受け取れませんっ!!」

    「アァ!?受け取れや!!クソかテメェ!!!」

    「いやいや無理ですよ!?ただでさえ純度の高い魔石はすごく高価なんだよ!?そんなのホイホイ訳ありな人間に渡さないで下さいよ!!」

    「うるっせぇわ!!瀬呂ソイツ抑えろ!!!」

    「え〜、まぁイイけど」

    そう言うや否や、がっしりと背後から緑谷は抑えられる。ノリの軽さに驚きつつ、抵抗してみるも一瞬で掠め取られたペンダントをすぐに首に着けられた。舐め回すように爆豪がジロジロと出来を見た後、フンっと鼻を鳴らして瀬呂に解放するように指示した。

    「っし。手間かけさせやがって。あ、それオレ以外には外せねぇようになってっからな」

    「えっ!?ちょっ!?くっ、ホントに金具外れないじゃん何してるんですか!?」

    「ちなみにテメェの頭より小さい首紐も魔獣のたてがみを束にして作り上げたもんだから壊したらぶち殺すからな」

    「ホントに何してんの!?!?」

    パッと首紐から手を離す緑谷。魔獣のたてがみ自体はそれほど高くないが、編まれた紐となると一気に価値は跳ね上がる。1本1本が手作業でしか編めないため、その価値は魔石に引けを取らないほど高価になる。田舎の集落で暮らしていたため、全て本で書いてあった情報でしか知らないが、脅すように言うあたりそうなのだろう。緑谷のペンダントを触る手つきが一気に優しくなった。

    遠くの物見台からカンカンと金属音が集落に鳴り響く。

    「あ、もうこんな時間か。じゃあな緑谷〜」

    「テメェら、それで南側の見張り連中に何か奢ってやれ」

    「マジ!?」

    「やったぜ!」

    「おつかれー!!」

    「へ??」

    ジャラジャラと音が鳴る小袋が3人に投げられた。恐らくお金だろうそれを受け取ると、3人はウッキウキで足早に去って行く。その場に残された緑谷と爆豪。

    「行くぞ」

    手をガッチリと握られて移動する。ラスはいつの間にか、爆豪の神獣の背に乗せられてのんびりとしているのを視界の端に捉えた。

    「…ふぁ!?」

    しばらく経ってからその事に思い至った緑谷は、おっかなびっくり移動する。手を引きながらズンズンと前を進む様子を後ろから眺める。

    「(…違う…はずなのに…)」

    どうしても脳裏によぎる幼い頃の思い出に泣きたくなった。




    ……




    「…あ?」

    昼過ぎ見張りを交代し、2人分の食料を買って帰れば、そこにはババアが居座っており呑気に茶を啜っていた。このババアが、好き勝手に人の茶を飲むのは今に始まったことでは無いが、一人で飲んでいるのも珍しい。

    「何してんだババア」

    「相変わらず失礼だね。緑谷なら上鳴が集落の案内をしているよ。戻ってくるのは夕方くらいなものかね」

    要は爆豪にあるらしい。手に持った食料を床下の虚(うろ)に入れたのを確認すると、すぐに要件を話し出した。

    「アンタの約束の子ってあの子だろ?」

    「…」

    「まぁ、アタシはどちらでも構わないけどね。でも、ここに留めて置くつもりならもう少しあの子に優しくしてやんな」

    「あぁ??」

    目を釣りあげて聞くその態度に、リカバリーガールは深くため息をついた。爆豪の分のお茶を入れると、「ハリボーもお食べ」と差し出した。

    「ほんの少し話して分かったけど、あの子は真っ直ぐに対応しないとアンタの好意には気が付かないよ」

    「それでいいんだよ。むしろ何の問題もねぇわ」

    「バカだね。余計な厄介事が増えるよりはある程度普通に接しろって言ってるんだよ。村の長に厄介者扱いされて居座ってくれる程、あの子は厚顔無恥な子じゃない。むしろ進んで出ていこうとするタイプだね」

    「……チッ」

    茶をグイッと飲む。何処までお見通しなのか、リカバリーガールは呑気にお茶を啜っていた。爆豪も、リカバリーガールのその指摘が適切な事が分かっているので反論できずに舌打ち程度しか零せない。

    「なんでアンタはそんなにあの子を遠ざけるんだい?手元に置いておきたい癖に…神付きだからって理由じゃないんだろう?」

    「…んじゃ聞くけどよリカバリーガール。アンタは…仮に"自分のせいで"死んだ大事やつが生き返ったとして、ソイツの意見を無視してまで添い遂げたいと思うか?」

    「…!」

    普段穏やかなリカバリーガールの眉間に皺がよる。貰ったハリボーをグチグチと粗食すると、爆豪はその甘ったるさに顔を顰めた。

    「…オレは…アイツに幸せになって欲しい。そのためにアイツの自由を奪うんだ。そこに情を挟んだら…オレはアイツに何をするかわからねぇ。多分オレは、無理やりアイツを自分のモンにする。

    それが…出来ちまう人間なんだよ」

    「…馬鹿だねぇ」

    「うっせぇ」

    奪い取るようにして、2人分の湯のみをさっさと片付けると、爆豪はリカバリーガールを彼女のテントまで送って行った。その間、2人は終始無言だった。

    「これからどうするんだい?」

    テントに着いた時、リカバリーガールがただそれだけを聞いてきた。爆豪はさも当たり前のように告げる。

    「頼んでた宝珠を回収した後、すぐに"結界"を貼り直す。んで、アイツをココに縛って終わりだ。死のうが生きようが、結末は春になれば全て分かる事だしな」

    「…気張るんだよ。この村の人間は、アンタに何かあった時何をしでかすか分からないからね」

    「おう」

    そう言って爆豪は、振り返ること無く片手だけ振って歩き去っていく。鍛冶屋に行く道すがら、店先で色んなやつに話しかけながらついでに必要なものを買い揃えて行った。人通りの少なくなった所で、千が語りかけてきた。

    『勝己、腹が減った』

    「あー、後でなんか買ってやる」

    『アレがいい。この間食った肉が食いたい』

    「あぁ!?…はぁ、無かったら別なもので我慢しろよ」

    『うむ、だが…いいのかバクゴー?言うか迷ったが、イズクの事、また後悔するかもしれないぞ』

    「…」

    『…相変わらず難儀な性格だ。引き返すなら今だぞ?』

    そう言うと、千は1度だけ尻尾を横に揺らす。爆豪は、その頭をワシャワシャと撫でると声を低くして言った。

    「お前にまで気遣われたら決意が揺らぐから言うんじゃねぇ。…もう分かってんだろ。オレらは、"ここに居る"時点でもう二度と戻れねぇんだよ」

    『…そうだな。すまない、愚問だった』

    「…おう」

    それだけ会話をすると、少年と神獣の目つきは鋭いものとなる。これから先は、もう後戻りは出来ない。たとえ、その行いによって身を滅ぼすことになろうとも。


    …最愛の人に憎悪を向けられる結果になっても…




    ……





    「爆豪さん、夕飯ありがとう…ございました」

    お礼を言うと、眉間に皺を寄せながら手際良く食器を片付けていく。爆豪の料理は、それはそれはもう昼間食べたものとは比べ物にならない程美味しかったのだが、その時に緑谷が手伝いを進言したところ何故かブチ切れられてしまったため、片付けも大人しく任せた。恐らくは厨房に立たれるのが嫌いなタイプの人間なのだろう。居候させてもらっているのに、怒らせてばかりで緑谷は落ち込んだ。

    ものの数分で片付けが終わったのか、すぐに戻ってきた爆豪は、ズカズカと緑谷を引っ張り寝室へ歩いていく。寝室は爆豪のベッドと、その下に緑谷用の布団が敷いてあり、今朝と何ら変わりのない景色だ。爆豪は、荒々しくドカりと自分のベッドへ座り込む。その動作にビビったのか緑谷はラスを抱き抱えながら、そっと自分の布団の上に正座で座った。

    「……」

    「…」

    なかなか始まらない会話に、爆豪の神獣が足元で急かすように膝をつつく。それにまたひとつ舌打ちを打つと、緑谷はさらにビクリとして体を縮こまらせた。

    「いちいちビビるんじゃねぇ。別に取って食いやしねぇわ」

    「あ、ごめんなさい…」

    「…敬語もやめろウゼェ。あと寝る時くらいその帽子外せ」

    「あ、えっと…うん」

    緑谷のオドオドとした態度に埒が明かないとばかりに爆豪がガシガシと頭を搔く。ギロリと睨み付ければ、帽子を外した羊はビクリと肩を跳ねさせる。

    「めんどくせぇから手短に話すぞ。まず1つ…もうテメェはこの村から出られねぇ。2つ、オレとソコのラスは別契約した」

    「え?…は??待って、ラスと契約したのは本人から聞いてたけど、僕がここから出られないってどういうこと??」

    緑谷の目が不安げに揺れる。けれど、爆豪からは次々に死刑宣告のような言葉が吐き出された。

    「ラスとの契約内容は言えねぇ。ただ、テメェがこの村から出て行くっつうなら、ペナルティでオレと千…この神獣との契約がぶっ潰れる。怒り狂ったコイツを止められるやつはこの村に居ねぇから漏れなく全員食い殺されるだろうな」

    「っな!?」

    「んで、ついさっきこの村に結界を張った。テメェ所かこの村その物の気配を消す結界だ。そしてソレ」

    爆豪が緑谷の胸元を指さす。丁度、無理矢理着けられたペンダントがぶら下がる位置だ。それに、酷く嫌な予感がした。

    「ソレにはオレの術式が掛かってる。この結界と連動する…な。つまり、テメェはもうオレの許可無くこの村からは出られねぇ。俺を殺したきゃ好きにしろ。ま、殺った所で千が暴走してどの道この村は終わりだけどな」

    爆豪の話が終わる頃には緑谷の顔はすっかり青くなっていた。それもそうだ。上鳴から聞いていた話は、爆豪が暴れるラスを落ち着かせるために簡易的な契約をしたということ、そしてその後ラスと正式に別契約したということのみだった。てっきり自分の怪我が治るまで留まることについて契約を結び直したんだと思っていた。

    だからこそ、怪我がほとんど完治した今は魔力がある程度回復したら、すぐにでも集落を出ていく準備を進める気でいたのだ。ついさっきまで。訳アリの自分がここに留まれば、いつかこの集落に危害を加えてしまいそうで恐ろしかったからだ。

    それを、集落の全てを使って人質に取られた。神付きである緑谷には爆豪の神獣の位の高さがよく分かる。分かるからこそ、契約を無碍にすれば、爆豪の命どころか集落へどれ程の惨い制裁が加わるか未知数であった。軟禁なんてぬるいものじゃない。村ごと利用した監禁だ。

    「なんで…こんなこと…」

    「あ?ンなもん、ソイツとオレの利害が一致したから契約したに決まってんだろ。恨みたきゃ恨め。ま、テメェは外じゃもう"死んだも同然"だけどな」

    「…!!」

    「もう寝ろ。千、行くぞ。見回りだ」

    「…ゥワッフ…」

    それだけ言うと、爆豪はさっさと部屋を出て行った。千は、1度だけ、何かを言いたげな顔で緑谷を見た後、足早に部屋を出て行った。足音が遠ざかってから緑谷は無意識にラスを力強く抱き抱えていた腕の力を弱めた。

    『…』

    羊は何も答えない。内心、勝手に契約した事を咎められるかと思って動けなかったと言った方が正しい。

    他者との別契約は拘束力が本契約よりも弱いと言えど、同様に内容は当人達のみの極秘事項だ。そもそもとして、自分の唯一とも言える神獣が他人と契約することに対して良い顔をする使い手は余りいない。自分以外の命令に多少縛られることもあるからだ。だからこそ、そんな契約を勝手に結んだラスに対して憤りを感じてもおかしくない筈なのだ。

    けれど、不意に頭の上にポタポタと落ちてきた液体に、ラスは主人が泣いているのだと悟った。

    「ごめんね…僕が…不甲斐ないから…弱いから…また君に嫌なことをさせた…ずっと君には辛い思いさせてばっかりで…ごめんね…」

    『ッ…』

    あぁ、そうだった。ラスの自慢の主人はどこまでも優しい人だ。悲しいくらいに優しい。その優しさで誰かが泣いているとも知らずに、無限に愛情を振りまく。手を差し伸べる。

    不甲斐ないなんてことは無いと、伝えられたらどれだけ良いだろう。神付きである緑谷は、神獣の言葉を簡単に理解してしまうが、心情を察せるほど器用ではない。きっと、慰めたところで「ラスは優しい子だね」と自分の弱さを恥じたまま悔しさや悲しさを押し込めて泣きながら無理に笑うんだろう。

    そんなものをラスは望まなかった。だから、自身の思いが届かなくとも、せめて思い切り泣けるように寄り添ったまま身体を預けた。

    1人と1匹は、しばらくそうして泣いていた。





    ……



    「集まってんな」

    集落の中でもいちばん広い食堂。昼間、緑谷たちが訪れたそこは、集落の方針を決める際、夜に各家族の代表が集まり話し合いをするための場所でもあった。現に、そこに集まった者達は皆、神妙な面持ちで爆豪と千を見ている。

    「切島達と…それから今日店やってた連中は何となく分かってると思うが…先日保護したアイツがオレの"約束"の相手だ」

    目を見開く者、納得する者、難しい顔を浮かべる者、反応は様々だったが、爆豪がここまでなんの説明もなく"森の住人"を助けたり、結界を貼ったりした事への理由は明らかになった。けれど、いくら爆豪の相手とはいえ、受け入れてもいいものか、判断材料が少なく困っているようだった。

    「まず初めに、アイツの紹介をしておく。名前は緑谷出久、神獣はラス…恐らくオレの千と同程度のランクだ。そんで、アイツ自身"神付き"だ。言わなくても分かってるとは思うが、アイツは色んなやつから狙われてる。だから、アイツが自衛の術を身に付けるまではここに置いておく」

    「本当に理由はそれだけか?」

    「…」

    「理由にしては弱すぎんだよ。そんじょそこらの賊なんざ俺らの敵じゃねぇ。わざわざ目くらましなんざ必要ねぇだろうがよ」

    切島が質問をすると、それに同意するかのような声が次々に上がる。

    「確かにオレらは賊からの襲撃になんて慣れっこだもんな」

    「神付きっつってもな。それ言ったら獣人やらが多いこの集落に1匹羊が増えたようなもんだし」

    確かに結界の理由はこれでついた。けれど、まだ爆豪は隠している。ザワザワと騒がしくなる中、爆豪が手を挙げて静止する。それだけでザワ付きが嘘のように静まり返る。

    「もう1つの理由はテメェらに頼みてぇ事とも直結してんだよ。内容は簡単だ。アイツをこの村から逃がすな。アイツは…─────────」

    爆豪が告げたその言葉には皆驚いていた。中には顔を見合わせて信じられないという顔をしている者もいる。

    「だが、そんな様子は無かったぞ?」

    「パッと見で分からなかったが…お前と同じ"系統"か?」

    「…恐らく全くの別モンだ。けど、かなり力が強い。昨日そこの切島が珍しくうたた寝なんかしてやがったから、試しに廃材の魔石を袋に詰めて置いてたらビンゴだ。あんだけあった魔石は一日で朽ちた。念の為に鎖で繋いでた道から…オレの魔力も多少持ってかれた。ペンダント越しに"今も"な」

    爆豪の出した袋の中には、確かに砂の塊が入っていた。魔石の廃材は、綺麗な色ではあるが廃材とだけあってクズ切れ同然で人には使えない。けれど、それでも魔力を多量に含んだ石だ。袋一杯に入っていたとなれば、総魔力の量は相当な物だったはずだ。それが、ただの石に戻るどころか砂に還った。それでも足りないと欲する力。

    「元々神獣を酷使しすぎて魔力が枯渇しとったから魔石が朽ちることは仕方のねぇ事だ。今は"神付き"の力とも拮抗しあって統率が取れとる。

    …だが、それもいつ崩れるかは分からねぇ綱渡りみてぇなもんだ。だから…"先生"を呼び戻さねぇとならねぇ」

    その言葉にザワザワとどよめきが走る。

    「無茶だろ爆豪。先生って"イレイザーヘッド"の事だろ??今あの人南の国の方に行ってんだぜ!?無茶だ!!」

    「無茶でもやらなきゃ遠くねぇうちにアイツが死ぬ。…オレも、付いて来れねぇやつに無理に頼もうなんざ思ってねぇ。ただでさえオレの私情でテメェらには負担を強いとる。でも、もう止める訳にはいかねぇんだ。アイツが真っ当に生きれるまででいい。それまで…頼む」

    そう言うと、爆豪は頭を下げた。あの爆豪が…だ。それを見て、誰もが息を飲む。

    「…なぁ、爆豪は最終的に緑谷をどうしたいんだよ?」

    そう真剣な顔で聞いてきたのは、上鳴だ。今日、緑谷と一日中一緒に歩いたからだろう。緑谷と、少し関わっただけでも分かる人の良さ。苦労してきただろうに、本人はそんな事など無かったかのように…まわりに心配をかけないように笑うのだ。

    「オレはちょっとしか関わってねぇし、神獣の事はからきしだけど、それでも緑谷が人の良い人間だって言うのは分かる。お前は…アイツを助けた後どうすんだよ?」

    その質問に、爆豪が僅かに口を食いしばる。長い付き合いであるその場にいる人間は、爆豪がほんの少しだけ動揺したことに気がついたが、誰も口に出すことは無かった。

    「…どうもしねぇ。好きにすりゃいい。ここに残るのも、旅に出るのも…オレはあいつを尊重してやるし、援助もしてやるつもりだ。事が片付けば、この村にも、もう迷惑掛けるつもりはねえ」

    そう言い放つ言葉に嘘偽りは無いのだろう。住人達を見て真っ直ぐに言い放った。けれど、その場にいる者たちは、その言葉に寂しさを感じた。この村の住人は爆豪を信頼しているし、何よりも住人が皆、家族のような存在なのだ。だからこそ、その他人行儀な様子がむしろ嫌だった。

    「水臭いなぁ。ここまで一緒にやってきてさ〜」

    「だな。男なら一蓮托生!!お前について行くって決めてんだ!!最後まで力になるぜ爆豪!」

    切島と瀬呂の言葉を皮切りに、素直ではない住人達から次々と声が上がる。「仕方ねぇなぁ」「今度なんか奢れよ」と言った言葉から「まずは何すりゃいいんだろうな?」「イレイザーなら多分マイクと一緒だろ?」と言った声が次々に上がっていく。

    爆豪の方は、そんな反応になると思ってもいなかったのか、目を見開いて驚いていた。

    「つーわけだからっネ?族長、オレら何すりゃいい??」

    隣で瀬呂がニヤリと笑う。爆豪が周りを見渡せば、皆同じように期待に満ちた顔をしていた。爆豪は、その優しさに歪みそうになる顔を無理やりこらえてニヤリと笑みを浮かべた。

    「ハッ…バカだなテメェら…。

    第一、第二、第三部隊はこのまま待機。第五から第七部隊までは第一から第三部隊の指示に従え。第四部隊は首都へ救援を要請してこい。第八、第九部隊は南方への出立準備だ」

    「およ?なんで首都??」

    「出久を狙ってんのは、恐らく普通の賊じゃねぇ。元々"オレらも"探ってた連中の可能性が高い。敵の数がわからねぇ以上、放電出来る上鳴は必要だ。それに交渉なら切島よりもテメェの方が向いてんだろ」

    「!…マジかよ。りょーかい。緑谷の事は話さねぇほうがいいんだよな?」

    「おう。千、第四部隊に"眷属"を貸してやれ」

    「ウルルッオオォオ─────────ッ!」

    千が吠えると、影から勢いよく何かが飛び出した。数匹のそれらは、すぐに形を成し、狼の姿に形を変える。上位の神獣である千の眷属の神獣たちだ。

    「待機する部隊以外は工房のジジイから"導の石"を貰ってから行け。第八、第九部隊は先生が見つからなくても次の移動前には戻ってこい。…そんときには全て終わってるからな。命令は以上、各自行動を開始しろ!」

    『了解!!』

    号令が飛び交うと、その場からすぐに人は居なくなった。1人になったところで、ようやく爆豪は力を抜いてその場に座り込んだ。

    『大丈夫か?』

    「あぁ…問題ねぇよ…ただ…」

    『ただ?』

    「アイツらもバカだと思ってな」

    『…カツキは本当に素直じゃないナ』

    「お互い様だろうが」

    爆豪は片腕で目元を隠すと、天を仰いだ。しかし、顔を隠していても、頭を伏せた千からは、堪えるように引き絞られて震える口が目に入った。

    『(本当に何年経っても変わらない。見ているこちらがもどかしくなるほどに)』

    パタパタと千は尾を動かす。いつもなら埃が立つと怒鳴る口も今日は一段と静かだ。やがて、ポタポタと堪えきれなくなった水滴が落ちてきても知らないフリをして…主人の代わりにテントの外で動き回る住人達の様子を見に出かけた。

    賽は投げられた。

    後は、地獄まで転げ落ちるか、望んだ未来にしがみつくか。


    『どちらにしても…愛し子達の幸福を願うばかりだ…』


    1匹の狼はフラリと暗闇に解けるように消えた。






    魔獣
    魔石を取り込んだ動物。魔力があり、通常個体よりも気性が荒く強いだけで、動物と大差はない。肉は固く、筋肉質であまり食用には向かないが、皮や骨はとても丈夫な為、武器や防具として重宝されている。素材は安価で取引されるが、加工は難しいものも多く、金額には出来によって差が出る。

    堕神
    神獣が穢れや呪いによって堕ちた者。詳しい生態は分かっていない。呪いによってありとあらゆる物を汚染する。殺さない限り止まることは無い。

    眷属
    力の強い神獣が持つ場合のある低位の神獣。眷属を持つ神獣は、個性を持つ神獣と同じ程稀である。眷属と言う扱いではあるが、一応フリーの神獣であるため日雇いのバイトのようなもの。

    ペンダント
    魔力を込めた人間の魔力を送るための物。言わば魔力の通り道。ペンダントの持ち主の要望に応じて魔力源の人間から魔力を供給出来る。緑谷が貰った物には、金具に錠の呪(まじな)いがかかっているので外れない仕組み。

    導の石
    指定した場所まで導く石。魔石を加工したもの。方位磁針のような役割であるが、指定された場所を指す方角は何物の妨害も受けない。








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