ポロシャツ工場　おはようございます。
　小林様の今朝の体温は三六・五度。血圧は一三五、八五mmHg。正常値の範囲です。就寝時間は五時間一四分。予想睡眠時間が五時間七分。睡眠時の心拍は安定しています。小林様の起床予定時刻が近づくと、当方は就寝カプセルのセンサーから送られてきた情報を確認します。
　本日の天気は快晴。予想最低気温は二七度。予想最高気温は三五度。今年に入って初めての猛暑日です。通気性と速乾性に優れたプロダクトをラインにオーダーします。カラーは紺。胸元のポイントは当方の職務範囲外です。
　小林様はまだ眠っておられます。就寝カプセルが開放されていないことからその事実が伺えます。小林様が丁度身体を収めることが可能なサイズの筒状のカプセルは、透明なカバーを通してお顔を見ることもできます。閉じた瞼の下で眼球を忙しなく動かしておいでですが、お目覚めになるご様子はありません。通常小林様は起床予定時刻に設定したアラームよりも二分ほど早くお目覚めになりますが、今朝はどうやら少々ごゆっくりお過ごしのようです。また星の夢をご覧になっているのでしょうか。当方はこの工場から出る機会はありませんので、星を目にしたことはございません。これからも見ることはないでしょう。

ジグソーパズルする聡狂「おはよ」
　聡実が目を擦りながら起き上がると、低い声が柔らかく投げかけられた。成田狂児がテーブルに片肘をついて聡実を見つめている。襟元を緩めたこの男が、この近くに勤めてて、仕事終わりにちょっと飲んだんです──と言ったら、人は信じてしまうのだろうか。本当は鶴の刺青を背負った極道である。
「僕どんくらい寝てました…」
「んん──三十分くらいやな」
　狂児が店内の時計を見て応えた。
　夜勤に入る前、「今日店いるヨ」というメッセージが来ているのは確認していた。退勤してそのまま、歩いて五分ほどのスナックへ向かう。半分閉まったシャッターをくぐって階段を上がり、扉を開く。営業が終わって一通り片付けの済んだらしい店内で、狂児が箱型のスツールに腰掛けてテーブルの上を見つめていた。